第31話ある日の修行
とある異世界のある日。カナタと蓮は最寄りの街に宿を取ると、砂浜での特訓がてらちょっとしたバカンスをする。
とはいえ、二人っきりではなく、濃淡の弟子数人が一緒だ。
戦闘服や制服、着物を脱ぎ、学校指定の海パン、紺色や白いスクール水着に着替え、沖合いのブイまで泳ぎつつ道中に現れる魔物を狩って行く。
蓮は万が一の為に救助要員として付き添う。
「頑張って下さいよー。依頼の成否にオイラ達の夕食が掛かってますからねー」
海面に程近い宙を飛び回り、目と鼻の先である弟子達を応援している。
「ちぇっ、少しは手伝ってくれても良いのに」
「寄せ寄せ、師匠クラスが扱う召喚獣だと、下手に強いから手加減が出来ないかもしれないんだぞ?」
弓兵のユイが文句を言うと、剣士のサモンが諌めつつ飛び魚っぽい魔物を斬り、その傷口へ魔法の矢が刺さった。
息絶えた魔物は、後方を泳ぐ料理人のヤマトによって捌かれる。その護衛が獣人のハザードで、
たまに蓮へと海鳥のような魔物が襲い掛かるも、蓮の鱗に弾かれ、反動で負傷してしまう。
「ん? この鳥って喰えるの?」
「焼き鳥や、鶏ガラならぬ鳥ガラスープ。北京ダック風にもできる。量は個体差で増減するけどな」
蓮がヤマトに、脚で捕まえた鳥を見せると、ヤマトは料理名を言ってきた。
「カナタ、回収を手伝ってくれないか?」
「わかったわ」
蓮とカナタが海鳥っぽい魔物を次々と狩る中、前方のユイとサモンが巨大なタコっぽい魔物に触手攻めを受ける。
「誰特?!」
「うっわー、ぬるぬるして気持ち悪い!」
海上に吊し上げられる二人が暴れ、ハザード達にも魔の手が伸びて来た。
「テレポート・スラッシュ!」
瞬間移動の力場を応用した斬撃で、タコを縦に真っ二つにしてしまうハザード。
「……お礼を言いたいところだけど、アレって私達も真っ二つになりかねないわよ」
「ユイ、スク水がヨレヨレになってるから、浜辺で着替えて来い」
サモンが目のやり場に困っている。
ハザードに頼んで、瞬間移動にて浜辺へと送って貰うユイ。
浜辺では砂の壁を固めた障害物を楯に、カニやヤドカリの魔物と戦う、魔法陣使いのアリアとニーソ、コリーの三人が居た。
「おや、どうしたの?」
「着替えよ、着替え。こっちはもう少しでブイに辿り着くけど、砂浜の殲滅具合はどう?」
アリアは説明が面倒臭いのか、ユイを手招きする。
「ご覧、どう思う?」
ユイが見やると、魔法剣を構えたコリーと、魔槍を携えたニーソが背中合わせに戦い、お互いの隙を補いながら魔物達を次々と葬っていく。
エリア魔法という指定した空間を限定的に自分の支配化にし、相手にとっては不利で自分に有利となるよう、アリアが魔法陣を使って魔物の素早さや回避力、攻撃モーションの妨害をしている。
更にエリア魔法内の二人は、自分達の動きに合わせて、流動的にエリア魔法をお互いに行使しつつ戦っていた。
3D・プロジェクション・マッピングの要領で、衣装の色彩だけを上書きするようなものなのだ。エリア魔法の完全な上書きとは違い、アリアの魔法に干渉する範囲も狭く済む。
これは濃淡が魔力で描いた風景画を元にして、アリアが主軸となり、コリー達が完成させた魔法だ。
この方法なら基本は二人一組、空間の全てを認識出来るなら、たった一人で無双状態が味わえる。
自分が纏うオーラ分の指定空間なら、流動するエリア魔法だとは気付かれにくくもなる。
欠点としてはなるべく接近しなければ、此方の攻撃力が伝わらない事であろう。
「圧倒的ね」
殺戮ショーがクライマックス間近だった。
「アリア、気を抜くなよ?」
「わかってるって、ハザードこそ、足を吊ったりしないでよ?」
ユイが奥で着替えてくると、ハザードはアリアに小さく手を振って消え、蓮の背中に現れる。
「お、帰って来たか。たった今ブイの交換が終わったところさ」
「あら、それなら後は帰るだけね」
蓮が手漕ぎボートを召喚し、水面に浮かせた。
「行きは水泳戦、帰りは水上戦だとさ」
水泳しながらの戦闘は、体力の消耗が激しい。かといって最初からボートを漕ぎつつ、戦闘しても修行とはならない。
ボートの操作や船上での戦闘という経験が、あるのとないのとでは、適応力に差が出てくる。
何処でも、何時でも、戦えないと弟子失格らしいので、蓮は遠慮なく修行の難易度を上げていく。
ちなみに、依頼はブイの交換だった。
波に揺られ上手く当てられない矢と魔法だが、接近を許すとボートが傷つく。その為、ユイやハザードが中心となって魔物を葬って行く。
カナタがヤマトの護衛に回り、サモンがボートを漕ぎ、ヤマトが回復薬を準備して支援する。
強行突破し、何とか浜辺に到着する頃には全員が息を荒げていた。
「はい、お疲れー! 浜辺の魔物も殲滅したみたいだし、夕方まで各自自由にしてくれー」
蓮が取り仕切っているも、強さがダントツで上となるから誰も異を唱えたりはしない。
そもそも弟子ですら無いし、出自からして普通ではない。
だから、言う通りにしなければならない理由も無いので、強制も出来はしないのだが、蓮に戦闘で勝てる弟子が存在しないのもまた事実だ。
文句があるなら、勝ってから言う事。もしくは、文句があるなら自分でする事、無いなら文句は言わない。
それが暗黙のルールである。
「蓮、ボート漕いでよ」
「いいよー」
カナタのお誘いに応じるべく、空中で龍人に変身し、宙返りしながらボートへ着地した蓮。
「蓮、あまり遠くには行くなよ?」
同じように弟子ではないコリーが、蓮へ釘を差す。
「わかってるって。闇の精霊は心配性だなー」
苦笑した後、ゆっくりと漕ぎ出す。
魔物達を解体し、死骸を地中深くに埋葬すると、コリーはビーチパラソルとシートを砂浜に敷く。
その近くではヤマトとハザードが野菜や取れたての肉を捌き、サモンがバーベキューの準備をしていた。
「コリー、白い椅子を出して。日焼けするから」
「それ以上、いや、何でも。焼き過ぎるなよ、あとで痛くなっても知らないからな?」
ダークエルフなのに焼くのか、と問う前に睨まれたので、慌てて忠告する。
「アリア、日焼け止め塗ってあげる」
「ありがとう、ユイ」
女子達は日焼け止めをパラソルの影で塗りっこしていた。
そこへ、ギルドに報告しに行ったフジが到着し、報酬をきっちり人数分に分けて、一人一人に手渡して行く。
「あれ、カナタさんは?」
「ボートデート中よ。その辺に置いて置きなさい」
ニーソがフジに言うと、フジはシートの端に報酬を置き、サモンを手伝う。
ちなみに、フジはぽっちゃり体型の女の子で、ヤマトの彼女である。
人間は体重に比例して重いモノが持てるそうなので、フジは鉄板の片方を持ち上げていた。
次にフジはハザードへと近づく。
「ハザード君、代わろうか?」
「あ、すみません」
年齢的には大差無いが、ハザードは濃淡が取った最後の弟子なので、ヒエラルキーの底辺に君臨している。頂点を占めるは高弟達だ。
「 おわっ、とと……。ここは、海岸線?」
寛ぐニーソ達より少し離れた場所へ、きらびやかな衣装を着た女性が、次元の狭間から現れる。
「……ん、誰?」
「どうかしたの……?」
コリーが真横を向いたので、ニーソも釣られて真横を見た。
女性と目が合う。
「……は、初めまして。私はシルエットと申します」
「初めまして、ニーソといいます。此方は夫のコリー」
「宜しく。で、シルエットさんは誰の弟子?」
単刀直入にコリーは問う。
「創造神が使徒、虚無の弟子です。この近くに仔龍か龍人の姿をした、蓮と名乗る方が居ると思うのですが、ご存知ありませんか?」
「あぁ、蓮の知り合いか」
「……コリー、ちょっと出掛けるわ。昼食は取って置いてね」
冗談や洒落では済まない案件が発生したので、ニーソはハザードを捕まえ、スバルの元へとテレポートさせる。
スバルはガンダムと一緒に、幼い子供の為に料理をしていた。
「一体何事?」
「創造神の使徒が弟子と名乗る、次元旅行者と会いました。どうしましょうか?」
「……ちょっと師匠に聞いてみるわ」
最初期の弟子は、他の神魔の使徒とは面識がある。
とはいえ、対の使徒の弟子とはあまり無い。
師匠達から連絡があるなら気にする事も無いが、連絡すら無いとなると、相手は詐称して弟子と名乗っていることとなる。
「その必要は無い」
リビングから続く階段より、若い女性の声が響く。
降りて姿を現したその人物は、獣耳を持っており、更に尾てい骨からは尻尾も生えていた。
肌の色は褐色、女性特有のボディラインを持ち銀髪紫眼。服装は学生が着ているような紺色のセーラー服。ただし、雰囲気が大人びているからコスプレに見える。
スカートの後ろに控える銀色の尻尾が、静かに揺れ動く。
「あ、あなたは!?」
「私の名はナイトという。破壊神の九番目の使徒兼ガーディアンよ。それに私は師匠代行も、濃淡先輩から承っている」
跪くスバル達を手で制し、普段通りにするように言うナイト。
「して、創造神の使徒が弟子と邂逅した件だが、私が伝え忘れていたのよ。済まないわね、これでも身一つで作業を……作業、作業。……もう作業したくないー」
登場早々にナイトの精神が自己崩壊した。
泣き崩れる程に忙しいのである。
「仕事を終わらせても終わらせても、先輩達が次から次へと仕事を積むの!」
「お、落ち着いて下さい!」
スバルとガンダムが両側を持ち、席へと無理矢理座らせた。
「うう……。済まない、不甲斐ないところを見せた。シルエットは向こうの世界で休みの日に、たまに此方へ遊びに来るだけよ。その内入り浸るかも知れないけど、弟子同士の接触は、特にルールも何も無いから大丈夫」
これを聞いてニーソは安堵する。
「良かった、修行の途中なのにシルエットさんを倒せとか、そんな命令は無いんですよね?」
「まず、シルエットを物理的に倒せる奴が少ないから、そんな無謀な命令は出ない」
ナイトはスバルが出した
「……理由を聞いても?」
「禁則事項だ」
というよりも、ナイトは創造神の使徒では無いので、推測しか出来ないし、推測は所詮推測の
「ちなみに、創造神の使徒である虚無の側室よ。正室である混沌が許可しているから、浮気とは違うそうだ」
「はぁ……、それで蓮さんとも知り合いなんですね」
ハザードの言葉にナイトは頷く。
「では作業に、帰りたくないなー……。憂鬱だー……」
愚痴りながらも二階へと向かう。
おそらく、上がる途中で次元を超えるのだろう。
「……それでは帰ります。お邪魔しました」
「失礼します」
ハザードと共にニーソは浜辺へと帰る。
漕ぐのを蓮に任せ、カナタは新しい魔法陣の構築に取り掛かっていた。
「鮭だけをピンポイントで召喚するには、召喚陣の展開場所を、二つ前の異世界にある、鮭の養殖場に固定して、と」
「カナタ、無理しなくてもいいんだぞ?」
「いえ、無理じゃないから大丈夫」
蓮は漕ぐのを止めてカナタの方へ近づき、呪印を結ぶ両手を包んで優しく微笑む。
「元魔王だったからって、気張っても仕方ない。出来ない事があるからといって、カナタを見捨てる程、俺は薄情者では無いよ?」
「蓮、それは人として、竜として当たり前の事よ」
カナタとしては、折角手に入れた全能兵器な彼氏を、みすみす手放す訳にはいかない。
蓮の場合は念願の彼女、しかもそんじょそこらの雌より強く、主人と同じような使徒と知り合いだから、秘密を抱え込まなくてもいいという優良物件だ。
双方共にほぼ一目惚れに近いので、良く見つめ合っては二人の世界へとトリップしてしまう。
「カナタ、ここで良いかな、良いよね。良いじゃないのー?」
「蓮、我慢してね。ダメよー、ダメダメ」
海岸から二十メートルという距離なので、淫らな行いは物理的に粛正される。
蓮はため息を一つついて、海岸へと向かった。
「――それでねー、その時コリーがこう言ってくれたの、強いのか弱いのかハッキリしない奴だ、お前が強くなるまで俺が鍛えてやる。って!」
「わ、私だって、虚無から――」
カナタと蓮が帰ると、女性陣は昼食を食べながらの、男性陣の公開処刑が始まっていた。
カナタも参加するべく、蓮から言質を取った言葉を復唱し、蓮の台詞が、引いては自分の彼氏が一番カッコいいとノロケに行く。
蓮は処刑に耐え抜き、男性陣同士で昼食を摂りつつ、彼女自慢に参戦する。
しかし、所詮は交際までしか行っていないので、ニーソとコリーの敵ではなかった。
とはいえ、流石の二人もスバルとガンダムには敵わない。
愛だの恋だの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます