幕間 マクアイ (参)
「大丈夫ですか?」
焦点の定まらない視線を投げかけてくる草壁女史に、私は声をかけた。
その声を聴いたからか、彼女の視線が泳ぎ始める。
「え…っと…あ、その、すみません。私、なんだかぼぅっとしちゃって…」
「謝る必要なんてありませんよ。いろんなお話をしてますし、中にはちょっとグロテスクな内容もありますから、気分が悪くなられてもおかしくはありません」
私は重ねて『大丈夫ですよ』と言いながら、笑顔で答えた。
「ところで、今ので幾つ目になりましたか?」
「あ、そうですね、今ので…15個目、ですね」
「それなりに話しましたね」
私は軽く頷きながら、壁の時計を確認した。
そろそろ良いだろうか。
「時に、草壁さん」
「はい?」
「私のお話しした内容ですが、どのような感じで纏めていただいてるのか、一度拝見してもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。大丈夫です。間違ってるところとかあれば、言ってください」
草壁女史はそう言って、手元にあった手帳を私に手渡した。
「ありがとうございます。拝見しますね」
私はそう言って、手帳を開いた。
1個目の話から、ページをめくりつつ確認をする。
彼女は1つの話を見開き1ページに纏めているようで、とても分かりやすかった。
さすがに取材慣れしている。
1個目…2個目…3個目…4個目…5個目…。
ピラリ…。
めくったページには…。
やはり…思った通りだった。
「何か、問題ありましたか?」
心配そうに問いかけてくる草壁女史に、私は肩をすくめてみせた。
「どうやら少し、お疲れのようですね」
「あ…なにか変なところ、ありましたか?」
「あのですね…」
7個目…9個目…10個目…14個目…15個目…。
確認できるのは、これだけか。
「ところどころ…」
私はそう言って、白紙のページを彼女に見せた。
「こんな風に、何も書かれていないページがあるようなので」
「え…」
それに絶句した彼女は、私から半ば強引に手帳を取り戻すと、今日書き始めたページから何度も何度も確認をし始めた。
「え…あれ…なんで…」
彼女の口からはその言葉だけが繰り返される。
仕方がない事かもしれない。
「ともかく、次で最後にしましょう。このお話は『絶対に聞き逃さない』ようにしてくださいね」
彼女がゆっくりと視線を私に向ける。
その目には、恐怖とも困惑とも…怒りともとれる、感情が宿っているようだった。
しばしの沈黙ののち、彼女はぎこちなく頷いた。
「では…。それは、ある山村の話です」
私はそうして、最後の話を始めた。
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