第13夜

 携帯電話。

 今のご時世、日本に住んでいるほとんどの人が持ち歩く機械。

 ご多分に漏れず、そこには自分も含まれている。

 使用用途は多岐にわたり、人によって主な使用用途は違っている。

 音楽を聴く為だったり、ゲームをする為だったり、メモをとる為だったり、誰かと自分を繋げる為だったり…。

 私はどうだろう。

 どれもそれなりに利用している気がするが、強いて言うならメッセージアプリが一番使用頻度が高いだろうか。


 そんな携帯電話が、急に使えなくなった。

 ただそれだけの事なのに、変な不安感が沸いてくる。

 依存症って言葉はよく聞くけれど、やっぱりこれも、依存症の一種なんだろうか。


 昨日から、私は自分の携帯電話を修理に出していた。

 いわゆるスマートフォンという形状の携帯電話だけれど、ちょっとした不注意で落としてしまって画面が割れて、操作が出来なくなった。

 ガラスだけ交換してくれるようなお店もあるけれど、私は携帯電話を購入したショップに行った。理由は、そのショップが友達の両親がオーナーをしているお店で、色々と融通が利くからだった。

 とはいっても、ショップの店員さんを知っている訳ではないので、友達に口利きをしてもらってから持っていくわけだが。

 そして今、手元には代替え機があった。


 そして、代替え機を持ち歩くようになったその日から、気になることが身の回りで起き始めた。


 家のテレビが勝手に何も映らないチャンネルに変わったり…。

 お風呂のシャワーが勝手にお湯から水になってしまったり…。

 撮った覚えのない写真が保存されていたり…。


 修理は1週間ほどかかると言われている。

 この気味の悪い現象が代替え機のせいかは分からない。

 でも変なことが起き始めた時期は代替え機を使い始めた日と一致する。

 それに、ちょっとした誤作動も見受けられたので、交換してもらいに行こうかとも思ったのだが・・・友人に頼んで行った事もあり、少し躊躇われた。

 結局、私は早く修理が終わってくれることを祈る事にしたのだった。


 3日目。

 また誤作動で写真が撮られていた。

 ただ、その写真がちょっとおかしかった。

 いつもは真っ暗だったり、地面が写っていたりするのだが、その日は違った。

 まったく覚えのない場所が写っているのだ。

 その写真は、四畳半くらいの小さな和室だった。

 綺麗に整った和室なのだが、どことなく暗い雰囲気を感じる写真だった。

 夜に写した写真ではないようなのだけれど、何故暗い感じなのかは分からなかった。

 気味が悪い。

 それが素直な印象だった。


 4日目。

 誤作動が起きている感じはない。

 けれど、写真は相変わらず・・・いや、昨日までよりも早いペースで増えていった。

 これはもう、明らかにおかしい。

 私は代替え機を交換してもらうために、講義が終わった後すぐにショップに向かった。

 友達には言わなかった。

 ショップで借りた代替え機が気味が悪い、とは言えなかった。なので、黙って普通の客として行くことにした。

 1時間ほど待たされたが、それでもこの代替え機を交換できるなら我慢できると思った。

 そして問題なく代替え機を別の機種に交換した私は、ほっと一安心して帰宅した。


 その夜。


 新しい代替え機の写真を何気なく見た私は、携帯電話を思わず放り投げていた。


 見覚えのある和室が写った写真が、1枚、保存されていたのだ。


 私はとっさに、携帯電話の電源を切ろうとした。

 だが、一度電源が切れても、再起動をした時のようにすぐにまた起動してしまう。


「なんで…」


 自分でも分かる、いつもと違う声。

 やっと絞り出したかのような声。

 喉が、異常に乾いていた。


 携帯電話の起動音が、部屋に響く。

 私は携帯電話の場所まで行くと、画面が下向きになっていた携帯電話を拾い、ゆっくりと画面を自分の方に向けた。



 壁紙が、和室の写真に代わっていた。



 私は金縛りにあったように動けずにいた。

 そして、見てしまった。

 写真の中の、変化を。


 和室の、奥。


 襖が少し、開いていた。


 その本の隙間の暗闇の中に、朧げなが居た。


「ィ…」


 私の喉から、声にならない声が漏れた。

 瞬きをする。

 その度に。

 襖が、開いていく。


 闇から、指が覗いた。


 そして、髪が見えた。


 少しずつ。


 襖が、開いていく。


 少しずつ。





 そして私は






 気が付くと






 その和室に居た





 目の前に、襖が有り、開いていて、指と髪が、目が合って


 最期に、悲鳴が

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