第38話弟子戦線変化無し

 ニーソ達はクラスの皆を召集し、向こう側の事情を説明して、生徒達の家族もこの事態を理解しているし、全力で還

かえ

る手段を模索していると説く。

 その上で兵士達の訓練に参加してみる。とりあえずは解決の糸口すらない問題にふさぎ込むより、身体を動かしておこうと言う、脳筋じみたストレス発散方法を実行するためだ。

「まず、走り込みを始める。その後は槍の組手を行う」

 案内係の兵士が手を伸ばした方向を見ると、新兵とおぼしき集団が訓練場を走っており、その中心では槍が振るわれていた。

「ショボい槍ね、練習用だからって先端すら尖らせていないなんて」

 ニーソがぼやくと、その声を聞きつけた軍曹のような、兵士の監督係が近づいて来る。

「そこまで言うのならば、手合わせ願おう」

 訓練を中断して兵士達が取り囲み、実戦で使う槍を用意して、兵士と対峙するニーソ。

「見せしめか。いいわ、相手してあげる」

 手の中で時計回り、反時計回りと何度か回し、ニーソは槍の感触を覚えていく。

 合図と共に、ニーソが中腰で槍を構えて走る。

 兵士はそれを見てほくそ笑み、ニーソの槍へ振り上げて巻き上げようとした。

 しかし、ニーソは逆に巻き下げて、兵士の槍を地面へ叩き着け、柄に合わせて槍を滑らせて接近する。

 兵士は少し慌てつつも槍を手放し、腰に差した短剣を抜いてニーソの穂先を止めた。

 振り回し石突きで頭を狙うも、前転してかわす。

 が、その瞬間とほぼ同時に槍を回しながら後退し、兵士の足元へ刺突を繰り出すニーソ。

 これで本来なら終わりなのだが、兵士は構わず駆ける。

 ニーソはため息を小さく吐いて、斬りかかってくる兵士を避け、足元を引っ掛けて転ばせておく。

「残念だったわね」

 特に抗議はしない。するだけムダだと思われるし、その方がより有利に出られるからだ。

 監督係の敗北に、いまだ兵士達は動揺している。

「クラスにはクラスに合った、訓練メニューを用意してあるわ」

 元フリーランスの傭兵だったニーソが考案した、訓練メニューは過酷極まりないものであり、クラスの大半が嫌そうな顔をしていた。

「さぁ、キリキリ身体を動かしなさい! これをやっていれば戦闘が有利になるし、帰ったら体育の評価を必ず上げるよう、体育教師に取り計らってあげるわ!」

「マリオン理事長の許可はありますから、頑張って下さい」

 カナタが龍人へ変化した蓮と共に、後ろから追い立てていくと、生徒達は評価欲しい欲しくないに関わらず、持久走を始めていく。

「ニーソさん、忘れてました。コリーさんを連れて来てます」

 シルエットが黒い瓶を虚空より取り出し、ニーソへ手渡す。

「念のために封印を掛けてあります。解き方は知っている、とスバルさんから伺ってますが、解りますか?」

「キャー、コリー! 会いたかったよー!」

 封印の術式を解き、瓶から黒い何かを出すと同時に顕現するは、少年の姿をしたコリーに抱き着く。

「うおっと。はいはい、俺も会いたかったよニーソ」

 照れつつも抱きしめ返し、やがて落ち着いたのか、回転を止めてニーソはコリーから身を離した。

 コリーも一応は弟子であるが、ニーソ達ほど自由に世界を往き来は出来ない。

 少年の姿をしているが、コリーは闇の精霊で数百年も生きており、ニーソの主夫兼精霊なので、世界に科学しかない場合は、顕現する事すら出来ないのだ。

 一連のやり取りを遠巻きに見ていた兵士達は、コリーに向かって殺気を放つ。リア充に用はない。

 しかし、ニーソとコリーは無視する。

「魔王を倒すか、封印してこいって? なんで二択なんだ。話し合うとかしろよな」

「まったくよね。倒したって第二、第三の魔王が現れるだけだと思うし。そもそも複数いる時点で、魔王達が同盟組んでたりしたら、此方はパーティー単位で各個撃破されるわ」

 それもこれも、弟子以外の生徒達だけなら、という前提でのお話だ。

「と言いますか。今の状態で魔王に乗り込まれたら、召喚した連中は全滅するっていう事すら、想定していないみたいですよ?」

「え、何それ、極秘で召喚したとかではないのか。情報漏洩もあり得るし、もしかしなくても宣戦布告をしてたりする?」

 シルエットの兵士達を観察し、聞き耳を立てただけの簡易な情報収集に、コリーが最悪の事態を想定する。

「そいつは充分に考えられますよ。サモン君達から聞きましたが、召喚した者に対して、ナメくさった対応をしてるみたいッス」

 水すら出さないとか、接客の対応を身体に言い聞かせるしかないようですぜ。と、近づいた蓮が滞空して不満を言う。

「はぁ、威圧しただけ? マジかよ、精霊だったら此方から願い下げだぞ」

 コリーは肩を落とすニーソを労い、よく頑張ったと背伸びして頭を撫でる。身長差があって大変ではあるが、大人にもなれたりする。だが、ニーソの趣味でコリーは少年のままだ。

「ユイちゃんがね、キレて状況が膠着したのよ」

「それは仕方がない。此方に一方的な説明を押しつけ、さっさと旅立てって、無茶苦茶も良いところだし」

 シルエットも同情して頷く。

「では今一度、現状を整理してみましょう」

 まず、生徒達の命を守れるだけの戦力は集まった。

 シルエットかサモン達弟妹弟子に、ニーソとカナタの姉弟子が命の危険に晒されれば、師匠等の存在は是が非でも駆けつける。

 その時に現状を説明して、自力で帰れない生徒達を還して貰う。

「と、こんな具合でいいですか?」

「うん。いいんじゃないの? 問題は魔王をどうするかよね」

 仮にも召喚された身の上である。出来れば何とかしてあげたい。そう、この国を蹂躙して貰う方向で、怒らせてから還るのだ。

 たちが悪いとは言え、召喚した者に頼る時点で、国の未来や民衆の未来という、重いモノを背負わせている。

 赤の他人なのに、そんなモノを背負わせると言うのが、そもそもオカシイ。

「……ところで、気づいている?」

「ええ、魔王達の魔力は、ナイト様の魔力パターンに似てます」

 ニーソの問いにシルエットが応える。

 正確には、師匠の魔力パターンによく似ているのだ。しかし、シルエットは面識がないので、分からないのも無理はない。

「隣国の魔王達が、濃淡師匠だったら笑えないな」

 コリーの言葉に、蓮を追い掛けて近寄ったカナタが苦笑する。

「施錠が残っているし、弟子同士での戦いもまだ。となれば、可能性としては師匠の知り合いよね」

 魔力を侵食された者は、すべからく師匠の魔力パターンが混ざり、元の魔力パターンから変化してしまう。

「強いだろうから、戦闘となった場合、生徒達を守りながら戦うのは厳しいわね」

 ニーソ達の顔色が曇る。


 そんな時に動きがあった。


 隣国にいた魔王達らしき魔力パターンが、突然居座っていた場所から、遠く離れた場所へと移動し、この国へととてつもない速さで迫り来る。

「……この速度と接近してくる方向、狙いは――」

 銀髪に喪服のような衣服を着た三人組が、忽然と訓練場の空へ現れた。

「――ここか。って、もう来てるし!」

 コリーが魔力で造りあげた魔法剣を構え、ニーソの前に出る。

「……おお? 気づかれてたとは、中々やるじゃん」

「強い魔力を持つ者達が、続々と集まっているから。何事かと思って来てみれば、集団召喚された者達かな?」

「んー? ネイビー様から引き継いだ記憶の中に、酷似した魔力パターンがあるわよ?」

 侵入者達は、まだ少年少女と言える背格好をしていた。

 ニーソ達やシルエットも徒手空拳で構え、突然現れた侵入者に兵士達も浮き足立ちつつ、武器を手に隊列を組む。

 生徒達は弟子以外は事態が呑み込めないようで、走るのを止めて傍観している。なので、サモン達だけが生徒達の前に出ていた。

 先程からニーソ達の中に、知り合いでもいるような会話が聞こえるので、なるべくなら対話したい。

 そう考えるニーソとシルエット。

「ま、とりあえず。武器を仕舞って貰おうかな」

 短髪の少年が言い終わると、コリーのみならず、兵士達の武器も細かく寸断されてしまう。

 槍が等間隔に切り落とされ、腰に差した剣も鞘ごと剣身を切断された。

 いかなる魔法か分からない兵士達は、ただただ愕然とし、状況が呑み込めた一人が、叫び声をあげて逃げると、つられるように他の兵士達も逃げ出す。

「なんて兵士なんだ……」

 サモンの呟きにハザードも呆れる。

「その剣、魔法剣か」

 少年の言葉にコリーはそうだと応え、更にもう一振りを造り出す。

「武器を仕舞ってくれ。その程度の剣で、俺達を倒せたりしないから」

「ソイツはどうかな?」

 少年の言い分にコリーは少しムカついたのか、破魔を纏った二刀流で構える。

 が、ニーソが背後より抱きすくめ、魔法剣を下げさせた。

「まぁ、待って。知り合いが此方にいるみたいだし、ちょっと話しをするくらいなら、大丈夫でしょ?」

「しかし、コイツらは強いぞ」

「命を取られる前に、向こうが酷い目にあうわよ」

 コリーはそうだったと思い出し、魔法剣を消す。

 それを確認すると、少年一人と少女二人が降り立つ。

「突然の来訪に失礼しました。初めまして、俺はクリークと言う。此方はピースとリローデッド」

「ニーソとコリー、こちらがシルエットさん。カナタと蓮さん。後ろが生徒達よ」

 構えを解いたので、サモンを筆頭に生徒達が近づき、ニーソの後ろに整列する。

「……問おう、お前達は誰の弟子かな?」

 簡単に此方の自己紹介を済ませ終えると、コリーが単刀直入に問う。

「俺達はネイビー様のしもべであり、次元隔離召喚にて顕現している」

「吸血鬼で変化神の使徒であらせられる、濃紺ミッドナイト様の妹君。それがネイビー様」

「私達はその分裂体でもある吸血鬼。格付けでは弟子よりも上となるわ」

 クリーク、ピース、リローデッドの順番に喋り、コリーの問いに応えていく。

「……変化神の使徒!」

「わ、私達は。いや、シルエットさんと蓮さん。それに一部の生徒達を除き、あるお方の弟子です」

 コリーが驚き、ニーソが簡単に関係者だと示唆する。

「……我が師の名は、濃淡ディープ。破壊神の使徒が一人であらせられます」

 カナタが近づいて、指向性を持たせた小声で補足した。

 クリーク達が驚愕に目を見開く。小声で話す事に、一般人へ素性をなるべく隠していると察し、何とか声を出さずに我慢する。

「……私は、創造神の使徒である虚無ゼロ様の弟子であり、妻です。えーと、混沌カオス様とも家族となっています」

 側室やら第二夫人とは言わないでおく。創造神の使徒を知っているかどうかが、分からないためだ。

「創造神の使徒が弟子!」

「何なのこの人達、来る世界間違えてるって!」

「あわわ……!」

 知っていたらしいが、混乱しているようで、三人揃って頭を抱えている。

「オイラは虚無の全能兵器であり、カナタの彼氏だ。宜しくー」

 蓮が更なる爆弾発言をするので、ようやく復帰した三人だったが、その双眸は死んだ魚の目をしていた。

「……責任者を連れて来る」

 クリークが転位すると同時に、ピースが弟子でない生徒達を一瞬で気絶させてしまう。

「な、何を!?」

「コソコソするのは疲れるから、結界も張っておくわ」

 暴挙に慌てたサモン達を無視して、リローデッドが訓練場に結界を張っておく。

 兵士や貴族は邪魔以外の何者でもない。


「……お待たせした」

 クリークが責任者であるネイビーを連れて来た。

「何々、濃淡のお弟子さん達と、虚無さんと混沌さん夫婦のお嫁さん? あれ、言葉が変になっちゃった?」

 どうやらネイビーも少し混乱しているのか、ちょっと挙動不審である。

「……よし、把握したわ。集団召喚に巻き込まれたようなものなのね?」

「そんな感じです」

 ネイビーの問いにニーソが頷く。

「弟子ではない生徒達を、元居た世界に還す。よしきた、ちょっと光輝シャイニングあねさんに連絡してみる」

 ネイビーの中では光輝が頼みやすい使徒だった。

 {はい、光輝よ。どうしたのかな、ネイビー?}

 端末機の通話モードを起動させ、光輝に繋がるとネイビーは叫ぶように用件を言う。

「光輝の姐さん、大至急濃淡を寄越して!」

 {ん、いいわよ? 座標軸を教えて?}

 この世界の座標軸を教えると、しばらくして次元の裂目が開く。

『よっと、久しぶりね。ネイビー!』

 可変式万能型魔法機杖を後ろ腰に差し、妖精達が擬態した衣服を着込んだ、青い髪の少女が現れる。

「お久しぶり、濃淡」

『さて、感傷に浸る暇も無いかな?』

 跪いて頭を垂れる弟子達を見やる濃淡。

「いえ、私達は自力で帰れます。しかし、無関係な生徒達まではチカラ及ばず。不甲斐ない弟子で申し訳ありません」

『いいえ。一悶着あっただろうに、こうして生徒達は気絶しているとは言え、誰一人欠ける事なく揃っているわ。それだけでも凄い事よ、ニーソ先生』

 濃淡は特に責めたりしないで、無詠唱の次元転位魔法を行使し、離れた場所にある机や椅子を含めて、生徒達を次々と還す。

 この濃淡こそがニーソの師匠であり、休学から復帰すると生徒にもなる存在だ。

 使徒の中でも魔法に長けており、実力者の一人でもある。

『お、コリーも居るんだ。どうする、先に帰る? それともこの、異世界を自由に往き来出来る装置を、魂に埋め込む?』

「ニーソ、俺は精霊を止めるぞ! さー来い!」

 別に埋め込んでも精霊である事には変わり無い。ただ、ファンタジーが通用しない世界では、見た目通りの能力しか発揮出来なくなるだけだ。

『え、本当に良いの? 埋め込むと正式に弟子となるから、タメ口聞くとスバルお母さんやニーソ先生から、ビンタされるし、ハザードより下の弟子となるわよ?』

「万年弟弟子からだっせる!」

『お黙り、ハザード。アリア、あとで私の分までモフっといてね』

「はい、師匠! ハザード、モッフモフにしてヤンヨ!」

 浮かれているハザードをきっちり制裁する濃淡。

「か、構わ--」

『--本当に? ニーソ先生の尻に敷かれるかもよ?』

「…… う、うーん。そうか、姉弟子となるから、妻でもタメ口はダメになるのか」

「し、師匠、一体どっちの味方ですか!?」

 思わずニーソが濃淡に問う。

『妖精や精霊の味方よ。今世では特に』

 妖精や精霊を優先して考える場合もあるので、濃淡はデメリットを強調して、コリーの弟子化をよく考えさせる。

「……でも、同じ弟子なら子供も出来やすいみたいだし。このままだと高齢出産も現実味を帯びて来る」

 元居た世界で最強の精霊でもあるコリー、そのチカラを次世代へと引き継ぐ為にも、どうするかの選択はとても慎重だ。

「濃淡。私がチカラを使って、元居た世界にその精霊を送ろうか?」

『うーん、このまま迷う時間が勿体ないし、お願いしようかしら?』

 これで濃淡はネイビーに借りができた。

「分かったわ。いつでも帰してあげるから、この世界への用事が終わったら言ってね」

 コリーはいまだに迷っていたが、渋々頷く。ニーソとハザードが残念そうな表情をしている。

『では、接触許可証の無駄遣いは避けたいから、一旦帰るわ。何かあったら喚んでね?』

「おや、虚無が待ってるんだ。では、またね!」

 濃淡が消えると、その後に宗教服を着た男性が現れ、シルエットに近づく。

「シルエット、他の弟子が巻き込まれたからと言って、勝手に首を突っ込むじゃない。万が一囚われの身となったらどうするんだ」

「すみません、師匠様。でも、蓮君だけ自由にされているのは、何だか不公平です」

 虚無に反論するシルエット。

「報告、連絡、相談。この三つを守ってくれるのなら、別に構わない。今回はそのどれもしなかっただろ? お陰で混沌も心配していたんだぞ」

「すみませんでした」

 過ぎた独断専行は身を滅ぼす。ニーソ達は連結して対処しようとしていたので、弟子でない生徒を還せないという失態は、特にお咎め無しだったのだ。

「ちょっといいかな、虚無」

「なんだ、濃紺の妹さん。いや、ネイビー?」

 弟子への小言を中断して、虚無はネイビーへと振り向く。

「いやね、せっかくだから私の弟子兼旦那様を、紹介しようかなと」

「……あぁ、イチャついてる風に見えたかい?」

「正直言うとね。既婚者やら恋人だらけのこの場に、私一人だけって言うのも何だかしゃくなの。だから私も呼ぶ!」

 目の前にリア充共が当てこすっては爆発しているのに、自分だけ不発弾扱いなのは、なんかリア充でない気がしてしまう。

「紹介しよう、ミック君よ」

「よ、宜しくお願いします……」

 おそらく事情をろくに説明されていないのだろう。戸惑いを隠せないくらい、物凄く可哀想な目に合っているのは、他ならぬミックという少年だけである。

 しかし、そんな事はお構い無しに、面々は改めて自己紹介していく。

「ネイビー様、お姉様と呼ばせて下さい」

「コリーさん、兄さんと呼んでもいいですか?」

 案の定、似た者同士が仲良くなった。

「濃淡に怒られないかしら?」

「師匠は自分の使い魔である元兄をも捕食し、更には元恋人と寄りを戻したらしいので、怒られる筋合いがありません」

 ネイビーは曖昧に頷き、ニーソの発言を理解すると驚いてしまう。

「ショタから付き合い始めた者同士、仲良くしよう」

「はい。身長差があると大変ですよね」

「食べる量やら、歩幅やら。買い物が特に」

「自分の方が大きいけど、男の子なんだから持ってと、良く言われます」

 傷の舐め合い、もとい、慰め合うショタ二人。

 それを見聞きしていたネイビーとニーソは、壮絶な黒い笑みを浮かべている。

「ふふ、ミック君ったらハシャイじゃって」

「コリーも楽しそうね」

 比較的常識があるサモンとユイは、その迫力のある二人の態度を遠巻きに見て、心の中でコリー達へ逃げるよう警告していた。

 ハザードはアリアに頭を撫でられ、耳や尻尾を擽られて、脇腹を見せるように倒れている。その眼は虚ろで、肢体を小刻みに震わせつつ、地面へダイイング・メッセージを書こうとして、何度も失敗していた。


「蓮、武器化して」

「はいよー」

 仔竜だった蓮の姿が砂に変わって崩れ、舞い上がって集束すると、見た目は一振りの木刀にも見えるドスとなった。

 カナタはそれを抜刀し、横一文字に振るう。

 それだけで、リローデッドの張った結界は破られ、結界の周りに集まっていた兵士や騎士をも、立て続けに斬り刻む。

「ありがとうございました、虚無様」

「何、蓮を通して加勢しただけさ。どういたしまして」

 蓮が変化したドスから放たれる斬撃に、指向性を一方向へ集中させた虚無へ、カナタは礼を言う。

 蓮は元々が虚無の使い魔でもあるので、蓮を預けているカナタに協力するのは、主人として使徒として、当然の事である。

「何々、面白い事してるわね。私も交ぜてよ」

 褐色の肌を動きやすいように、惜し気もなく露出させた女性が、シルエットの背後に現れた。

「混沌様、濃淡様のお弟子さんが巻き込まれた、召喚に対するお礼参りです」

「へぇー、それはそれは、命知らずな連中ね。あら、濃紺の妹さんじゃない」

「ネイビー様を倒させる算段だったようですが、そんな目論見は先ほど粉砕されました」

「ははっ! 例え対決させたとしても、使徒に弟子が勝てる確率は、あなた達弟子が思っているよりもかなり低いわよ」

 後方に居た魔法使いの部隊へ、シルエットと混沌が攻城魔法をブッ放す。

 威力を抑えていたのか、城の半分と城下町の一郭いっかくが瓦礫の山となった。

「やれやれ、俺達の出番は無さそうだ」

「使徒とその弟子が暴れる以上、この国は滅ぶわね」

「貴族や王族を狙い打ちしましょうよ」

 三銃士も能力を全開にして突撃していく。

 標的は王族や家臣の首だけ、上流階級の全員を死亡させれば良いので、銃の類いすら平然と使う。

 音速並みの速度で飛ぶ鉛弾は、鎧だろうが盾だろうが、構わず貫いていく。

 それでも距離が離れていれば、取りこぼしも当然ながらあるので、国境から張った結界を少しずつ縮小していく。

 貴族達は逃がさない、逃げられない。

 例え関係無かろうと、召喚の噂くらいは知っていただろうし、どうであろうと止めなかった事には変わり無いのだ。

 止めなかった時点で同罪と言われても仕方なく、言い訳しても覆る事はない。

 異世界から召喚すると言う事は、その者の未来を変えてしまうのである。神様でもないのに、そんな神をも恐れぬ所業は、まさに非道極まりないと言えよう。

 等価交換のツケはトンでもなく大きいのだ。

「こんなもんですかね」

「シルエット、帰るわよ」

「ネイビーお姉様、今度は此方に入らして下さいね」

「またな、ミック」

 皆がそれぞれの世界に帰っていく。

「ふむ。亜人と精霊の夫婦に、龍人と全能兵器のカップル。濃淡の弟子は凄いわね」

「師匠、逆ハーは下手するとBLになるらしいです」

「……ミック君は私をそんな目で見てるの?」

 コリーに何か指摘され、誤解しているようなので、ネイビーはこんこんと言い聞かせ、ミックの植え付けられた先入観バッド・エンドを打ち砕いた。

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