第33話スライムを生け捕りにする方法

 専属の生産者になって、はや半年。

 納品ついでに、野菜娘達に弟子達の修行を中継して貰う。クエストに使う支給品の材料を、瓶詰め妖精と共に運ばせる。等といった事をしていた。

 勿論、俺自身は動かない。学校でも弟子の友人としてしか、コミュニケーションを取らない。

 あまり親しくすると、どうしても目立つからな。


 農園では様々な植物が栽培されている。

 魔法陣を小屋の壁や天井に描けば、なんちゃってビニールハウスのようにもなるのだ。ビニールじゃなく、ただのログハウスだけども。


 電力は火力発電の発動機を購入した。燃料が不死鳥の炎熱なので、低トルクでゆっくりとだが、タービンは確実に回ってくれる。

 不死鳥が擬人化した名前は響。

 また、低トルクなので発動機は多数あり、それぞれで燃料が違う。雷属性の鳥、電の妖精、日光を纏う猿達が賄うのだ。

 雷鳥は雷、妖精は電、日光の猿は暁という名前を名付けた。


「響だよ。不死鳥という名の半永久機関、なんて言われているよ」

「マスター! もーっと雷に頼っていいのよ!?」

「はわわ……ナスは嫌いなのです! あう、間違えました。 !すでのな」

「もー、お子様扱いしないで! 一人前のレディとして、きちんと働いているんだから!」


 発電中は野菜娘達が、アイスや羊羮を差し入れに持ってくる。

 コイツらのお陰で、仲間が増えていると言っても過言ではないからな。まぁ、ある意味オカンだが、作業している間の、身の回りの世話は娘任せで、既に養ってもらっているような感じとなる。


 響はスバルから送られ、電はディープの妖精が仲間になった。

 森に住んでいた鳥も仲間にしてあるし、最近は有機野菜を作る為に、鶏や牛も飼っている。

 糞と腐葉土を混ぜ、地下深くの土と入れ換える事で、寝かせつつ馴染ませるようにしているのだ。

 土を熟成させたり、発酵させる為だけに魔法陣を使うと、大気や土に含む魔力が減る。魔力が減ると作物の品質が落ちるようなので、魔法はなるべく使わないようにしたいのだが、既に森全体が手遅れ気味なので、質よりも量を作っていく。

 妖精達は菓子が目当てであるものの、菓子に使う砂糖を抽出するには、原料であるサトウキビを作る必要がある。

 つまり、砂糖さえ採れれば、含有されている魔力はどうでもいいらしく、高品質なのは亜人くらいしかウケないのだ。

 そもそも、魔力の塊である妖精に、魔力の良し悪しは分かって当たり前なので、甘い辛い等の味や食感の方が、物珍しく感じるらしい。

 俺的には旨味とかも引き出したいし、材料そのものの品質も向上させたい。材料の質が悪いと、上手く調理してもマズイものはマズイし、ウマイものはもっとウマくなる。

 しかし、妖精や精霊は、そんな細かい事より食欲が優先、とばかりに食べまくる。

 文化の違いが、モロに出ているのだ。

 例えば肉じゃが、シチューを作ろうと試みて、材料が足りないから、日本式のシチューとして作られたと言う話がある。

 カレーなんか、ほとんど原形が無い。モンブランは当初、栗きんとんを代用して作られていたとか。

 料理は、台所の錬金術と言う事もあるので、モンブランの逸話は、まさに錬金術と言えるしなぁ。

 肉じゃがも失敗したら、カレーに作り変えれる。おでんの汁を使って、カレーうどんにしたりも出来る。

 材料あっての料理なのだが、妖精は糖尿病にならないようなので、甘ければ何でもいい。

 まったく、角砂糖の角に頭をぶつけて死ね、と言いたくもなる。


 牧場のような農園では鶏の卵、マヨネーズ、牛のミルク、バター、チーズ、砂糖、大豆、味噌、醤油、豆乳、米、糠漬け、大豆油、米油、菜種油、酢、塩、みりんが採れる。

 薄力粉、強力粉、片栗粉、パン粉も少量だが作れる。小麦粉や米は別途で作るが。

 カビや酵母も使うので、パンやワイン、酒だって作れる。

 海辺にて、ヤシの木を採って来てもらうなんて事もあった。殻はタワシとかに使えるし、ヤシの実が森で手に入るなんて、ここだけだし。

 葡萄やリンゴ、ミカン、バナナ、桃、マンゴー、ドリアン、アボカド、ホヤだってログハウス栽培している。

 その多くが、野菜娘や果物娘達によって、大切に育てられており、最初の野菜や果物を擬人化に成功すれば、俺がほったらかしでも勝手に育ててくれる。

 納品分をスライム・ボックスに詰め、売り物にならない野菜を擬人化させていく。

 納品分が足りない時は、兵隊をリストラしていくのだ。傷物でも量でカバーすれば、穴埋めになる。


 さて、今農園で一番使うのは、スライム・ボックスだ。

 魔法陣を描いて加工する手間があるものの、段ボール並みに使うので、梱包の必需品となっている。

 その原料であるスライムは、森に住んでいる奴を生け捕りにして、野菜のクズを餌に養殖している。


 捕獲に必要なのは、網目の細かい竹籠のみ。

 一抱えほどもある、わらび餅なスライムを見つけたら、逃げたり奇襲される前に、ダッシュして竹籠を被せつつ、掬い上げて地面から離す。

 すると、表面張力が働き、網目の細かい部分へとスライム・ボディが入り込み、竹籠の中で籠の形に収まるのだ。表面張力によって水気が網目を埋める為、余剰分の保湿性が無くなり、身動きすら出来なくなる。

 籠に入れるだけで身動き出来なくなり、絶妙な生け捕り状態を保つ。それが竹籠というモノ。

 網目が大き過ぎると、ボディがこぼれ落ちてしまい、竹籠を消化して破壊する。細か過ぎると、表面張力の効果が薄くなり、触手を伸ばすだけの余力がある為、抵抗されて危険だ。


 竹籠である理由は、生の竹は節や幹の表面が絶縁体だから。しかし、炭化すると電球のフィラメントにもなる。

 生だと絶縁体なので電流は通さないが、電熱等の熱には弱く、枯れ草火災ではあっさりと燃えてしまう。

 電撃で気絶させ、核を圧壊すれば、餅ボディの品質がほとんどそのままとなり、魔法陣の加工も容易だ。籠に入ったままなので、ボックスの形も籠のようになるし、水分が生前と変わらず保ったままなので、多少の乾燥にも強い。


 スライムの出す糞や、鶏達の糞、スケルトンの砕けた骨、狼や猿の抜け毛、野菜娘達の残り湯的な出汁。それらを畑の土に混ぜたり、地下深くにてバクテリアによる、自然分解を促したりする。

 害虫の駆除で出る死骸は、モッチー達の餌や蟻の餌にもなるな。

 蟻の擬人化キャラは蟻酸を出してくる。蟻酸は酸の濃度が高く、また、揮発性も高いので、迂闊に近寄ると肺が爛れてしまう。スライムの消化液に蟻酸を混ぜ、死体の内臓や土を溶かして、肥料を作り出す。


 不馴れな野菜娘がスライムに食われる事もあるが、キソーの配下で、元エルフなスケルトン達が制圧するので、被害は最小限だ。

 ブッキーは炭鉱夫となって、掘り出した鉱石や宝石の原石等を、擬人化キャラにしていき、更に人海戦術で地中深くを掘り進めている。

 無論、鉄鉱石やクズ鉄、ただの石や土砂を運び出したり、竹の中を貫通させて、簡易ダクトにして酸素の供給をしたりもしているようだ。

 最近では粉塵の発生を抑える為に、掘削作業の最初に揮発させた蟻酸を、風魔法で流し入れたり、レールやツルハシ、スコップに重力の魔法陣を刻んでいたりもしているとか。

 多少酸で溶解するが、鉄や宝石を掘るのが仕事ではなく、あくまでもそれ等はオマケに過ぎない。

 必要なのは硫黄だ。温泉の水脈でもいい。

 俺達は農夫。攻撃力が低い以上、銃器や爆発物で火力を補うしか、モンスターに対抗する手段がない。

 野菜娘達の物量なんて当てにならないし、夕立や山吹色達が、カバー出来る範囲にも限度がある。


 硝石の成分だが、植物が養分として吸収する事もある。野菜や雑草から抽出すれば、極少量とはいえど手に入るのだ。

 しばらく待てば、硝石丘からも産出する。炭鉱からも出るだろう。土砂に紛れているだけで、抽出や選別を行えばいい。

 木炭は、枝や倒木を焼けば手に入る。


 植物は火に弱いので、消火する対策も整える必要がある。

 結界で酸素の供給を断つ。燃料となるモノを火の手から離す。熱を下げる為に、水や氷を撒く。土砂を火の上にかけていく。スライムを投げ込む。クレイ・ゴーレムを突撃させる。火事が起こっている地面を、真下へと陥没させ、延焼を食い止める。

 とまぁ、色々あるし、どれも発見次第ですぐに実行出来るモノだ。

 川の水を引き入れてもいるので、消火に使える水は豊富だし、畑の土地が水路より下なので、燃えても延焼はしにくい。


 土石流が怖いので、河川工事もしている。時間帯を決めておいて、所々を塞き止めては、開放して放流する作業を繰り返し、岩や流木を押し流していくのだ。

 最終的には下流で回収し、クマーが石像として彫刻したり、タマーが木彫りを作ったりしている。

 原案や発案は俺だが、その才能や技術は、間違いなくクマー達自身のモノだ。

 木彫りや石膏、石像等は、行商で売る商品にもなるし、兵隊にも出来る。

 睦月観音像や時雨大天使像は、人間相手に好評だとか。


 そう言えば、飼っている狼が増えた。

 ぽ犬な夕立の他に、忠犬な時雨、まろ犬な江風だ。

 三位一体となれば、ケルベロスにもなる。

 また、カラス、鳩、スズメがそれぞれ擬人化したキャラは、夜戦忍者、剣客な侍、芸者になった。


 掘り出した宝石の一つである金剛石は、色によって擬人化キャラが違う。白だと金剛、黄色は比叡、ピンクでは榛名、黒いと霧島に近い容姿となったそうなので、そのまま名前を付けておく。


「コンゴーでーす。白い粉が入った紅茶が飲みたいネー」

「砂糖って言えよ!」

「ダイヤモンドは砕けない! 気合い入れて、掘ります!」

「衝撃には弱いんだが」

「榛名は屈しません!」

「金剛石の石言葉は、不屈の王だったな」

「産出する鉱物の割合と、今までの種類の比率から、埋蔵量を出しました」

「そんな簡単に出せるモノかな……。温泉の水源はまだ先か」


 まろ犬と忠犬、ぽ犬等を撫でつつ、金剛達にツッコミを入れ、忍者達の使う武器を、根っこの魔法陣で作る。

 俺、農園を頑張らない代わりに、部下達に対するツッコミを頑張っているんだ。

 山吹色もツッコミ役に回ってくれるが、それでもツッコミが追いつかない。

 コミュニケーションってめんどくさいねー。こうなるのは知ってたけどさ。

 あー、精神的に疲れる……。早く温泉出ないかなぁ。

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