第2話
同乗研修と称し明らかに年金組の老人に一日の動きを教えてもらった。
アルコールチェック、点呼、朝礼、車の点検をして出発。どマイナーな駅前を流し、下町の病院でトイレ休憩を兼ねた付け待ち、根津の墓場で昼メシ&昼寝、午後は日大病院でロング付け待ち。まさに老人と海、終わってるわ、と思った。元来、タクシーの運ちゃんなんてこんなもんだろう?
やりたくない仕事。
最後の最後の仕事。
これじゃー若い奴が入ってくる訳ない。
まぁ付け待ちする奴は百姓で、流し専門はバリバリのインファイターの狩猟民族と言ったところか。年金老人と一日やって営業スタイルは置いといて、タクシーの走りの基本は勉強になった。左の第一通行帯を徹底して走る。障害となる駐車車両や左折車両などを交わし左を縫うように滑らかに走る仕事っぷりは、年季の入ったプロの動きだ。交差点ではイエローストップ先頭をキープする。これらは乗車確率を上げる為のタクシーの基本だ。相手の胸に目掛けて投げる、キャッチボールの基本を教わった程度だが、お客側ではなくタクシー側から見るのは初めてで、これからプロとしてやっていくんだな、という実感が少し湧いた。あと子供の頃、やりたいと思っていた自動ドアの手動操作。早くガチャンガチャンやりたい!と思った。
営業時間が終わりに近づき帰庫前に毎日洗車が義務付けられているが、年金老人は時間が無いからと言い訳して、ボディーを軽く水拭きと乾拭きをしただけだった。きっと毎日こんないい加減な感じなんだろう、と少し安心した。洗車が嫌な訳では無いが、毎日やらなければいけない事がある事が、イヤだから。
一日同乗で客観的に見るとタクシーは不思議な仕事だと思った。右に曲がろうが、左に曲がろうが、真っ直ぐ行こうが、どれでも良いのだ。こんな適当で良い仕事が他にあるだろうか?客探して東京の街を徘徊する仕事、それがタクシードライバー。みたいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます