第27話エキスパート

 俺が目覚めると、いつの間にか夕方になっていた。


「気が付いたか」

「確認するけど、私の師匠は誰でしょう?」

「ディープという魔法使い」

「その通り。正確には魔女王と呼ばれ、原初の世界に居る魔王と、双璧を成すほどの実力者よ」


 ただし、魔法は尻から出す。


「……さて、これから老子には、師匠専属の農家になって貰うわ」

「妖精達の、エンゲル係数がヤバいんだったな。今は魔力で誤魔化せているが、魔力だけでは物足りない、と言う妖精も出てくる。だが、料理や菓子は他の亜人達も食べるから、独占する事は不可能」

「そう。故に老子には、師匠の妖精達が食べる料理や菓子の、材料を生産して欲しいのよ。調理はコチラでやるわ。師匠が連れていけない妖精達の、面倒を私やスバルといった弟子が見る以上、とにかく材料がいるの」

「その材料がどこからもたらされるのか、その土地はどこにあるのか。そこら辺はコチラで秘密にする。その程度はどうとでも可能だ。場合によっては、妖精達が自主的に隠蔽もしてくれるだろう」


 そりゃあ、自分達が食べる料理の、材料の生産元だからな。守らないとご飯や菓子が食べれなくなる。

 それは死活問題だ。

 自分達の砂糖を狙う奴は、手痛い目に会って貰うしかない。とか思うだろうよ。


「そうそう、弟子の紹介もしておきたい。学校に行って貰うぞ。これは強制だ」

「はぁっ!? 聞いてないぞ!!」

「言って無かったかも知れないが、これには従って貰おう。後戻りが出来ない以上、拒否権も黙秘権も無いんだからな」


 ちくしょう! 安請け合いが過ぎた!


「くっ。……ところで、記憶情報と現実のズレってあるか?」

「約百年くらいはズレてるかな。弟子が寿命とかで死んでないのは、身に纏う時間軸が、この世界とは違うから」


 世界は上下に分けられる。上位の世界から下位の世界へと渡るのは容易いが、その逆は難しいと言う。

 時間軸もバラバラで、ニーソ達が前に居た世界と、この世界は時間の流れが異なっているそうな。

 この世界で一日が経過しても、元居た世界では数秒しか経っていない。ウラシマ効果のようなモノらしい。

 で、原初の世界で生まれた人間は、総じてクソ強いそうな。

 枝分かれしていった世界の原点であり、最初期の宇宙なのだから、頂点にして中心の世界観でもあるとか。

 だから、どんな異世界や別世界にも行ける。どの世界も原初の世界と比べたら、常に下位の世界となるので、生まれながらのチートを持てる。例えば魔力量、原初の世界で百しかなくても、下位の世界なら千や万にも跳ね上がる値となるそうだ。

 転生や転位しても、その存在値はほとんど変動しない上、使徒なら記憶も引き継げる。


 要するに、師匠に勝つには、修行する時間が足りない。一生を賭けても、逆立ちしてもムリ。

 ならばどうするか、有限の時間を無限に近付けるしかなくなる。

 師匠が弱った瞬間に、不意討ちして勝つくらいしか、勝てる条件が厳しいのだ。

 時間軸を上位の世界に固定しておけば、この世界で何十年、何百年と経とうが、寿命を迎える事はない。

 故に、師匠を探す弟子も居るし、修行を半ば放棄した弟子も出てくる。

 それぞれの専門分野では、師匠を超えた弟子だっているだろうが、単純な戦闘では誰も勝てない。

 勝てないのに、師匠を見下すような真似が出来るほど、どの弟子も性格が悪いはずもなし。


「だったら、情報は古いんじゃねーの?」

「劣化しても、前と変わらない価値を持つ情報だってある。使徒とはそう言うモノだ」

「今も昔も強いって事か……」

「使徒が存在している理由や、使徒の上司とかの情報も、確かに古くなっているものの、その情報は色あせたりしていない」

「途方もない役目だもんなぁ……」


 調子に乗っている神様を、捜し出してシメてこい。っていうのが、要約した仕事内容だ。

 できたら、異世界の技術水準を上げるなり、使徒の候補を見つけて、次代の使徒となるように育てろ。っていう戦略もある。

 上司も動いていて、ダンジョンのような箱庭物語を用いて、英雄を生み出しては使徒の雛型となるように、試練の数々を与えているとか。

 今居る世界だけでなく、他の世界も救え。それが外敵と呼ばれる、よその世界から侵略して来た、神をシメる事に繋がるのだ。


「突然だから、何も準備出来てないが?」

「こっちも手続きとかがあるので、まずは俺達が住んでいる古城で、色々と軽く教えてやるよ」

「では、学校行きつつ農業して、ギルドのクエストを受け、その報酬で種や苗を買えって事だな?」

「強制なのは学校だけだ。ニーソ達が代行して、苗とかを買う。勿論、クエストに参加したければ、参加してもいいぞ。弟子の友人を守るのは、普通の事だからな」


 友人枠として、目の届く場所に置いておきたいだけか……?

 それくらいなら、いや、何かあるな。

 待てよ、妖精達の総数は知らないが、弟子も結構いるっぽいぞ。となると……。


「俺を学校に通わせる目的は……妖精達だけでなく、弟子を含めた自分達の、食材も用意しろって事だろう!?」

「善意からだよ。この世界の一般教養に常識、マナーを学んでおけば、俺達を頼らなくても、自分で何とか出来るようになる」

「それ、ただの社会人じゃねーか!」

「頼むよぅ。私達弟子って大半が学生なの。大人の稼ぎと、学生によるクエストの稼ぎ、もろもろ合わせても、妖精達に食費のほとんどを、食いつくされてしまうのよー」

「…………はぁ、分かった。分かったから、すがり付くのをやめてくれ」


 大の大人なダークエルフが、幼女なエルフの足に、スリスリしつつすがり付くんじゃないっつーの。


「では、一週間後に」

「くそったれめ、やってヤンヨ!」


 俺は森に帰ると、ダメ亜人の弟子集団に、妖精達の胃袋を満たすべく、農業用に作った畑のウネを拡張させ、農園規模の開墾を行う。

 とは言うものの、ゴーレムや野菜娘任せだが。

 そんなこんなで俺は、生産ポジションな友人枠で学生をしつつ、弟子達の食材調達要員となるのだった。

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