第11話 ラノベヒロインたちの決して負けられない戦い1

この世には、決して負けられない戦いがある。

そんな戦いが今、この小会議室で起こっていた。


「それでは、第13回ヒロイン会議を始めます」

俺は学校の小会議室の中、5人ほどの女性の前でそう言った。

その会議室の中には、とても普通の高校とは思えないような緊張感があった。

空気が重苦しい、そこにいる女性全員の目がとても怖い。

それもそのはずだ、これからこの場で彼女たちの運命を決める戦いが始まるのだから。


「いやー、よくこの会議に出る気になれるなぁ、あんたらみたいなブスが選ばれることなんて絶対無いのに」

「はぁ・・・?よくそんな口が叩けますね・・・たかが幼馴染のくせに・・・」

「まぁまぁ!どっちもどうせあたいに勝てないだからケンカすんなって!!」

「うるさいですよー、全く皆さんみたいな下品なド腐れ女にお兄ちゃんは渡せませんね」

「まぁまぁ皆さん落ちついて・・・」


早速言葉による戦いが始まっている。

この会議をやる度にこの人たちはケンカをしている。

まぁそれも無理は無い。

なぜならこの5人は、


「伊織 飛鳥」という1人の男を取り合う恋敵同士なのだから。


忘れてしまった人のために解説するが、「伊織 飛鳥」とはいわゆるこの世界の主人公的な存在だ。

この世界は5種類の人間に分けられる。

一つはこの世界の中心である「主人公」

二つ目はその主人公のパートナーとなる「ヒロイン」

三つ目は主人公に関わる「サブキャラ」

四つ目は主人公と敵対する「敵キャラ」

そして、最後の五つ目が俺のようなその他大勢の「モブキャラ」


皆それぞれ役割は違うが、1つでも役割が欠けたらこの世界は成り立たない。

これら全員が存在することによってこの世界は存在できているのだ。


そして今回議論の中心となっているのが、その役割の一つ「ヒロイン」だ。


ヒロインというのは、この世界において主人公の次に重要だ。

その存在自体が主人公の戦う理由である時もあるし、主人公と共に巨悪を打ち倒したり、主人公の心の支えとなったりもする。

主人公の行動する源、それがヒロインなのだ。

もし、ヒロインがいなければ主人公は戦うことすらできないかもしれない。

そんな大切な存在なのだ。


しかし、それほど重要な存在となれば自然と競争率も高くなる。

特にこのテンプレ最強系ハーレムライトノベル主人公「伊織 飛鳥」のヒロインとなると倍率はめちゃめちゃ高い。

最初から何人もの競争相手がいる上に、イベントが起こる毎に競争相手が増えるのだ。

いつまでも終わりの無い戦いを強いられる、それがヒロインを目指すということなのだ。

しかも、落とさなければいけない相手は超テンプレ鈍感系ラノベ主人公だ。

ちょっとやそっとの駆け引きでは、ヒロインの座をつかむことはできない。

そこで「伊織 飛鳥」を落とすため、上位のヒロイン候補同士が有用な情報交換をするための会議の場を設けた。

それが現在開かれているヒロイン会議だ。


ここでは新たに編入してくる新しいヒロインの情報や、伊織の最近の女性の好みなどを分析し対策を練ることが目的なのだが・・・


「うるさいんですけどーメガネブスー」

「誰がメガネブスですか・・・あなたみたいな地味顔よりはマシですよ・・・」

「んだとコラァ!!やるってのか!ああん!?」

「まぁまぁ!どっちもブスなんだし醜い争いはやめたほうがいいぞ!ガハハハ!!」

「あーやだやだ、こんな低脳ゴミ集団と一緒にいたら脳が腐っちゃいますね。はやくお兄ちゃんに会わなきゃ」

「みなさんやめましょうよー」


と、まぁ毎回醜い言い争いが始まってしまうのだ。

付き合うこちらの身にもなって欲しいものだ。

「皆さん、これから会議を始めるので静粛に・・・」

「うるせぇ!!これからこのブスどもを粛清するとこなんだ邪魔すんじゃねぇ!!」

「は・・・はい・・・」


このヤンキーのような言動の女性は伊織の幼馴染、「長名 なじみ」だ。

伊織家の隣りに住み、幼稚園から現在の高校に至るまでずっと一緒だったらしい。

小学校の頃から伊織にアプローチをかけているが、超ド級の鈍感さによって全てスルーされている。

伊織と接する際は地味な見た目で、控えめなキャラクターなのだが、この会議になるとガラの悪いヤンキーのような口調になる。


「はぁ・・・どっちもどうせ負けヒロインとしてこの世界からフェードアウトしていくんですし・・・仲良くしましょうよ・・・」

この落ち着いたたしゃべり方をしているのは、図書委員の「本野 夢子」さんだ。

黒髪ロングで、背は平均的な身長だ。

泣きホクロがあり、物静かな雰囲気をかもし出している。

いつも図書館で本を読んでいる本の虫、あまり人としゃべりたがらないという設定なのだが・・・


「うるせぇ!てめぇは教室のすみっこでBL小説でも読んでやがれこの淫乱女!!」

「は、はぁ?ななななななな何をいいいいい言ってるの????わわわ私がいつそそそそんなものよよよよ読んでたっていうの???」

「てめぇが図書委員の権限使って、図書館に仕入れる本の中にBL小説混ぜてんの知ってんだよ!!」

「は、はぁー!?そそそそそんなのしししし知りませんー」

どうやら何か特殊な趣味をお持ちのようだ。


「ガハハハ!夢子は男同士が絡み合う本読んでオナってるのか!!変わってるな!ガハハ!!」

このデリカシーの欠片もない発言をしている女性は「星土 海澄」さん、この学校の生徒会長だ。

身長は高く、スタイルも抜群、髪は金色のセミロングだ。

その自由奔放な身の振る舞いに引かれる人間も多く、この学校一番の人気者だ。

しかし、その自由さゆえに女の子らしくない発言も多々見られる。


「そんなげ下品なこと言わないでくださいよー、やっぱりお兄ちゃんは私のものですねー」

この娘は伊織の妹、「伊織 妹子」だ。

身長は150ほどで背は小さく、黒髪のショートカットだ。目は少しツリ目だが歳相応のかわいらしさがあふれている。

まだ中学2年生なのだがしっかりしており、家事は全てこの子がやっているらしい。

よくあるお兄ちゃん大好きなテンプレ妹っ子なのだが・・・

「そもそもお兄ちゃんのパソコンの履歴やエロ本を見る限り、お兄ちゃんの好みは私のような貧乳妹っ子だってのははっきり分かるんですよね。」

この子は兄のことが好きすぎて行動を全て把握しているらしい。

それこそ一日の行動やパソコン履歴、果てはゴミ箱の中のティッシュの量まで調査しているらしい。


「妹子ちゃん・・・そういうことはあんまり他人に言わないほうがいいと思うよ・・・」

さっき俺はこの教室に5人の女性がいると言ったが、あれは嘘だ。

実は1人だけ男の子、いや男の娘がいる。

それがこの比較的言動がまともな「尾床 野虎」だ。

髪は少し緑っぽく、セミロングほどのふわっとした髪型で、見た目は完全にか弱い女の子なのだがれっきとした男である。

ちゃんとアレもついている、確認済みだ。

性別は男だが人間的な面では、この面子の中では一番ヒロインに近いのかもしれない。


他にもヒロイン候補の女の子は腐るほどいるのだが、現在ヒロインの座に近いのはこの5人だ。

伊織がいる場ではみんなかわいらしい女の子を演じているのだが、いざヒロイン同士となると暴言・暴力が飛び交ってしまう。


「オイオイ、てめぇさっきからかわいこぶってんじゃねぇぞ!はっきりしゃべれ!それでも金○ついてんのか!?あぁん!?」

とてもヒロインとは思えないような言葉を吐いたなじみさんは、おもむろに野虎くんに近づくと・・・


ムンズッ、っと股間を鷲掴みにした。


「あぁっ・・・」

野虎くんはとても男とは思えないような色っぽい声を出した。

「おー!てめぇ思ってたよりもいいチン○ンついてんじゃねぇか!こんな立派なモンぶら下げてかわいこぶってんじゃねぇよ!」

そう言いながらなじみさんはより力強く股間を揉む。

「ちょっ・・・や、やめてよ・・・」

完全にセクハラだ。

野虎くんの顔がどんどん赤くなっていく。

「も・・・う・・・ダメッ・・・」

・・・なんだか聞いているこっちも変な気持ちになってきた。

もうちょっと聴いていたい気もするがいい加減止めなくては。

「なじみさん?もういい加減に・・・」

「何が男の娘だコノヤロォ!!コレか?股間についてるマグナムが人気の秘密なのか!?ええ!?言っとくけどな、飛鳥の超大型巨根に一番最初に貫かれるのは私のウォールマリアだからな!!てめぇの女型の巨根なんかに飛鳥のウォールローゼは渡さねぇぞ!!」

と、セクハラのほかに様々な問題になりそうな発言をなじみさんがする。

流石にこれは言い過ぎではないかと思い、野虎くんの方を見ると・・・


先ほど以上に顔を真っ赤にし、顔をうつむかせ、もじもじしながら言葉を放った。

「いっ・・・伊織に・・・そっ・・・そんなこと・・・・してない・・・よ?」


・・・ん?

騒がしかった教室が一気に静かになる。

なんだ?この意味深な言い方・・・

この発言から何かを感じ取ったのか、ヒロインみんなが顔を青くしている。

いや、夢子さんだけは顔を輝かせている。

なじみさんが恐る恐る口を開く。

「まままっままままっまままままさか・・・・そそそそそそんなわわわわっわ訳ない・・・・よな?」

なじみさんの発言に対し野虎くんは・・・

「・・・・」

沈黙で返した。

これは・・・

「ウゾダドンドコドーン!」

「野虎×飛鳥きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

「よし!ちょっとチ○コ生やしてくる!!」

「お、お兄ちゃん・・・なんで・・・?ハッ・・・そういえば最近ロリもののほかにもショタものが混ざってたけど・・・そういうこと!?」


教室は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

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