第23話 魔法少女だって就職活動ぐらいする1

「で、あたしに相談って何?」

「えっと・・・ですね・・・」


夜8時のファミレスで俺こと園田茂部雄はスーツ姿のアラサー魔法少女で従姉妹のなぎさ姉さんと話している。

これだけなら久しぶりに会った親戚と晩飯を食べながら人生相談をするという、特にこれといって特別な場面ではない。だが、今日に限ってはいつもとは違う点がひとつあった。


「わたしが茂部雄さんにお願いしたんです!なぎささんは魔法少女のレジェンドだとお聞きしました・・・お願いです!私に魔法少女の就職活動について教えてください!」

今現在頭を下げているこの少女の存在である。

背は155センチほど、ポニーテールが特徴的で活発で元気そうな女の子だ。目が大きく、スタイルと顔もいい。まさに今後が楽しみな女の子だ。


「・・・茂部雄・・・この子は?」

「友達の妹の愛野 めぐむちゃん、中学2年生でどうやら魔法少女を目指しているらしくて・・・」

「なるほど・・・」


そう、俺がなぎさ姉さんと会っている理由がこの子だ。どこから聞きつけたのか知らないが、親戚に10年以上魔法少女を続けているベテランがいることがバレ、現在進行形で魔法少女を夢見る妹の相談に乗って欲しいと頼まれたのだ。


だが、まさか相談内容が就職活動についてとは想像しなかった。というか、魔法少女に就職活動なんてあるのか?あるとしてもそんなシビアな現実は見たくないのだが・・・


「フー、あなた・・・魔法少女になりたいって言ってるけど・・・この仕事、そんなに甘くないわよ?」

なぎさ姉さんがタバコをふかしながら厳しい表情できっぱりと言い放った。その風貌は完全に魔法少女ではなくスレた30歳のOLだ。

対してめぐむちゃんも物怖じせずに言い返す。

「はい!魔法少女になるための覚悟はできています!」

その目は相手をしっかり見つめ返し、一切の曇りがなかった。

この子は本当に覚悟を決めてここに来たのだろう。

きっぱりと言い放っためぐむちゃんを見てさぎさ姉さんもその覚悟がわかったらしい。

「そう・・・じゃあまず私の話を聞いてそれから判断してちょうだい。私の話を聞いて無理だと思ったら魔法少女は諦めなさい、わかった?」

「はい!」

元気のいい返事を返すめぐむちゃんの目はキラキラ輝いていた。


さて、無事に2人を引き合わせたわけだし俺は帰るか。

「じゃあ俺はこのへんで・・・」

そう言って立ち去ろうとした瞬間

ガシッ、となぎさ姉さんに手首を思いっきり掴まれた。

にっこりと笑顔で、それはもう、万力のような力で。

「いだだだだだ!何するんですか!?」

「ちょっと待ちなさい、何1人で帰ろうとしてるの?」

「いやだって俺がここにいてもしょうがないでしょう?」

「バカね!私とあの子、どれだけ年が離れてると思うの?倍近く離れてるのよ!あ、倍じゃなくて倍『近く』ね!ジェネレーションギャップで話し通じなかったらどうすんの!そんなことになったらアタシはショックでどうにかなるわ。だからあんたが間に立って調整役をしなさい。わかったわね!」

「えぇ・・・そんな面倒くさ・・・痛っちょ痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいい!」

面倒くさいという気持ちを表情に出した瞬間、手首を粉砕するかのごとくものすごい力で圧迫された。

「ね?お願い☆」

「わかりました!わかりました!だから手を放してああああああああああああああ!」


お願いという名の脅迫に屈した俺は、話が終わるまで同行することになってしまった。身体能力はゴリラ並なのにメンタルは繊細なのだこの女は、とても面倒くさい。

「さてと、じゃあ話の続きね」

何事もなかったかのようになぎさ姉さんは話を続けた。

「まず魔法少女ってのはね、常にみんなのお手本にならなきゃいけないのよ。でもそれってとてつもなく厳しいことなのよね」

「なるほど・・・確かにみんなに夢を与える存在ですし、常に気を張っていなきゃいけないですよね・・・」

めぐむちゃんは話を聴きながらいつのまにか取り出した手帳にメモを取っている。その様子はまさしく先輩社員の話をメモする就活生のようだった。

「そう・・・魔法少女としての信用を積み重ねるのはとても時間がかかるけど、崩れ去るのは一瞬なのよ・・・私もそうだった・・・」

「え?なぎささんも何か失敗したんですか?」

「そうね・・・あの時は私も若かった・・・」

そう語るなぎさ姉さんの目ははるか遠くを見つめていた。もしかしてこの人は俺が知らないだけでいろんな大人な経験をしてるんじゃないか?やはり魔法少女といえど1人の人間、過ちの一つや二つあるのだろうか。

なぎさ姉さんは達観した表情のまま話を続けた。

「あのときの私は学業と魔法少女を両立させようと必死で頑張っていたわ。寝る時間や自由な時間を削ってね・・・でもね、ある日限界を迎えたのよ」

「げ、限界って・・・」

めぐむちゃんは真剣な表情で話に聞き入っている。

「そう・・・あの日は寝坊して学校に遅刻しそうだったから朝の身支度をほとんどしないまま家を飛び出してしまったの。その時の私は朝時間がないせいで目にクマができてたし、髪もボサボサだったわ。そのまま学校へ行くとタイミング悪く授業中に怪人が出現してね、仕方ないから女の子の日って言い訳をして保健室に行くって嘘ついたの」

「いやもうちょいマシな嘘あるでしょ」

「そして怪人が出た場所について魔法少女に変身したときだった・・・2人とも知っての通り私たち魔法少女が変身するときは、よくわかんない謎の光に包まれながらコスチューム姿に変身するの。あの時って実は私たち全裸なのよ」

『え?そうなんですか!?』

めぐむちゃんと俺が同時に驚きの声を上げた。まさかあの神秘的な変身シーンにそんな秘密があったとは・・・これからあのシーンを見る目が変わってしまう。

「まぁちゃんと全身謎の光で隠れるのよ・・・でもねその日に限って謎の光の調子が悪くて・・・隠しきれてなかったの・・・」

「隠しきれなかったって・・・まさか・・・」

全裸で女の子の隠くさなきゃいけない部分ってそんな・・・

「そう・・・


処理しきれなかったワキ毛がね・・・」




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