猫人小伝妙『遠景』

今村広樹

本編

一言に攘夷じょういだの開国かいこくだの言っても、考えなんてものは、猫それぞれである

清河きよかわ八郎はちろうという猫は

『攘夷をおれがやったるニャ』

意気軒昂いきけんこうだったが、彼にとって残念なことに、先立つモノがなかった

彼は脱藩野良猫である

まずは、西国で、攘夷を扇動せんどうしたものの、失敗に終わり、いわゆる薩長さっちょう始め西国の連中から総スカンを食らってしまう

次に幕府に仕えていた山岡やまおか鉄次郎てつじろうのツテを借り、野良猫有志を集って、野良猫組を結成することにした




さて、文久三年、中山道を江戸から京都に向けていく集団があった

彼等は身分も目的もてんでバラバラで、憂国の士から、一旗上げようとするもの、単に観光目的と、まあいろいろいた

そんな連中なので、京都の猫々から、本拠となった場所の地名を取って

と呼ばれ、嫌われることになるのだが、今はまだ、ただの野良猫組である

そんな中に

『京の女ていうのは、どんなもんニャのう』

『近藤さん、そういうのは、まだ早いと、思うんニャけどなア』

『はは、それが、近藤さんのいいところにゃニャいんですか、土方さん』

と話している一段がいる

最初の厳つく、大きい猫が近藤こんどういさみ

それをたしなめてる怜悧な黒猫が土方ひじかた歳三としぞう

それを見てニコニコ笑っている丸顔の猫が沖田おきた総司そうじ

つまり後の新撰組の歴史の表舞台にたった最初ファースト光景ショットである

『まあ、まずは、女にもてるために、でっかくいかないとニャ』

と土方

彼等は、自分たちの苛酷な運命も知らず、話に花を咲かせていた…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫人小伝妙『遠景』 今村広樹 @yono

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ