十六夜(参)
「あの……」
背後から聞こえたのは、女性と思しき声だった。
私は恐る恐る振り返った。そこには、十歳程度の少女が居た。
「男の人……?」
この言葉で、私は自分が聞いていた噂がある程度信憑性があると判断せざるを得なかった。この状態であれば、例えば『おじさん誰?』とか『何してるんですか?』等の言葉がかけられるだろう。
それが、実際には『男の人?』だ。明らかにおかしい。
この言葉の裏には、普段見かけないが知識としては知っている『男性』と言うもので間違いないだろうか? という疑問と確認の意志が見て取れる。
もちろん考えすぎかもしれないが、噂と照らし合わせるならばそれが一番確率の高い想像だろう。何しろ、村には女性しか居ないというのだから。
「や、やぁ。お嬢ちゃんはこの村に住んでいるのかい?」
私は聞かれた質問には答えず、別の質問で返した。
大人であればその違和感に気づくこともあるだろうが、相手は子供だ。
そこまで対人スキルが高いとは考えにくい。
「え? うん。私はここに住んでるよ」
「そうか。私は山道で迷ってしまってね。山を下りようとしていたら、ここにたどり着いたんだよ」
「山を下りる? じゃあ、外から来たんだ……やっぱり男の人?」
ここで再びこの質問か。二度同じ質問をされた場合、それをはぐらかすのは相手に不信感を与える。それは避けたい。
「ああ。私は男性だけれど、それがどうかしたのかい?」
「えっと、初めて見たから……」
ゴクリ……
私は思わず、唾を飲み込んだ。背中に嫌な汗をかいている。
これはもう疑いようもないようだ。噂の一部は、どうやら真実なのだ。
この村には『男』は居ないのだ…。
だが、確認は必要だ。私は意を決して少女に尋ねた。
「もしかして、この村には男性が居ないのかい?」
「……うん。ここには女の人しか居ないよ……」
普通に会話しているというのに、こんなにも恐ろしいと感じたことはない。
どうやら私は、たどり着いてしまったのだ。
あの噂の、恐るべき村に……。
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