第36話農地の譲渡
はい、俺こと老子です。
今日は天候というコード・ネームを持つ、クソ強い牧場経営者に、農地の譲渡で話があると言うので、精一杯のおもてなしをしつつ、面談している。
「いつも、主に濃淡の弟子達が、お世話になっているようだね。今日もこうして会ってくれて、どうもありがとうございます」
「いえいえ……。こちらこそ、お弟子さん方には、ムチャを聞いて貰ってますので」
「難しい事を言ってくれて構わないよ。義妹の濃淡からも、弟子の修行の一貫として、老子君のお願いに応えるように。と、聞いているし。弟子達も食べ物の恩もあって、承知しているからね」
通常、目の前に居るような、使徒の上位陣はヤバい存在だ。
遭遇直後の話し合いが成立しない事もあり、殴られて堪えた先が、ようやく交渉のテーブルとなる。
全くもって酷い交渉術だぜ。
その最初の一撃で死ぬような奴は、使徒として要らないんだと。
理不尽の更に上を行く理不尽。それに比べたら、人間だ亜人だなんてのは可愛いもんだな。
ファースト・コンタクト(物理)は手加減抜きだから、大半の使徒はそこでゲームオーバー。
向こうからすれば、テメェら、もう一度基礎からやり直して来い。これ、強制な。って感じに翻訳される。
それで、気が付いたら赤ん坊からとか、良くある話しなんだとか。
ちなみに、使徒同士でこそこうなっているが、相手が使徒ではない場合は、普通に会話が成立する。
ただ、貴族や王族は偉そうな態度を取った途端に、殺される可能性が高くなるんだとか。
上位陣は冗談抜きで、国を相手に立ち回るだけの実力を持つ。だからそう言った力ずくの会話も出来る。
神魔ですら人間相手には配慮してくれるそうだが、元人間の使徒は同族だったからか、容赦も配慮もへったくれもない。
死んでも代わりはいる。いないなら代役を立てればいいだけ。絶滅しそうだとしても、他の異世界にはまだまだいるから、別にこの世界から人間が消えても構わないんだとか。まぁ、なるべくなら衰退が望ましいそうだが。
そう言うのは破壊神の使徒達で、殊更にヤバい。悪魔や魔王よりも非道極まりないのだ。
外敵を狩る為だけに、惑星を一つ木端微塵にすると言う。
空腹時以外での接触では、死亡回避不可能と畏れられてもいる。特に下位陣の使徒からは。
希望がない訳では無い。空腹時に接触したなら、食い物を与えればいいのだ。破壊神の使徒は、食い物の恩は命より重いと考えているそうだから。
また、たったそれだけしか味方に付ける方法が無い。
金や名誉では絶対に動かない。
仁義だけに応える。それだけに、相手が神魔だろうがなんだろうが、助けを求めれば応えてくれるし、寝返る事もしないんだと。
俺は弟子達が料理に使う、野菜を主に生産している。
天候も破壊神の使徒達を食べさせる為に、生産者の役割を担う。余剰分を弟達に売らせたりもするとか。
弟子達の師匠である濃淡の義兄なので、弟子からすれば師匠も同然。
また、技量においては濃淡以上となるので、とんでもなく強い。
そんな使徒、いや、人から話があると言われたら、会うほかないだろう。
俺は一般人だから、いきなり殺されるなんて事はないが、弟子達においては、食い物の恩があるので、貸し借りを完遂するまでは、余命がある。
それ以降は要済みとして、消されてしまっても、何等おかしくないだろう。
身勝手に殺されないよう、貸し借りを作り続けなければならない。
「光輝姉さんが、また騒ぎ出したからね。農園のいくつかを、貸し出したり、譲ろうと思っているだよ。そこで、老子君も一つ貰ってくれないかな?」
「お心遣いありがとうございます。しかしながら、大変失礼ですけど。この森から出たくないのですが……」
「だろうね。土地と土地を転位させてもいいけど、それだと森の外に出るかな。……仕方ない、土地を物理的に繋げよう。それなら問題無いよね?」
問題しかありませんが、それが何か?
「えっと……その……」
「とりあえず、森の外側に、農地を丸ごと取り寄せて、元あった外側の土地を、これまた丸ごと向こうにやって、入れ替え完了と」
すみません、ゲーム感覚で土地の入れ替えなんて、ちょっと……。あの、生態系とか外来生物とかの問題が……。
つーか、リアルで建物の配置替えって、凄い時間と資金、労力を使うんだけど。
魔法でも消費魔力が見合わないだろうし、物質の転位は指定範囲を間違えたら、物質同士が重なり、核融合を起こしてしまう。
「確認して貰おうかな」
虚空に外側の風景を映し出され、元々の土地がすっかり農地として、整備されたかのような状態だ。
……そんなお手軽に、異次元同士の時空間を繋げて、異世界の土地と土地の入れ替えなんて徒労な事を、平然とされても……。
とてもリアクションに困る!
立体映像のように、虚空へと離れた場所を映し出したり、もう何が何だか分からないよ?!
「……あ、ネフライトに許可して貰おう。アートちゃん経由で、土地の入れ替えと、農地拡大の許可申請してと」
「…………」
「さて、ネフライト。森の外側も所有物だったよね? 老子君に農地として、ちょっと異界の土地と、入れ替えたりしたから。殺菌消毒や外来生物の駆除とかは、次元を通る際に終わらせてあるよ。……わかった、アートちゃんに伝えておくからね」
「…………」
「事後承諾だけど、恩人の家族のお願いとならばー、よろこんでー。だってさ。これで正式に森の外も所有物となったね。まだ一部だけど、申請すれば元々の領地までは、たぶん貰えるんじゃないかな?」
「…………」
「聞こえてないようだね。まぁいいか。では、お邪魔しましたぁ」
はっ! 天候は、居ない……。帰ったのか?
しばらくして気が付いたら、農地と管理する土地が増えていた。
な、何を言ってるのか分からないと思うが、俺もよく分かっていないから、説明しようがない。
天候に、自分の農地を押し付けられたのか?
いったい、どんな理屈や原理の魔法なんだ……。
「老子よ。現状を受け入れるのだ」
「……あ、あぁ。ひとまず……木々を移動させて、農地を囲み、森を拡大しておいてくれ」
俺は、もう寝るっす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます