遊戯 ―trastullo―
依田一馬
第一章 邂逅 Intoppare.
第一章 邂逅 Intoppare. (1) レオ・クレメンティ
レオ・クレメンティは、その日人生何度目かの後悔に苛まれていた。
彼がこの世に生まれ落ちてから二十一年。いいことと悪いことは人生のうちにおよそ半分ずつ訪れると聞いたことがあるが、今のところ己の人生は悪いことばかりだ。余生がいいことづくめならそれはそれで問題ないけれど、生憎レオはそうなるとは思えなかった。
彼は長ったらしく溜息をつきながら、来客用に用意している仕立てのいいシャツに袖を通す。しゅるり、と布が擦れる乾いた音が耳に響く。一つ一つ貝ボタンを留めていくと、のちにそれと同色のジャボットを首に巻く。
そこでふと、部屋の片隅に申し訳程度に置いてある鏡に目が留まった。そこには金に近い茶色の髪・瞳は美しい稲穂色という、いつも通りの姿が映っている。
たとえば、この外見も災厄のひとつだ。
母親似の整った甘い顔立ちは別に嫌いじゃないが、この顔のせいで幼い頃から随分と苦労してきた。独特の光彩も、今でこそ自分の個性として受け入れることが出来るようになったけれども、昔は嫌で嫌で仕方なかった。
というのも、彼はこの光彩のおかげで生死の危険を何度となくかいくぐる必要があったのである。
幼少の頃、女児と間違えられ誘拐されること複数。この瞳を刳り抜き、人体マニアに売りさばこうとした輩に襲われたこと、その倍。妙な男、もしくは妙な女に好かれ数年単位でつきまとわれること、それより少し多いくらい――ああ、これは今も時々ある。
外見に関してだけでもこれだけの災厄がつきまとうというのに、一体なんでこんなことになった。
そう考えながら、レオは少し重たい夜色のベルベッドの上着を羽織る。
数日前、レオは実父に呼び出された。彼がレオをわざわざ呼び出すことなんて、年に数回、それも面倒事を押し付けるときと決まっている。だからレオは出会い頭に即効断ってやろうと思ったのだが、予想に反して、彼はこのように申し出たのだった。
――お前に、会わせたいお方がいる。
誰とは言わなかった。しかし、その言い草からなんとなくだが推理できる。おそらく、縁談関係だろう。
そもそもこの領地では十代も半ばを過ぎれば何かしらの縁談を受け、婚姻を結ぶというのが慣例である。むしろ今までレオの元にそういった話が舞い込まなかったのか不思議なくらいだ。
しかし、その推理が当たる確率は半分程度だということを、レオはよく知っていた。実のところ、彼は通常の婚姻を結ぶことができない立ち位置にいる。その特殊性は、一族間に近親婚という実例を生み出すほどの厳重性を持つほどだ。
そもそもクレメンティ家に限っては「血が濃くなっても構わない」のだから仕方がない。
そこまで考えたとき、唐突に自室の扉が叩かれた。
「レオ様、ブルーノ様がお呼びです」
使用人のアルベルトの声だった。
「ああ。今行く」
レオは扉の向こうに声を投げかけ、それからもう一度鏡を見つめた。
「……ひどい顔」
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