円盤塔

@smdszkn

円盤塔

 はじめに、僕たちの世界の話をしたいと思う。

 まず、世界は円柱型をしている。僕たちの住む場所は、中央に穴の空いた円形の部屋だ。部屋はいくつも重なっていて、階段で上に登ることができる。中央の穴は上にも下にもある。そして、どこまでも続いていて、そこに落ちると二度と戻ってくることはできない。部屋は明るくなったり暗くなったりする。このサイクルを僕たちは一日と呼んでいる。これを二十四分割して時間、十二分割して分、さらに三百分割して秒と呼んでいる。部屋の八割は棚になっていて、円形の板に円形の溝の彫られたものが壁一面に、一万枚ほど収まっている。

 円盤の大きさは一二インチで、溝の数は二万三千、溝は片面だけにある。例外はない。僕たちのお腹には細長い穴が空いていて、この円盤を差し込むと口から音が出る。昔のお医者さんが調べたところによると、僕たちのお腹の穴は円盤を一秒間に七十八回転させることができるらしい。それを、お腹の中にある、すごく尖ったもので円盤の溝を最初から最後までなぞることで、その円盤にどんな音が書かれているのかを、口から出力するそうだ。


 たいていの円盤からはザーという音しか出てこない。時々、本当に時々、ザーと言う音ではないものが聞こえる。僕たちはその円盤を集めて、部屋の壁にある僕たちのお腹と同じような穴に差し込むとご飯がいくつかもらえる。ご飯がないと十日ほどで動けなくなってしまう。そうなると終わりだ。聞くこともできないし、移動することもできなくなる。会話はしばらくはできるが、そのうち何も言えなくなってしまう。これを僕たちはと呼んでいる。

 死んでしまった仲間は放置されるか、邪魔になるので真ん中の穴に捨てられる。仲間が捨てられると、普段円盤を入れてる細長い穴が広がって、新しい仲間が出てくる。仲間が多ければ多いほどご飯にありつける可能性が高くなるので、僕たちの間では、死んだ仲間はすぐに捨てるという取り決めをしていた。

 新しい仲間は、毎回少しずつ違う。基本的には同じなのだが、時々動けないやつとか、穴が二つ空いているやつとか、お腹に棚があるやつとかが出てくる。そういう新しい仲間と僕たちは協力して円盤を集める。

 僕たちは、死にたくないと思っている。死にたくない。死にたくないので僕たちは円盤をひたすらお腹の中に差し込んでは、ご飯にならないと真ん中の穴に放り投げる。

 そうやって、ある程度食べれそうなその部屋の円盤を取り尽くすと上の階に行く。

 不思議なことに、全部取り尽くした部屋はそのうち消えてしまう。だから、何日かで下に降りて、また円盤をとってはご飯になるものを壁の穴に入れて、ならないものを真ん中の穴に捨てる。


 はるか昔、を手に入れた仲間がいたそうだ。完璧な音は、とにかく完璧なのだそうだ。それには一定の拍があり、心地よい音がなって、気分が良くなる。そして、それを穴に入れると、穴に入れた仲間は永遠の命を得られるのだ。

 僕たちは絶対に死にたくないと感じている。だから、それを巡って殺し合いが起きたそうだ。なんたってそれさえあれば永久に生きることができるのだから。

 そうやって最後に生き残った仲間が永遠の命を手に入れた。

 そんな話を、僕らと同じ階にいる仲間から聞いた。そして、それは自分のことであると。

 だが、彼はもはや仲間を殺す危険なやつではない。彼には死ぬ心配がないからだ。必要のないことは絶対に行わない。それが僕らというものだ。だから何も心配はない。どちらかといえば、彼の成果は全て僕らのご飯に変わるのだから、不死さまさまである。

 ところで、昔の偉い人がいうところによると、円盤は全て異なっているそうだ。僕たちの耳にはほとんどの円盤は同じザーという音しか聞こえないが、どうもそのザーという音も全部違っているらしい。溝の高さは高くても五ミリほどだ。その溝は六万五千五百三十六段階の高さが、幅一秒あたり四万四千百個刻まれているのだそうだ。つまり、この世界の円盤は無限であるように見えるが有限であり、いつか全ての円盤を取り尽くしたとき、この世界は潰れて無くなってしまうのだという。全く、信じがたい話。


 僕らは今日もザーという円盤を棚から出しては捨てて、それ以外を壁の穴に入れて生きている。そうしてご飯を得て、一階分の円盤を食い尽くして、移動する。


 このようにして、僕らは生きている。

 いつか世界が潰れる日まで。

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