存在の楽園

佐山未来

未来視 Ⅰ

 未来視…。

 もし、あなたの未来が見える人間がいたらあなたはどうするだろうか?

 宝くじを当てる方法を聞くだろうか?これから自分の出会う運命の人を教えてもらうのだろうか?これから行われるだろう自分の運命の選択で何を選べばいいのか教えてもらうのか?明日行われるテストの回答をすべて教えてもらうのか?それとも自分の死ぬ歳を教えてもらうだろうか?

 どちらにしても、あなたは自分に有益になるようなことをその人から教わろうとするだろう。

 しかし、その情報は果たして本当に自分を有益にするような情報と成り得るのか?はたまたそれをきっかけに自身を崩壊させる原因の一つにさせるのではないのだろうか?

 そもそもそのような未来が視えたとしてそれが本当に現実になると思う人間は誰もいないだろう。


 しかし、未来を視る人間はこの世に存在する。それは、数秒先の未来から数日、数年先の未来を視る。それらを視ることのできる人間はよくあるような「夢で見たような光景を見た」というような正夢であったりなんとなくの様な半端なものではない。はっきりとその場、その時間、その世界で起こる現象を正確に捕らえる。


 それらの未来を視ることのできる人間のこと「預言者」と呼ぶ。


 しかし、この「預言者」たちの中でも100%未来を言い当てるわけではない。多くの預言者は不完全な未来視を持ち未来を視る。それ故に多くはその通りの未来へとは至らない。

 もし、未来を言い当てられるのであればそれは神の領域に入り込んでいる。人の体を持って未来を的確、それも正確に言い当てられるのは神か、この世界を作り出した第三者シナリオライターだけである。







 5月の大型連休…世間一般の人たちはゴールデンウイークと呼び、その大型連休を自分の使いたいように使用する。かく言う私もその連休を有意義に使う。そのあとにやってくる何もしたくなくなるような喪失感と戦いながら。

 私はその休みを存分に楽しむ。


 私と同じようにその休みを存分に楽しもうとここには多くの人たちが集まっている。参道には多くの露店が並び各々が商売をしている。こういったような出店というのは大概店舗で売っている商品よりも幾分か高い。まあ、出張料だと思えば安い方であるか。

 とはいえ、そんな多くの露店で人はその値段にケチをつけることなく、大半の人間が「まあ、お祭りなのだからそのようなことを気にしてはしょうがない」と割り切って購入する。

 そんな参道の脇道に大きな慰霊碑がある。その慰霊碑は太平洋戦争で活躍をした軍艦を労う目的で建てられている。そんな石碑の前で人は座り込んで屋台で打っているやきそばや牛串、ラムネを頬張る。なんとも失礼な人間たちである。国のために戦った英霊の前で何も知らずに座り込んで食べるというのは失礼である。


 電車に揺られること約30分。いや、40分かな。まあ、どちらでもいい。とにかく私たちは連休の最終日をここのお祭りで終えようとしている。

 私は一番のお気に入りの浴衣を引っ張り出し、私のお気に入りの帯を締めて向かう。浴衣を着るにはかなり早い時期だが、お祭りであるのだからいいだろう。

 電車を降り駅の改札口をでる。出た先にはもうすでにかなりの数の人たちがお祭りを楽しんでいた。その中にはよくここの駅前で見かけるピエロの恰好をした人物がその場所を通る人間を楽しませる。その人を横目に私たちは祭りの会場となっている神社へと向かう。

 まずは、一通り巡っておいしいものをいただくとしよう。

 やはり、参道には多くの屋台と多くの人でイモ洗い状態となっている。

 イモ洗い状態の参道を抜けて奥へ奥へと進んでいく。その途中も興味を惹かれるような露店であったり、旨いうたい文句で多くのお客を集めようと頑張る店員さんもちらちらとみられた。

 そんな風景を横目に大きな門が視えるところまで来ていた。その横で何やら面白そうなことをやっているのに気づき足を止めた。

 妹が私のことを呼ぶ声が聞こえた。もう少しこの面白そうなものを見ていたがったが致し方ない早くいくとしよう。妹は少し面倒くさい性格なのだ。

 そう思い、妹の下へ足を歩みだしたとたん

 私が生きてきた中で聞いたことのないような爆音とともに私の記憶はそこで途絶えた。





 2022年4月28日



 なにも変わらない日常。

 いつも通りの道のりを歩き、いつも通りの人たちとあいさつをして自分の居室に向かう。このままいつも通り自分の席へと向かうはずだった…いつもなら…。


「おはよう。篠原さん」


 その意外な人物からの挨拶に篠原と呼ばれた少女は面喰って一瞬その場に固まる。


「お、おはよう…。黒葉…さん」


「あんまり、驚くことではないでしょうに。私たちクラスメイトなんですから」


 その人物のもっともの魅力とりえと思われる笑顔を篠原に振りまく。正直、私はこの人…黒葉静音こくはしずねのことが苦手だ。いや、自分とは合わない人間の部類だ。それ故にあまり干渉することもなくただ彼女の行動を遠目から視ていただけだ。

 彼女も同じであろう。私という正反対の印象を持っている人間に干渉することは2年間なかったのだから。

 それが唐突に今日この日にあちら側から干渉をしてきた。


 これは、私の視た未来にはない光景だ。それも私が未来あくむを視た今日うという日に干渉をしてきた。


「そんなに邪険にしないでもいいのよ。ただ、なんとなくあなたのことが気になったから話しかけたに過ぎないから」


 笑顔で言ってくる。しかし、これは明らかに建前だ。何らかの意図があって私に話しかけて来たのだ。そうだ。そうでなければ、このクラスの中心に居座る人物がクラスの端から視ているだけの存在に話しかけてくるはずがない…。そう私の直感が言ってきていた。

 それならば、この場から逃げてしまおう。


「篠原さん。あなたに聞きたいことがあるのだけ・・・」


 キーンコーンカーンコーン。


 予鈴がなる。黒葉が何かを言い切る前に予鈴がなった。

 彼女はタイミングの悪さでなった予鈴を睨みつつ「また、あとで話しましょ」と言って篠原の前から去る。

 これでやっと安寧が私に訪れた。あとで、話そうといわれるのであれば逃げるまでだ。


 人は嫌いだ。人が善意を振りまいてもそれに対するものは悪意以外の何物でもないのだから。人とはあまり関わりたくない。

 特にあの手の人に善意を振りまき、自身のものとする人間は私が最も苦手とするタイプの人間だ。そうそうに帰ってしまう方がいいだろう。

 授業中や授業と授業の合間の何度か狙って私に話しかけてこようとしていたがうまくすり抜けて逃げていった。放課後も無事に逃げだすことができた。

 帰り道は特に何もなく、彼女も追ってくる気配がないので安心して自宅へと向かうことができる。

 しかし、なんでまたあのようなキンキラ女が私の様な地味な人間に興味を示すのか謎でしかない。とにかく明日からはギリギリを狙ってうまくかわそう。

 一安心したのもつかの間、篠原に次の魔の手が忍び寄る。


「…あたまが……。割れる……」


 急に頭痛が篠原の頭の中を駆け巡る。そんなに珍しいことではないが、に頭痛が現れたのは初めてであった。

 そして、頭の中にイメージが流れ込んでくる……。


 大きな建物…これは学校のすぐそばにある大型のショッピングセンター、それもその内部にある映画館のロビーのモニュメント像の根元に……何かが…。

 多くの人々が行き来している。

 これは、祝日なのか?親子連れが多い。

 今話題になっている作品の看板が見て取れる。

 これは今度の休みの日の初日?

 一体なぜこんなのを見せつけるのか?


 そして、次の瞬間。


 映画で聞こえてくるような爆音以上の轟音とともに辺り一帯が黒い炎と煙に包まれて消えていく。



 そこで、私の中に流れてきたイメージは途絶える。


 これは、未来。

 これは、私が視た未来。

 私は今までも未来を視てきたことがある。

 そして、その未来は100%と言っていいほどの確率で当たっていた。

 つまり、この夢が暗示することは…。


「爆発……テロ……」


 それが、彼女の視た2日後に起こりうる確定された未来であった。

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