第9話 スリップ

 教育庁とは、まさに “聖域 ”という言葉がぴったりの行政機関だった。戦後脈々と受け継がれて来た6・3・3制を中心とした縦割り行政と、数万人の教職員の存在は、「子どものために」という言葉を上手く使いながら、極度に変化を嫌う高い壁となって、優斗の前に立ちはだかった。

 1学級を35人以下で組織する「35人学級」の実現は、知事の政策の要となるような大胆な構想であり、これには学校現場は概ね賛成だったが、そのためには当然教員の増員が必要で、財源を見つけてくる必要があり、道庁の財政課との頻繁な折衝が必要だった。

 学力向上のための教職員の研修の質的・量的改善は、実質的に費用を負担する道内の市町村の教育委員会事務局との調整が必要であり、またこれ以上の研修に時間を割くことが困難な学校現場からの反発もあった。

 地域住民が学校の運営に参画できるような仕組みを作る「コミュニティ・スクール」制度の導入は、面倒な事務仕事が一気に増加すると思い込んでいる市町村教育委員会からの反発を受け、またその学校運営に参画する住民が持つ権限を巡って、人事や予算にまで口を挟ませたくない学校現場からの反発も大きいものだった。

 そして、これらの政策を進める上で、自分の仕事を増やしたくない教育庁の職員たちもこれらの仕事に手を出すことはほとんどなく、優斗は最初の読み通り、多少野心がある課長補佐の渡部だけが優斗の仕事を理解し、適切な助言と指示を与えている状況だった。

 特に次席係長の松下は、優斗をライバル視していることがはっきりとわかる態度をとっていた。口癖のように「国では」「文部科学省では」と言い、全てのことを文部科学省の基準に当てはめる思考の持つ主だった。地方の教育行政は、何事も文部科学省より先にやってはならないという考えを持ち、その文部科学省で2年間仕事をしていた、というプライドだけが彼の仕事の拠り所であったので、国の制度に先んじても物事を進めようとする優斗の仕事を何度もストップさせた。加えて、大過なく退職を迎えることに神経を集中している課長の中西は、松下の仕事を支持し、重箱の隅をつつくように優斗の仕事の粗を探した。もともと仕事の精度よりもスピードを重視する優斗の事務はその都度滞っていった。その度に、優斗は一体誰と戦っているか、何のために戦っているのかわからなくなっていった。

 そんな状況で秋も終わり、年末が近づいてきたころ、庁舎内の個人メールに知事から連絡があり、知事室へ呼び出された。知事は時間があいた時にメールで優斗を呼び出し、政策の進捗状況の報告を求めてくる。もちろん、教育庁の人間どころか、秘書課すらも通さないイレギュラーなものだった。年内最後の進捗状況の報告だと思って資料ももたずに知事室に向かったが、知事室に着いた時には、移動時間中に急な来客があったと、秘書係の三浦美加が伝えて来た。

 「少しこっちで休んだら?」

 美加は課長席の横にある応接セットに一瞬視線を移して言った。

 秘書課は課長以下7名の職員で構成されているが、課長は席にいなかった。

 「課長は?」

 優斗は、応接セットに腰かけながら小さな声で美加に訪ねた。打ち合わせや報告など、職員が知事のスケジュールを拘束する時は、必ず秘書課を通してアポイントをとる慣例になっている。逆に知事からの呼び出しについても、基本的には秘書課長から呼び出す職員がいる部署の長に連絡が入る仕組みになっていて、優斗のように直接呼び出される職員は数えるほどしかいない。このいわば行政の手続きを経ないやり方は秘書課員にとってはいい気がしないものであることは、優斗も秘書課時代に経験をしていた。だから、優斗が秘書課の応接セットを使って一息つくということは、秘書課員にとっても優斗にとっても居心地のいいものではない。

 「今日は休暇」

 美加も優斗以外には聞こえないような小さな声でそう答え、次席に戻っていった。優斗は肌身離さず持って歩く手帳の1ページに、素早く「今日の夜、手空きの時に電話して」とメモをして破り、スーツのジャケットに忍ばせた。

 5分ほど経って、知事室から来客が出るのを見送った知事が、優斗に向かって手招きしているのが見えた。優斗は席を立って知事室に入っていく。知事室には、毎月、北海道立近代美術館の学芸員が取り替えている、同館所蔵の大きな絵画が来室者を出迎える。今月は、三岸好太郎の作品であった。

 「忙しいところすまないね。どうだ?孤軍奮闘といったところか?」

 知事はそう言って笑顔を見せる。これでも、無理をいっている職員への気遣いだと思っているのだろう。

 「まあ、味方は多くありません」

 優斗は正直に言った。

 「そうだろうな。まあ、次年度の人事では悪いようにはしないから、それまで辛抱してくれ」

 「はい」

 優斗は短く答えて、早く本題に入ってほしいという気配を出した。相手が知事とはいえ、悠長に世間話をしているほどの余裕はなかった。

 「35人学級の実現のために、モデル的に何校か選んで実施できないかと考えていてね。小学校、中学校でそれぞれでできればよいが、もし不可能ならどちらkでも構わないんだが」

 優斗の焦りを察したのか、知事は話題を変えて本題に触れてきた。

 「当初予算に計上する、ということですか?」

 優斗が確認した当初予算とは、翌年度にかかる予算を毎年11月に全ての部署が「予算要求書」として財政課に提出をして、財政課の調査を経て、副知事の査定、知事の査定と段階を踏んで精査され、3月の議会に提出されるものである。災害対応などの緊急性のあるもの以外は全てこの当初予算に計上しておく必要があり、この予算に計上されていないものは1円たりとも支出はできないのが、行政の大原則である。そして年末のこの時期、予算要求は当然締め切られている。

 「財政課長には私から指示しておく。一週間で金額を積み上げてくれないか?」

 通常であれば、予算を抑えるために、各セクションが提出した予算は財政課から知事へと査定の段階を踏む度に減額もしくは却下されていくものである。今回のように、知事の方から予算を組むように指示されるのは、異例中の異例である。しかも今回の知事の指示は、もはや優斗にとって無理難題にしか聞こえないものであった。

 モデル校とは、施策を制度化する前に、試験的にその施策を実施して成果を分析するための学校のことを言う。そのためには、成果の分析や人員の配置の手続き、モデル校としての役割を引き受ける学校の選定や市町村教育委員会事務局との折衝、さらには行政内部の義務教育課や高等学校課との調整など、膨大な事務手続きが必要となるが、それを一週間でやれという指示である。

 「正直、かなりタイトなスケジュールなので、調整をやりきる自信はありません」

 優斗は、できることなら断りたい思い、断る理由を探している。

「見切り発車でもかまわんよ。とりあえず予算の計上だけしておいて、詳細の調整は後からすればいい」

 優斗の心境を見透かしたかのように、知事は優斗に視線を合わすことなく簡単に言ってのけた。

 「わかりました。恐縮ですが、知事から関係する幹部にご連絡頂けますか」

 見切り発車でよいと言われれば、断る理由を封じられたのも同然だった。

 この件については、優斗一人で調整するのは不可能だった。教育庁の関係するセクションだけでも、総務政策局、学校教育局にまたがる案件で、それぞれの課長と担当係長に根回しするだけでも一大事である。しかし、知事から教育長あたりに一声かければ、瞬時に根回しが終わるのである。

 「教育庁の各局長とこちらの財政課には指示しておく」

 知事のその言葉を聞いた優斗は、「それではこれで失礼します」と言って知事室を後にした。これ以上長居をしたら、知事はまた違う仕事を思いつきそうな気がして、一刻も早く立ち去りたかった、というのが本音だ。そして、帰り際に先ほどポケットに忍ばせたメモを美加に渡すことに成功した。

 知事の直接の指示にはうんざりした気分になりながら、自席に戻った優斗は、左斜め迎えにデスクを構える課長補佐の渡部にだけは先どの知事とのやりとりを簡単にまとめ、メールで報告した。

 (顔を合わせていながら、メールで報告するなんて滑稽だな)

 地域政策課では、一人が抱えている問題や課題は課全体の課題だという意識が徹底していて、日常的に情報の共有ができていたため上司と部下が内密にメールで報告などというおかしな行為はしなくて済んでいた。しかし今の課では、周りの職員に聞かせられないことばかりで、渡部とは毎日顔を合わせ、自席にいながら会話ができる距離で仕事をしていながら、メールでのやりとりが多い。そんな環境に、優斗はますます嫌気がさしてきていた。

 とにかくあと一週間で、知事から降りてきた新たなミッションを形にしなければならない。しかし、今日は勤務時間外に仕事をする気になどなれない。このまま仕事を続けようか、今日は引き上げようかを悩んでいたところに、携帯電話が小さく振動して、メールの着信を知らせた。

 【遅くまでは無理だけど、一緒に夕食でもどう?】

 メールの配信元は美加だった。連絡してほしいとだけ書いたメモを渡しただけで、会う約束を取り付けたいこちらの下心が見透かされているようで良い気はしなかったが、それよりも無意味な駆け引きをしなくて済んだという安堵感の方が勝っていた。

 【すすきののいつもの居酒屋で。一時間後。俺の名前で予約しておくから】

 すぐに今日の超過勤務はしないことを決めて、優斗は返事を送信した。やらなければならないことは山積みだったが、今日はとにかくこの職場から一刻も早く帰りたいという思いが強く、終業時刻を知らせるブザーが鳴ると、簡単にデスクの上を片付けて事務所を後にした。

 優斗が指定した居酒屋は、すすきのの中心部のあるビルの4階にあり、全室が個室という作りだった。例え家庭のある美加と優斗が一緒にいるところを誰かに見られることがあっても、仕事上の打ち合わせや情報交換をしていると言えばどの様にでも言い訳がつくが、念には念を入れていつでも個室に入れるこの居酒屋をよく使った。注文も店員を呼んでするのではなく、タッチパネルの電子端末を介して行う方法であることも好都合だった。

 「急にどうしたの?」

 少し遅れてきた美加は、そう言いながら部屋に入ってきた。スーツこそ来ていないが、誰が見てもキャリアウーマンであるという服装は、彼女がずっとポリシーにしているものだった。

 「気のおけない人間と飲みたくなっただけだよ」

 優斗はそう言いながら、タッチパネル端末を引き寄せて、「生でいい?」と続けた。

 「うん」

 軽く返事をして、美加は掘り炬燵に足をもぐりこませた。

 「秘書課では話題になってるよ。知事は最近、人事課長、地域政策課長のブレーンに加えて、教育庁に送り込んだ松野にご執心だって」

 秘書課にとってはこれは褒め言葉ではない。むしろ嫌味を込めている。

 「お前までやめてくれよ。あの日の会食にお前もいたからわかるだろ?俺は何にも望んでない。振り回されてるこっちの身になってほしいよ」

 注文した生ビールが運ばれて来た。それを受け取り2人で「乾杯」と言ってジョッキをぶつけると、優斗は半分ほどを一気に飲み干した。そして美加と目線を合わせずにさらに話を続けた。

 「教育庁は聖域だ。そう思って仕事をしている輩が多すぎるんだよ。だから政策なんて関係ない。毎年ほぼ決まった予算が配分され、例年通りに仕事をこなしていけばそれでいい。小さい変化があったとしても、それは現場で対応すべきことで、行政職員としては現場に仕事を降ろしていればそれでいい。文部科学省に2年間派遣され、その経歴だけがプライドの根幹となっている前例主義の職員や、穏便に退職することが最重要の管理職や、政策立案を第一義的仕事とすべきセクトにいても、政策の立案の仕方がわからない職員や、それ以前に政策は面倒だと考えてそれを避けて通る職員や、もちろん全員じゃないけど、そんな職員がたくさんいる場所だよ、教育庁は」

 優斗の本心だった。美加はそこで初めて心配そうな顔を浮かべて、優斗の顔を覗き込んだ。

 「大丈夫?このままだと優斗、組織につぶされるんじゃない?」

 「組織につぶされる」という美加の言葉が、優斗には現実的なものに思えた。しかし、この会話は続けたくないと思い、話題を変えた。

 「急な誘いで申し訳なかった。家庭は大丈夫なのか?」

 美加には夫と娘がいる。だから2人で会う時は、いつも仕事はもちろん美加の家庭のスケジュールも調整してからにしていた。

 「正確には、あなたは『連絡がほしい』メモをくれただけで、今回誘ったのは私でしょ」

 美加はそう言って意味深な笑みを浮かべた後、すぐに真顔に戻って話を続けた。

 「大丈夫。秘書課にいると、知事や副知事の急な用事に随行なんてしょっちゅうでしょ。夫もその辺は理解してくれているから、夫には今日も知事の随行って言ってあるんだ」

 秘書課の職員は、何千人といる北海道庁の職員の中で、おそらく最も日常的に不規則なスケジュールに追われる毎日をおくっていることは、優斗もこの部署にいた時に経験していた。そんな日常にあったからこそ、優斗と美加の関係は、家庭はもちろん職場の周りにも気づかれる心配がなかった。

 その後、2人は適当に食べ物を注文し空腹を満たし、お互いの職場の愚痴を言い合って、2時間ほどの時間を過ごした。店員が飲み放題プランのラストオーダーを取りに来たタイミングで、美加は「もう一軒付き合うよ?」と言ったが、優斗は、「久しぶりに、家に来ないか?」と答えた。美加はあっさりと「終電までね」と答えることで了承した。

 2人はいつもそうしているように、まずは優斗が会計を済ませて店を出て、10分ほど経ってから美加が店を出る。念のために外では一緒に行動しないと決めていた。優斗はそのまま自宅に帰り、洗濯物など簡単に片付けて、美加が気に入っているジャグジーバスに湯を張って到着を待った。15分ほど経ってからインターホンが鳴り、美加の到着を知らせた。

 「相変わらず一人暮らしには贅沢なマンションだよね」

 優斗が開けたオートロックの玄関のドアを開けて、美加はそう言いながら家へと上がって来た。

 「引っ越ししてないんだから当たり前だろ」

 優斗はそう言いながら玄関で出迎える。職場ではあえてよそよそしい態度で接しているし、外で食事をしている時も意識のどこかで油断できないと気を張っているのだが、さすがに家で2人きりになった時だけは感情に正直に過ごすことができた。もちろん、美加は優斗に他にも性的なパートナーがいることを理解していたし、優斗も美加に家庭があることは理解していたので、お互いがその状況を尊重して、付かず離れずの関係を続けている。

 「風呂、準備できているよ」

 優斗がそう尋ねると、美加は「ありがと。一緒に入る?」と当たり前のように答える。優斗は、道庁の上級職員として、隙を見せずに働いている美加と、それとは逆に2人きりの時に見せるこういう姿のギャップが好きだった。2人が秘書課で一緒に仕事をしていた時は、真剣に交際することも考えたほどだったが、2人にとって「恋愛感情」は仕事には「余計な感情」であったし、それを抱えたまま同じ職場で毎日顔を合わせる環境は避けるべきだ、という考えで一致した。まして結婚となると、道庁では夫婦は同じ部に配属にならない慣例があり、そのような場合は多くは女性が「家庭との両立ができる部署」と考えられる原課へ異動となる可能性が高く、優斗は、官房職員として優秀な若手である美加の能力を、恋愛や結婚というもので邪魔をしたくないと考えたのだった。

 優斗は、美加がバスルームに入ってから数分時間が経つのを待った。美加はいつも、自ら一緒に入るか訪ねておきながら、自らが身体を洗うところや、バスルームで裸体を見られるのを極度に嫌う。だから、美加が浴槽に入りジャグジーのスイッチを入れた頃合いを見計らってからそこに入っていくのが、2人の暗黙のルールだった。

 優斗が浴槽に入ると、何も言わずに美加は優斗の体の前に座り直す。美加の背中と優斗の胸を密着させるようにして、優斗は両手を美加の乳房にまわすのだが、バスルームではこれ以上の行為をしないのも2人の暗黙のルールだった。いつもこの姿勢のまま、2人は会話を楽しむのだ。

 「知事との会食の後も、誘いのメール来ると思って実は待っていたんだよ」

 美加の言葉を聞きながら、あの時間が、随分遠い過去のように思える感覚を覚えながら、優斗は美加に入院のことや依存症のことを打ち明けようか迷っていた。

 「そんな気分になれないことくらい、あの空間にいたんだからわかるだろ?知事のあの無茶ぶりにも困ったもんだよな」

 優斗は、その迷いを断ち切るように言った。

 「嫌味抜きで、本当に組織につぶされるなんて馬鹿げたことにならないように気をつけてね」

 美加のその言葉を、優斗は他人事のように聞いていた。

 2人のセックスはいたってノーマルのものであった。美加は前戯をあまり好まなかったが、それでも優斗は彼女が一番乱れる騎乗位が好きだった。娘を産む前に比べて、美加の体は一層女らしくなったと優斗は思っていた。彼女が育児休暇中こそ交わることはなかったが、彼女が仕事に復帰すると、その体の変化に驚いたものだった。もともとCカップだった乳房は、Eカップにサイズアップし、不思議なことに出産から3年以上経った今でも元に戻ることはなかった。その乳房を揺らしながら一心不乱に感じる美加の姿が優斗には愛おしく思えて、この日は2時間ほどで、3回ほど交わった。美加は騎乗位で何度も絶頂に達し、それでも感じ続けるために少しの間を置くことなく激しく腰を動かし続けるのだった。時々、正常位や後背位に体位を変えても、美加は自らが上になれるように優斗を誘導する。

 (やっぱり勝気なのかな・・・?)

 優斗は美加が上に乗りたがるたびにそう思う。しかしそんな疑問も、必死に快感を感じ続けようと乱れる美加の姿を見上げているうちにかき消されるのだった。

 地下鉄の終電の目安である午前0時まではまだ40分ほど余裕があったが、優斗が3回目の射精を終えた後、美加は急に我に返ったようにベッドから這い出て、身支度をし始めた。優斗もそれを止めることなく、ベッドの中で眺めていた。

 「久しぶりに楽しかったね」

 バスルーム前の脱衣所にあった衣服の全てをリビングまで運んで来た美加は、それを身につけながら、美加が独り言のように呟くと、優斗も「うん」と短く答える。「次はいつごろ?」と美加も短く次の約束を促したが、その質問は優斗は心身ともにハードになる明日からの仕事を思い描かせた。そして、あのうんざりした気分が蘇って来るのだった。

 「10日間は無理だよ。今日も知事から無理難題をふっかけられた」

 優斗はあからさまにその感情を表に出した。

 「あんまり溜め込まないで、またご飯行きたくなったら連絡してね」

 そう言った時には、美加は全ての衣服を身につけ終えていて、キャリアウーマンの姿に戻っていた。

 「うん」

 優斗は再度短く返事だけすると、それを聞いた美加が「じゃあね」と言って部屋から出て行った。優斗も「じゃあね」と鸚鵡返しをして答えた。

 この時の優斗には、依存症のことも、医師の指示やそれに基づいた約束ごとも、全て頭の中から消え去っていた。

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