第16話擬人化の魔法陣

 山吹色を伴って、ブッキーのテリトリーに入ると、すぐにブッキーがやって来た。

 クレイ・ゴーレムと合体して、キャスター付きのイスのようにしている。

 いや、あれだ。セグウ〇イが近いな。頭の上に居るし。


「おい、アレはゴーレムか? アルウラネか?」

「ブッキーが改造したゴーレムに、ブッキーが乗っているんだ」

「ん? お主が改造したのではないのか?」

「ブッキーに召しあげられた。触手には勝てなかったよ……」


 くすぐりによる拷問はアカン。蛇ですら堪えられないのに。素人の俺が堪えられるはずもない。


「やぁ、老子にドラゴン。決闘はどうだった?」

「ブッキーよ、我の負けだ」

「負けたかぁ……。はい?」

「老子、あの仔犬、ぽ犬はどうする?」

「夕立は放っておいていい」


 唖然としているブッキーを放置し、山吹色はゴーレムに身体を擦り付け、泥まみれになっている夕立を見ている。

 犬のサガか何かなんだろう。肥料に鼻を押し付けたりするし。前世で飼っていた犬は、リードを噛みちぎって脱走したりもしていたな。鎖に代えたら、脱走を諦めていたけど。


「ぽいー、ぽいー」

「……はっ! 異物混入でゴーレムが動かない! これは夕立だなっ、パージ!」


 ゴーレムの足を分離して、夕立から離れるブッキー。

 多少の異物なら問題ないが、深いところにまで入って来ると、ゴーレムは除去しようと自分の体を、自分で攻撃したりするようだ。

 で、再生や復元して元通り。


「老子、あなた強いのね! 私に負けたのはワザとなの?」

「準備不足でどんな相手かも知らないから、負けたんだよ」

「ドラゴンだって、どんな相手か分からないのに?」


 ドラゴンがどんな存在かは、だいたい想像がつく。

 前世の情報もバカにならんのだ。

 対して、アルウラネとは同じ土俵、同じ条件。それを覆す手立てが無かった。

 当然ながら、今はあるけど。


「転生者や転位者にとって、我らドラゴンはいいカモなのだろう。逆にマイナーなモンスターになるほど、攻略の手立てや情報が乏しいとみた」

「でもさ、マイナーだとごり押しで勝てるって、存外に言われてるんだけど?」

「思った以上にタフだったりしたら、俺のチートが通じないだと!? って感じに狼狽えてしまうんだよ」

「戦闘が長引けば長引くほど、せっかく勝てるモンスターだと言うのに、相手が逃げてしまう。そういう事もあるのだ」


 ブッキーが本気出せば、花粉をばら蒔き、相手の炎系の魔法を利用し、炎の壁や爆発とか起こせそう。

 炎を消す為に水や氷の魔法を使うか、土の魔法を使うかとなる。どれもブッキーには効果が薄いし、炎がそれを更に弱める。

 現実魔法の弱点は、法則に従う点だろう。これが幻想魔法なら、炎を消して一方的に攻撃する事も出来る。

 幻想魔法の下位互換が現実魔法である以上、科学で武装しても、その効果は塗り替える事すら出来ない。


「しかしながら、チートな異能力と武術は別だ。魔法より異能力、異能力より武術、武術より魔法という三竦みがある。以前対峙したダークエルフは、武術のみで我に打ち勝った」


 異能力はスキル、武術はアーツとも呼ばれているらしい。

 何故、異能力と魔法では異能力が優るのかというと、単純に効率の差だとか。発現するまでの早さにおいて、無詠唱よりも早く異能力が発動するので、競り負けてしまうのだと。

 異能力と武術で武術が優るのは、思考の差にある。戦闘時は様々な状況が起こるので、頭が混乱するなんて事もあり得る。敵をサイキックで吹き飛ばすより、剣で斬った方が断然早い。

 また、武芸の熟練者に超能力で挑むと、ほとんどの場合異能力者が負けるという。

 武術と魔法の差は、どちらが如何に早く相手を捕捉出来るかにある。

 大抵は魔法が遠距離で捕捉と同時に攻撃もしてくる。だが、気配すら絶っていると探知が難しくなるので、いつの間にか武術の間合いか、銃で狙撃されてしまう。

 異能力に優る武術に対し、単純に魔法だけでは防げないのだ。

 だから、魔法使いも剣、もしくは剣にもなる杖を持つ。

 代用可能なら、槍や木刀でも杖になるものの、魔力の伝導率が落ちるので、魔法の威力も下がってしまう。


「そのダークエルフの名前って?」

「魔槍使いのニーソと言っていたな。今も現役の傭兵で、ゴブリンを手駒として鍛えているとか」


 この世界のゴブリンは、弱い部類となっている。一体一体は弱いが、群れで襲われるとエルフでも拐われてしまうとか。

 たまにトロールが率いていたり、オーガの手下だったりもするらしい。


「群れって、どれくらい?」

「五十以上、百未満だ。それをトロールやオーガが率いるので、ごり押しで負けてしまうのだよ」


 とはいえ、ドラゴンには向かって来ない。

 トロールやオーガが居ても、こんがり肉にされてしまうから。


 山吹色が住むテントを建て、擬人化する魔法陣の基礎を組み上げていく。

 まず、人化の術式。二足歩行の術式、重心移動、手の使い方、鼻や口、頬の存在。視野と視線の位置、髪や服のオート化。これ等に、衣服の概念と羞恥心の規定、武器や道具の扱い方を加えていく。トイレや食事のマナーに、清潔を保つ意味も入れておこう。

 そのままの円陣ではかなり大きくなるので、立体的な魔法陣を用意する。

 結晶を圧縮して球体に加工し、その球体の中に魔法陣の術式を詰め込む。陣の円形は球体の丸みで代用する。自動的にループするので、少ない魔力で効果が出るのだ。

 球体を持って魔力を流すと、淡く光りを放つ。その光を指定した範囲に照射すると、その範囲内の存在が変異し、人の姿を形作る。


「なんか魔道具っぽくなったな」

「ちなみにゴーレムの核にも、似たような術式が中に刻まれているわよ」


 それを流用すれば良かったかも。

 中身を模倣して、多少修正を加え、核を球体にした結晶で量産していこう。


「スタイリッシュなゴーレムだな」

「四足歩行とかも加えていけば、獣のゴーレムだって作れそうだ」

「重心移動や足の動きはどうする?」

「複雑で無理そうなら、核から微弱に放電させ、死体の筋肉に電流でも流しておくさ。ゾンビ・ゴーレム、いや、フレッシュ・ゴーレムか」


 早速だが、夕立を擬人化させよう。

 いや、泥まみれでは汚ないので、まずは夕立を洗おうか。


「ぽ犬様の泥を落とそう」

「水と風、火の魔法陣を、組み合わせるとはのう」

「ぽいー!?」


 山吹色に抑え付けてもらい、水で泥を流して、温風を当てて乾かす。

 そして、擬人化の光を照射する。

 夕立の身体が光輝き、その姿がドンドン人間へと近づいていく。しばらくして、俺より小柄な女の子が現れた。


「匂いが落ちるから、イヤっぽいー! あ、あれ? 夕立、マスター達と同じ姿っぽい!?」


 あ艦コレ。幼女を戦わせていたのか俺は。

 いや、自然界では普通だろうから、セーフなはず。

 朱色のロングヘアーに八重歯が覗く口元、上下が紺色のセーラー服を着ていた。

 顔立ちは幼いが、着けた首輪をきちんとしている。

 奴隷に見えなくもないが、この世界の奴隷は魔法的契約書で縛られるので、首輪をしている事はないらしい。


「陸上駆逐艦、夕立。出撃っぽい?」

「まてコラ。何処に陸上の船要素があるんだ!」


 擬装とか見当たらないし、そんなモノを組み込んだ覚えもない。


「これから、マスターやブッキーの草花で作るっぽい」

「これからかよ。だったら船じゃなくて、戦車にしておけ」


 戦艦や戦車、飛行機について教えておく。

 山吹色によると、この世界にも昔はあったそうだ。

 実際に戦った事もあり、火球の直撃にも耐え、中々の波状攻撃をしてきたらしい。でもドラゴンの接近には対応出来ず、亀のようにひっくり返されたら、何も出来なかったとか。

 飛行機や戦闘機は脆く、速さだけ。ミサイルも当たれば痛かったが、火球の熱に誤って誘導されてしまい、あまり当たらなかったようだ。

 戦艦や潜水艦もあったが、別の竜や龍が相手したらしい。同胞が言うには、水面下の船体に細かい傷を付けるだけで、その修理に追われるため、脅威にはならなかったと。

 潜水艦の魚雷を掴んで戦艦にぶつけ、戦艦から落ちた砲弾を、水中で暴発させれば、それだけで潜水艦はまともに動けなくなる。泡の被膜やエコーも吹き飛ばせるし、そもそも龍には効かないので丸見えだったとか。


「ドラゴン以外には通用しても、我等にはほとんど効かない。火龍の放つ本気の火球は、核兵器すら凌駕するのだからな」


 火の古龍さいつよ説は、核兵器を打ち込まれても平然としていたため。

 核兵器が火龍の放つ熱量に匹敵するのであって、互換性は皆無。下手すると地盤の世界ごと、滅してしまう。

 風の古龍はスーパーセルを纏っているし、雷の古龍は雷雲から出て来ない。地やあらかねの古龍は地震や熔岩で殲滅して来る。

 自然災害のオンパレードを前に、人類は無力だった。こればかりはどうしようもない。

 そもそも、軍隊が相手するのは組織だ。怪物や世界そのものを相手に出来る事は、せいぜいが足止めだけ。そんなモノを想定して作られた訳ではないし、想定していたとしても、抑止や備えには優先順位がある。

 優先順位が高いモノを中心に、予算編成され物流は動く。

 根本的に、求められたり頼られるのは、お門違いも甚だしいのだ。


「夕立、マスターと散歩に行きたいっぽい」

「よし。行くか」


 山吹色から貰った鱗と、ブッキーが集めた植物を加工して、大部分が植物で出来ている、射撃機構をでっち上げた。

 花粉を砲弾内に半分ほど充満させ、一・二回振ってから薬室へと入れる。撃鉄に加熱の魔法陣を描き、砲弾内部で粉塵爆発を起こして、竜鱗の弾丸が飛んで行く。

 蔦を寄り合わせたライフリングによって、弾道が安定するので、そこそこ命中率は高い。

 後は連射性や小型化、貫通力や威力を上げれば、ヘッドショットも出来るようになる。

 ちなみに、万が一の滷獲を恐れて、ほとんどの部品が使い捨てだ。砲身なんて射撃時の熱で焼け落ちる。一回だけしか使えない為、銃器を大量に持っていく必要もあるな。

 砲弾も少ない。が、中身を釘や結晶にすれば、散弾にもなるので、多少の融通は利く。

 夕立の身体能力が高いので、先制攻撃か、止め用の武器だ。

 まぁ、モンスターがザコなので、先制攻撃で仕留める事が多いのだが。

 竜鱗も素で硬いため、火力は異常なまでに高い。

 試射でゴーレムの腹に風穴を空け、山吹色からも使えると太鼓判を押された。


「ぽいぽーい、ぽい!」

「多少熱いだろうが、我慢してくれ」

「たまに薬室が吹っ飛んで、威力がガタ落ちするっぽい」

「要改善点だな」


 射撃の際は、スライム・ボックスの上に砲身を置き、地べたに寝そべって、狙撃手のように撃ってもらっている。反動が強いし、屈んで射とうが立射しようが、障害物だらけなのは変わりがない。

 それに悪条件でのデータの方が貴重だ。善い条件のデータはいつでも取れるからな。


「少しくらい外れても、追尾してくれる武器が欲しいっぽい」

「追尾は無理だが、一定の距離で弾丸が散らばるようにしてみよう。殺傷力より命中率に重点をおいたモノになるが」

「途中で散弾みたくなるっぽい?」

「全方位に散らばるから、自分への被弾もあり得るぞ」


 竜鱗にヒビでも入れておけば、発射時と直進中の抵抗で、鱗が割れるようになるはず。その鱗の周りに砂鉄でも詰めておけば、鱗が割れるのと同時に、砂塵が拡がると思うし。

 当然、竜鱗が発射の途中で割れるので、弾丸も分かれて進む。威力は落ちるものの、対処するのは難しいだろう。

 弾丸が見えている場合だがな。動体視力が良ければ、弾丸を見て動く事も出来るらしい。

 犬と一緒にテレビを見ていても、犬にはテレビ画面が短い間隔で点滅して見えるとか。


 一つ例を挙げよう。

 名銃AK-47は、優れた設計で古くから世界の東西を問わず使われていた。その優れている理由は、巧妙と言っていいレベルで素晴らしく雑に作り込まれている事だ。土埃を被ろうと泥にまみれようと、どんな悪条件でも確実に弾丸を発射できる。かっちりと精密に組み立てられた銃では、作動不良を起こしてしまう。そして、単純で安価。それらが世界中の戦地で使われている主な理由と言っていい。

 一秒間に十発もの弾丸が瞬時に発射され、全弾三秒で撃ち切ってしまう。また、その雑な作り故に引き代の誤差が一定で無く、使い込まれた、もしくは新品のAK-47であろうと発射軌道は一定でない。そして、精度にバラつきがある以上、どんな射手ですら意図せぬ場所へと弾丸が飛んでしまう。

 そこに人の意思が働かない以上、殺気を感じて避ける事はできない。ましてや、秒速七百三十メートルの弾速を、間近で見切る事は不可能となる。


 この射手ですら分からない弾道を、分割する竜鱗という弾で再現するのだ。

 ショットガンから発射される散弾は、確かに命中率が高い。しかし、命中率と引き換えに、威力は低い。粒状の弾だけでは、至近距離でないと貫通もままならず、離れた相手ほど、一撃で行動力を奪うに到らない。弾がバラけてしまい、ほとんどが外れてしまう。

 それに散弾は、粒状の弾が重なる事はあっても、後方や横へと飛ぶようには、作られていない。


 どうせ使い捨てにするのだ。撃った後に薬莢や芯となる弾を、律儀に拾うのも面倒だし。

 砲身や薬室は結界の魔法陣で補強し、粉塵爆発の圧力が一方通行となるよう、カバーは紙で巻き固めてもいる。

 使ったり、暴発したりしたら、地面に埋めてしまえば、勝手にバクテリアとかが分解して、腐葉土となる。


「状況によって違いはあるが、最適な距離で分割させないとな」

「テストを続けるっぽい」


 こうして散歩をするのは、何も夕立の運動やテリトリーの見回りに、付き合っている訳ではない。

 地面に細長い根っこを張り、線となるように巡らせているのだ。

 また、別の根っこと合流すれば、線は円となる。その小さな円を点に置き換えていけば、点は線に変化し、線は大きな円へと形を変えていく。

 そう、この森の至るところに、魔法陣を仕込んでいるのだ。

 これは竹の地下茎を参考にしている。地下茎で竹は全て繋がっているし、そこからたけのこが生えてくる。地中にあるうちはえぐみ成分が少ないが、地上に出て空気に触れると、えぐみ成分が生成されマズくなってしまう。

 そうした一つ一つは細長い根っこなので、他の草木の邪魔になりにくい。また、山吹色に勝てない以上、俺に勝てるモンスターの方が少ない。動植物の大半が俺の庇護下となる。

 歯向かうモンスターは、擬人化して説得するか、攻撃して倒すしかないが。


 巨大な魔法陣を運用するには、とてもではないが魔力量が足らないので、魔力を自動で補給出来るよう、個別化した魔法陣を連ねてある。無論、森の外周付近に沿った円陣の一部にもなるし、個別の魔法陣としても使えるように、複雑かつ複数を組み合わせている。

 先程も言ったが、他のテリトリーに侵入したところで、俺に向かってくるモンスターは少ない。

 だからこそ実現したのが、この索敵、拘束、結界、探知、偵察、監視、回復等々、とにかく詰め込んだ巨大な魔法陣だ。詰め込み過ぎて起動させたら、どれもこれもが微弱な効果しか発揮しなかったが。

 個別に起動させる分には、そこそこの効果があったので、とりあえずは良しとしよう。

 ほぼ失敗なのだが、無いよりはマシだ。


 散歩がてら、蜂の巣を強襲しよう。


「夕立、なるべく多くの蜂を、惹き付けておけ。小太刀な木刀を、二本やるから」

「ぽーい。夜戦の舞いっぽい!」


 今は昼間だけどね。アローラしたら美人な、夜戦馬鹿みたいにはなるなよ?

 いや、マジで手がつけられなくなるから。


 サナギ状態な蜂の子を拉致し、擬人化して仲間にするのだ。芋虫状態の蜂の子も連れて行こう。

 ついでに蜂蜜も採取しよう。

 成体な蜂を擬人化してもいいが、おそらく話し合いにはならない。だって、食虫植物は敵だと教え込まれている以上、その価値観を覆すのは手間だ。

 また、擬人化したら余計に攻撃が、多才にもなりかねないし。

 だったら、幼虫とかを洗脳した方が手っ取り早い。

 禍根は残るものの、根絶やしにしないだけの慈悲はある。

 前世ならいざ知らず、この世界で殺戮をする意味がない。


「夜戦だー夜戦だーっぽい!」


 夕立はがむしゃらに蜂へ木刀を振り回す。近づき過ぎて当たった蜂は、地面に叩きつけられてしまう。

 撃墜された蜂が飛び上がる前に、夕立は羽を蹴りで潰していく。

 飛べない蜂は、ただの蟻だ。


 そうそう、蜂と蟻は親戚にあたるくらい、とても良く似ているらしい。で、どちらも蜘蛛の天敵だとか。

 蜘蛛の糸を羽ばたきで切り裂くし、蟻酸で溶かす事もあるらしい。蜘蛛は基本的に罠を仕掛けた狩りが得意分野で、罠が通用しない相手が苦手なのだろう。

 ちなみに蜘蛛とサソリも近縁種で、体の作りが似ているとか。

 まぁ、サソリの尻尾から繰り出される攻撃は、ほとんどの虫が避けられない。カブトムシですら毒にヤられると言う。

 三次元での攻撃なんて、虫の世界では珍しいからなぁ。


 おっと、女王蜂と親衛隊が出てきたようだ。

 蜂の子や蜂蜜も取れた事だし、ここいらが潮時かな。

 そう言えば、蜜蜂は雀蜂を倒す時、密集して雀蜂の周りとその体温を上げてやり、熱で焼き殺すように撃退する。

 ファンタジー生物だろうが、野生の動植物だろうがほぼ全般が、たんぱく質と水で出来ている。

 人間を例に出すが、たんぱく質は三十五度から三十七度で安定するものの、三十四度を下回ると固体化し、三十九度を上回り始めると液体化する。

 人間や人間に近い生態の生物は熱に弱いと言える。

 炎系の魔法が強い由縁だな。

 他にも、ナトリウムや炭素を抜き出す魔法があれば、生物を抹殺する事も容易い。ゴーレムや金属のモンスターも倒せる。

 火の次に、土系の魔法が強いと思っている。

 水も生物には重要だ。水分を抜き出す魔法があれば、あるいは凍らせてしまえば済む。

 風系の魔法で酸欠や窒息も出来るだろう。

 四大元素のどれもがヤバい。魔法的にも科学的にも。

 つまり、炎や火となる前の段階にある、百度未満の熱で炙れば、時間は掛かるが蒸し焼きに出来ると言う事だ。

 抵抗力や耐性が強くても、物理的に追い詰める事は、決して不可能ではない。


 そんな訳で蜂の芋虫やサナギを擬人化し、言う事を聞いたり、忠誠を誓うまで拷問していく。

 壺毒という、毒を持つ虫という虫を集めて壺等の密閉出来る容器に入れ、最後の一匹になるまで争わせ、残った虫には強力な毒を持たせるという呪術がある。

 それを芋虫に限定して、一部で試してみるのもいいな。ありとあらゆる芋虫が、生き残りを賭けて共食いするのだ。

 残った芋虫を擬人化させて、芋虫の状態を維持させよう。生物由来の毒が効かないので、壺毒で生き残った毒虫と共存も出来る。

 まぁ、鉱物由来の毒とかには、芋虫であっても無力なんだけど。


 鉱物由来の毒で、一番ヤバいのが水銀中毒。鉛中毒とかもあるな。土系魔法が強い理由の一つに、鉱物を抽出する事が出来るからと言われている。

 鉱物の組み合わせの中でも最凶にヤバいのが、デーモン・コアと呼ばれる実験装置だ。

 放射線をばら蒔くので、立会人や実験者が何も対策を施してないと、必ず死んでしまう。

 モンスターであれ、植物であれ、死滅するのが、核という兵器、ひいては放射線というモノだ。

 ドラゴンも火龍以外は生き残れない。それくらいの危険度を持つ。

 前世では、そんなクソみたいな兵器を実用化する為に、自国の領土を使い物にならなくしてまで、必死に開発していた国もあったな。

 まぁ、この世界で核兵器を保有しても、幻想魔法の前では無意味だ。

 そう言う意味では、魔法こそ核以上の抑止力になる。

 核の熱量を無かった事にされてしまえば、被害なんて出ないし。

 幻想魔法が使えなくても、現実魔法だと思わせなければ、使い方次第で現実魔法は幻想魔法に見せれるので、ブラフにも使えるだろう。


 意外な事に、幻想魔法魔法の使い手が最も多いのは、妖精や精霊だという。

 山吹色やブッキーからすると、妖精が見せる幻影や幻覚は、幻想魔法に見えると言うのだ。普段のイタズラは現実魔法を使っているので、余計に分かりにくいから、勘違いされているだけだと思う。

 まぁ、妖精に会った事すら無いので、先入観が無い状態による、決めつけでしかないが。

 決めつける要素はある。幻影や幻覚を重ね掛けされれば、現実と解離するからだ。

 人間の目は錯覚しやすい。元人間の系譜である亜人の多くが、錯覚を起こしやすいなら、人化したとしても、ドラゴンを騙せるのが道理となる。

 損害があっても、幻覚や幻影を重ねられてしまえば、被害が無い状態を作り出せるはず。

 損害を与えられない兵器は、お蔵入りするものだ。

 実際には損害が出ているのに、前と何も変わらないような結果が残ると、その原因と結果のみが色濃く残る。


 例えば、核兵器を落とされたとしよう。

 被害甚大なれど、妖精達が血ヘド吐きつつも、幻影や幻覚を見せ続けたら、落とされる以前と変わり無い風景になる。

 核兵器を使用した、というコストに見合わないパフォーマンス結果だ。残ったのは国際的非難と自国の世論のみ。軍部は針のムシロだ。

 現実魔法の多重展開により、幻想魔法に匹敵する効果は確かに得られるが、その対価として妖精の多くが死に絶える事になる。

 妖精が居ない地域とは、おそらくそう言う地域となるだろう。

 勿論、放射線も妖精が受け止めたり、被害者達にも幻覚を体感させ、不便を感じさせないようにする必要がある。応急処置ともいえるが。

 放射線が拡がらないように、特定の地域で押し止めたとしよう。それはコップの中に角砂糖を入れるようなモノ。溶けきらない分は沈澱する。

 だが、溶けきらない分を溶かすには、そのコップ以上の容器に移し変えるか、中身を蒸発させて注ぎ足すか、コップの中に苔や虫を入れて、砂糖という成分を消費させるしかない。

 蒸発は無意味だろう。かといって容器を変えるのは、問題の先送りでしかない。虫や苔が発生するまで待つかというと、そんな時間もない。

 砂糖を消費する中和剤のようなモノを入れるのが、現実的だろう。

 だが、そんなモノはない。放射線も同じで、一定の場所に留める以上、濃度がそう簡単に変動する訳もなし。

 そもそもが質量保存の法則や、エネルギー保存の法則があるので、ただ封印するだけではムダとなる。

 かといって、放射線を世界にばら蒔く訳にもいかない。濃度は下がるが、世界の全てが汚染されてしまうだろう。

 そこで幻想魔法による、世界規模での事象改竄となる。

 無かった事にされた結果は、人間の染色体異常への因果に結びつき、亜人や能力者の土台となる。


 大惨事世界大戦終結後、亜人やら神人やらが現れたり、神話の神々が人間や亜人を滅しようと動くのも予定調和なのだろう。


 過去から脈々と息づいた妖精によって、世界は一度終末を乗り越え、次の終末は異世界人の活躍によって乗り越えた事となる。

 三度目の正直となるか、二度ある事は三度あるというので、もう一度終末が訪れるかは分からない。

 まぁ、あるんだろう。聖書を引き合いに出すなら、黙示録の獣が居るらしいからな。


 そんなもん知ったこっちゃねー、と言うのが本音だけどさ。

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