Sweet* Love life
菓子水想
。*しあわせ降る雪の日に*。
√柊羽
「しゅうさん……
「ん……
咲桜の声に目を覚ますと、既にパジャマから着替えた咲桜が、嬉しそうな表情をして布団の横に座っていた。
先日 結婚式を挙げたばかりで、起きたときに咲桜がいることにやっと慣れてきたところだ。
「起こしてごめんなさい。でもいっしょに見てほしいものがあって……」
「ふわぁあ……。見てほしいもの?」
「はい!外にあるんですっ」
(相変わらず小さい手だなぁ……)
体を起こして欠伸をしていると、ひんやりと少し冷たくなった手が俺の手を握ってきた。
その手を握り返して咲桜に付いていくと、庭に続く障子を咲桜が開けた。
「さーむい……」
「ほらっ。外を見てください!」
冷たい空気に触れた体がブルッと震え、今すぐ障子を閉めたくなった。
けれど、咲桜の残念がる姿が目に浮かぶから、言われた通りに外を見る。
「おー…!すごいなー」
一面に積もった雪で真っ白に染まっている庭を見て、思わず感嘆の声が漏れた。
「ぜーんぶ真っ白!かわいくて綺麗ですね~」
(……可愛い、のか?)
いまいち女性の……というか、咲桜の感性がわからない。
「わあ……また降ってきましたね」
「また一段と寒くなるだろうな」
「ですね。でも、私は嬉しいです」
ちらほら降る大粒の雪を眺めながら微笑む咲桜は、いつも以上に優しい目をしている。
「嬉しい、ねぇ。可愛いものだから?」
雪景色を眺めている咲桜の顔を覗き込むようにして見れば、思ったより近づき過ぎてしまった。
恥ずかしがり屋の咲桜は、ピクッと反応すると目線を下に反らした。
「も、もちろんそれもありますけど……」
「けど?」
「こうやって、好きな物を好きな人と共有できるってことが、嬉しいんです」
…………咲桜には敵わない。
よくまぁ、そんな恥ずかしいことを堂々と言えるものだと思う。
俺は無理だ。絶対に無理だ。
「ほんとうに綺麗で……時間が経つことも忘れてしまいますね……」
咲桜の嬉しそうなこの表情を見てると、さっきの言葉もスッと心の中に入ってくる。
だけど、いつまでもこんな薄着で雪を眺めていられない。
「そろそろ中に入ろうか。あんまり長くいると風邪引くぞ」
「はーい」
でもまぁ、咲桜の喜ぶ顔がもっと見たいと思うから。
「咲桜」
「はい?」
「今日は朝飯食ったら──」
゚☆。.:*:・''☆''・:*:.。.:*:・''゚:*:・''゚☆。
「はい!柊羽さんにプレゼントです」
「ん……雪うさぎ?」
しかも二つ。
「こっちの大きい方が柊羽さんで、ちょっと小さい方が私ですよ」
「!」
まったく。
手袋もしてないのに雪に触ったせいで、咲桜の手は真っ赤になっている。
咲桜といると心配が絶えないが、それでもこうやって無邪気にはしゃぐ様子を愛しく思う。
「私から柊羽さんへの、ありがとうの気持ちを込めたプレゼントなんです」
「ありがとうの?」
「はいっ。柊羽さんがあんなことを言ってくださるなんて、とっても嬉しくて……」
──────────
────────
─────
───
『咲桜』
『はい?』
『今日、朝飯食ったら温かい格好して、外に散歩に行こうか』
『ほへ……』
『嫌か?』
『ぜっ、全然嫌じゃないです!お散歩したい!』
『じゃあ決まりな』
『はい!』
───
─────
───────
──────────
「寒いの苦手なのに……私のために言ってくれた柊羽さんの優しさが、とても嬉しくて」
「…………」
照れくさくなってつい顔を反らす。
が、またすぐに目を合わせれば、不思議そうな顔でこちらを見ていた咲桜が微笑んだ。
「雪うさぎが溶けてしまう前に、家に帰ろうか」
「はい。家に帰ったらすぐにお風呂を沸かしますから、入ってくださいね」
咲桜が「〇〇するから〇〇して」って言い方をするのは珍しいな。
「柊羽さんがお風呂入ってる間に、大好物のおしるこを作りますから」
「朝飯食ったばかりなのに?」
「嫌ですか??」
「……食いたい」
「ふふっ。おしるこ食べて、今日は一緒にゆっくり過ごしましょうね」
今日のことを考えてそんなに笑顔になるなんて、可愛いやつだな。……口にはしないけど。
そういえばお互いの休みが重なったのは、結婚式以来かもしれない。
前と違って、眠るときも目覚めたときも、咲桜がいる。
だから休みが合わなくても、あまり意識はしていなかったけど……寂しい思いをさせていただろうか。
「また二人でお散歩しましょうね、柊羽さん」
「そうだな」
寒いのは苦手だ。
でもこうやって咲桜の笑った顔が見れるなら、たまには雪道を歩くのも悪くないと思える。
だからまた歩こうか。
明日でも
また来年、雪が積もった日でも
再来年でもその次でも
その笑顔が見たいから。
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