第13話赤い狼

 簡易テントまでブッキーを案内し、イスとテーブルを急いで作る。


「異世界人がどうのと聞いてきたけど、老子は異世界人なの?」

「人間から転生して、今は雑草。いや、冬虫夏草なアルウラネだ」

「人間臭い訳だわ。知識とか知恵が仕えるから、戦闘も料理も出来るのね」

「俺って強い方かな?」

「この森に限っていえば、結構強い方よ。余所では知らないけど」


 お世辞はいいよ、ブッキーには負けたし。

 イスに座って、畑人形であるゴーレムを呼び寄せる。

 侵食した野菜達の位置が分かるので、ゴーレムの居場所も分かる。


「お、ゴーレム……?」

「背中に野菜をマウントさせているんだ」

「へぇ~、そういう使い方もあるのね」

「移動先がゴーレム次第なので、そこが難点だけど」

「えっと、核は抜いてないの?」

「抜いたら手動で動かす事になるじゃん。野菜に自我を芽生えさせられれば、それも任せられるけど。そんな魔法は知らないからなぁ」


 妖精に受肉してもらえば、仮想人格もいらない。


「寄生型植物を植えれば?」

「背中の野菜は収穫するんだ。食えなくなったら、料理も満足に作れなくなる」

「いや、背中じゃなくて、核に」

「いずれ砕けると思うし、体内に根を張られると、野菜が育たなくなる」

「だったら、ゴーレムを着てしまえば?」


 ゴーレム型パワード・スーツか。それなら自分で行きたい所にも行けるし、重たいモノも持てる。どこでも収穫出来る。

 ただ、この肉体が持たない。長くいると、バクテリアによって分解されてしまう。


「俺の肉体が雑草だけになっちまう」

「それなら、私の下半身部分を寄生させよう。そうすれば何処にでも行けるわ」


 え、下半身部分あったの!?

 というか、独立して動かせるんだ。固定電話の親機子機と充電器みたいだな。


「老子も頑張れば、複数の肉体を並列に動かせるって」

「いや、近くなら確かに出来るけど。遠隔操作は自信ないな……」


 要するに、雑草時の応用だろ? 根っこくらいなら出来たし。


「他にもゴーレムが居るの?」

「土を生産させるゴーレムに、作り替えた奴が」

「老子って、わりと鬼畜ね」


 クレイ・ゴーレムには、頭の花を一つ寄生させる。

 ブッキーによると、頭の花は意識も飛ばせるので、ゴーレム目線での戦闘も出来るとか。

 なるほど、これでゴーレムが戦力になるな。

 根を張り巡らすと、子機のような状態となるので、核が無くても自在に動かせるそうだ。

 なので核を抜いて、その辺に埋めておけば、いずれ新しいゴーレムとして復活する。


 クレイ・ゴーレムから水分と土を生産させ、帰ってくる道中で潰したウサギとスライムを、魔法陣の上で焼く。

 火を使うと根っこが焼き切れてしまうので、事前に切り離しておかないと、焼ける痛みを味わうハメになる。

 狼の毛皮はスライム・ボックスに、内臓は地面に埋める。ただし、肝臓や心臓は風魔法で刻み、炙って食べる。

 スライムは乾燥させると、ゼリーっぽくなるので、そのまま果実を乗せてしまえば、デザートになる。

 で、食べ終えた骨や血は、他の植物達に分け与えておく。


「調味料が無いと、ワイルド過ぎる料理になっちまうぜ」

「焼くだけでこんなに違うなんて、エルフ達はもっと、美味いモノを食ってるんだろうなぁ」


 ブッキーには芋を低温で熟成させた、超甘い焼き芋を出す。


「熱い……けど、甘いし美味い!」

「それは人間でもあまり食べない。手間が掛かってコスパ悪いから」


 いや、コストよりもパフォーマンスが掛かってるか?

 ちなみに、焼き芋は焚き火をした跡に入れると、火の温度が下がりつつも、全体にまんべんなく行き渡るので、中まで焼けるらしい。

 火を点けたままだと、焼き過ぎたり、温度調節が難しいとか。消しておけば、上がる事はないしなぁ。


 ブッキーは芋に満ち足りている。大変満足されたようだ。


「ジャガイモでも試しましょう!」

「スタンプと魔法陣を教えるので、自分で作ってくれ」


 ブッキーにスタンプ各種と魔法陣を教え、武器にも藪を払う棒にもなる、木刀を渡す。


「剣は無いの?」

「カトラリーのナイフならあるけど」

「それは使いづらいからいいや。今度エルフから貰うわ」


 さて、ブッキーと一緒に森を散索していると、狼と猿のコンビが、五組一列縦隊でやって来た。


「仲間へのお礼参りって言ってるけど、何体ヤったの?」

「ヤったザコの数なんて、覚えてないな」


 遠くで観察していた奴がいたのだろう。思いっきり恨まれてる。

 しかし、弱肉強食が自然の掟なはず。

 恨まれるのは筋違いだ。


「私の仲間を恨むたぁ、ボス達の指導がなってないわね」

「エルフの姿だから、エルフと間違われてるっていうだけだろ?」

「いいや、統率力が落ちてるか、実力が分かっていないだけよ」


 今回は後者らしい。

 俺は釘バットを構えるも、ブッキーは蔓の触手で三つのコンビを、容易く縛り上げる。


「いつも通りの戦闘をしてみて」

「分かった。……あとで卑怯とか言うなよ?」


 いきり立ち、飛び掛かって来た二組に対し、目の前を土壁で遮る。その後、壁を前に倒して、落とし穴ごと生き埋めにしてやる。


「……あぁ、うん。これはちょっと」

「まず、避けられないだろ?」

「そうね。コイツ等ではどうあがいてもムリだわ」


 生き埋めの二組を救出するブッキー。

 その後、五組に実力の差を叩き込み、分かったところで解放した。

 コイツ等は絶対、そのうちまたやって来そうだ。

 目の色が最初と変わってない。俺に対して敵対心が消えていないのだろう。

 ここはブッキーの顔を立てるが、次はヤるしかない。

 そうか、これがフラグか。


「ブッキー……」

「えぇ、分かってる。次は止めないわ」


 ブッキーを怖れて逃げただけ、それも分かっていたようだ。

 確かに、そのままで戦えば俺は不利だろう。

 というか、魔法抜きで奴等に勝てるのは、ブッキーくらいじゃね?

 芋成分に満ち足りてたから、見逃してやったんだろうけど、普通ならスプラッタも待った無しだ。


 次の日、赤い狼と出会した。

 警戒はしていたのだが、隠れるよりも向こうの方が早かったのだ。


「これまた珍しい。老子、狼達のボスよ?」

「え、アイツ等、ボスに泣きついたのか!?」


 実力の差があるから、より強い奴に頼る。これはあり得ない訳ではないが、そうそうある事でもない。


「部下が失礼したな、アルウラネ」

「おうおう。まったくだぞ、赤い狼。あと私はブッキーって名前になったから、ソコんとこよろしくっ」

「名を貰ったのか。余程気に入ったのだな、そのエルフを」

「いや、老子は私と同じアルウラネよ。転生者らしいけどね」


 ちょっ、ブッキーさーん。転生者とか異世界人ってワードは、秘匿したいんですけどー?


「転生者って秘密にしたいんだけど?」

「老子、秘密にしたって看破される時もあるから。それに、魔王のように強い奴もいるし」


 そんな連中と俺を一緒にすんなや!

 異世界人が居るって言う町には、行く予定も無いし。


「老子というエルフ、いや、アルウラネよ。重ねて詫びよう。ついては、部下の首を貰ってくれないか」


 えーっ! ボスが処刑しちまったのか!?

 ヤクザの小指をつめるより、落とし前がついてる……。


「あー、言葉から連想するような物騒なモノじゃなくて、お詫びとして自分の一族から、狼を一匹進呈するって事よ」

「うむ。部下にも色々な者がいるのでな。見た目は良いが、戦力外の子。戦力にはなるが、性格が残念な子。狼らしくない行動をするが、何故か幸運に恵まれている子。どれがいい?」

「戦力になって、性格も普通の子がいい」

「そんな部下は手放せられない」

「一匹でも果敢に戦う子」

「我が一族の主力だ」


 この狼、お詫びと言いつつも、いらん子を押し付けに来やがった。


「……性格が残念な子で」

「あい、分かった」

「ちなみに、残念な理由は?」

「常にぽいぽいと、煩いのだよ」


 ま、さ、か、の、ぽ犬!?

 ソロモンよ、私は帰って来たっぽい! とか言いながら、ランチャーを撃つんだな?


「ぽいぽい?」

「お前を一族より追放する。今日からそこの老子という者が、新しいリーダーだ」

「ぽーい!」


 アカン、某お船ゲーのキャラみたいな狼子供だ。

 髪の色を体毛にして、全体をデフォルメかつ犬っぽくしました的なお犬様。しかもメス。


「老子だ、宜しく。お前の名前は、夕立だ」

「ぽい!」


 頭を撫でていると、ボスの狼はブッキーに断りを入れて立ち去っていた。


「ブッキー。夕立はモンスターになるんだよな?」

「成長すれば、ボスの狼と同じ知能となるはず。人化魔法を覚えさせるか、常に掛け続ければ、亜人としても騙せるわ。ワーウルフとか獣化魔法を覚えるらしいし」


 亜人とモンスターの区別って、結構適当なんだな。

 そういえば、精霊や妖精も亜人として認められるんだっけ。

 主に亜人種達の認識では、だが。

 人間には妖精は妖精、狼はモンスター、獣化魔法で変身したワーウルフもモンスター。ただし、人化しているワーウルフは亜人。なんだかなぁ。

 ゴーレムやスケルトンも、亜人種からすれば亜人と。


 夕立には竹と蜘蛛の糸で編み上げた、灰色の首輪を付ける。

 リードは要らないな。

 家は夕立用の、簡易テントを作ってあげよう。

 食べ物は、ほぼ何でも食うらしい。玉ねぎとかも平気だと、ブッキーの翻訳で分かった。


「あ、そうだ。ゴーレムを紹介しておこう」

「間違って破壊されないように?」


 そうだよ。夕立の火力は洒落にならないからな。

 この夕立は成長もするから、余計に強くなる。


 試しに元同族と猿のコンビを相手して貰った。

 夕立の目の色があからさまに変わり、魔力のオーラが発現した。

 とはいっても、ただのオーラなので、防御力の向上とかは無い。

 体勢を低くし、相手より素早く間合いを詰めると、相手の狼が避けようと動くも、乗っている猿は攻撃のために棒を振るう。

 それを冷静にかわし、横をすり抜けながら、狼ではなく猿へ向かって、後ろ足で引っかける。

 空振りして体勢が崩れたところを、更に崩しに掛かったのだ。

 狼はすでに回避行動に移っているので、猿が倒れる方向へは動けない。

 猿は落馬ならぬ、落狼してしまう。その際に棒が折れた。

 相方が落ちた事を察した狼が、迎撃しようと夕立の背後に迫るも、夕立はいきなり後方へ飛び上がり、そのまま後方宙返りして、狼の背後を逆に取る。

 ちょっと、狼らしからぬ機動力なんですけど。まぁいいか。

 狼の尻尾を咬みながら、後ろ足を前足で押さえると、痛みに堪えかねて悲痛な声を上げ、体が仰け反る。

 相手が振り向く動作に合わせて、カウンター気味に首の骨を咬み砕く。

 猿は直ぐに立ち上がったが、相方の体が邪魔だったので、夕立に攻撃が出来なかった。

 回り込んでいると、牙が交差した一瞬の後に、相方がヤられてしまう。

 短くなった棒で突きに行くも、かわされて棒と腕の内側に入り込まれる。

 で、夕立は首を咬みつつ体勢を低くし、体重を掛けて喉笛を引き裂いた。


「ぽいぽーいっ!」


 勝利の雄叫び、もとい雌叫び?


「つ、強ぇ……」

「まぁ、猿と組まなかった個体は、一匹で全てをどうにかしなければ、やっていけないからねぇ」


 猿と組んだ方が弱いと言うより、連係がなっていないと、普段よりも弱くなるのか。

 組むメリットは、狩りの向上とか色々あるだろうが、連係不足というデメリットは死に繋がる。

 ……デメリットの方がデカいような?

 命あっての物種だろうに。


「組んだ成功例が多いから、狼とも協同でいるんでしょう」

「魔法も実力のうちだろう?」

「運よりは、実力として組み込みやすい、技術って言えるわ」


 夕立の顎を撫で、ブッキーと一緒に、猿と狼を解体していく。

 今日の晩御飯、ゲットだぜ。

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