GODSPEAR

辰巳杏

1話:赤目の錬金術師

冒険者の王国・ウルスプルング。世界にはまだ人の手の及ばぬ場所があった。


ウルスプルングの冒険者たちは、まだ見ぬ景色を見るために、それらの場所へと足を踏み入れる。そこは危険な魔物の巣窟であり、力無き冒険者は次々と命を散らしていった。


剣士、聖騎士、武士、錬金術師、医術師、獣使い、召喚術師──


様々な能力に特化した冒険者たちは、それぞれ小団パーティを組んで未開の地を切り拓いていく。


王国や財閥は強力な冒険者を雇うようになる。


彼らは即時の軍事力にもなり、冒険以外にも行動の幅を広げ、ウルスプルングは冒険者なしでは成り立たない国となった。


最強の冒険者の一人である、大錬金術師シャーラの弟子・レイ。彼には7歳以前の記憶が無かった。自分が異世界人だと知り、異世界の手がかりを探すために冒険者として旅に出ることになる。


ほんとうに守りたかったものは何か。


真実と絆の物語が幕を開ける──




* * *





窓から暖かく優しい光が差し込んでいた。ゴトンゴトンと揺れるたびに、木々が通り過ぎて光をちらつかせる。


その光が絶妙なほどに気持ちがよく、僕は居眠りをしかけていた。ゆっくりと窓の外の景色を眺める。緑が通り過ぎてばかりのシンプルな光景。ただの木であるのに、光、色、風、風音が混じり合い、美しい景色を生み出していた。さわさわと木々同士が触れ合って揺れる景色が、僕は好きだった。美しさに、少し目を細める。


しかし、細めた目は、景色に似合わず血のように真っ赤であった。ちらつく光に、わずかにきらりと光る。自然の美しさからはかけ離れ、暗闇に光るコウモリの目のようだった。


揺れが収まり、馬車が止まった。


窓の外には大きな木がそびえ立っている。かなり大きな木であり、木漏れ日が心地よい。

馬車の扉が開き、1人の男が乗ってきた。かなりガッチリとした体つきで、金属の防具を身につけている。年齢はおそらく40代過ぎほどだろう。


「よう!」


こちらを見るなり、彼は軽く右手を挙げて馴れ馴れしい挨拶をしてきた。


「······どうも」


僕も、軽く会釈をする。

彼は、どっかりと僕の向かい側に座る。馬車には僕と彼の2人きりなので、彼は僕と話す気満々でいた。

彼は僕を下から上へ見るなり、


「俺の町じゃあ、なかなか見かけない身なりをしているなぁお前。その腕のやつを見る限り、錬金術師だろ?」


彼の視線は僕の右腕に向けられていた。防具のような奇妙な機械装置をつけている。『属性強化』と呼ばれるものである。外装は防具のようになっているが、内側は精密機械になっており、腕から手先まで頑丈に僕の腕についている。


僕は軽く頷いた。


錬金術師。万物を研究する者。属性強化は錬金術の技術から開発されたもので、自然エネルギーを外へ噴出する装置である。


彼は、僕が頷いたことにより得意げな顔をする。


「頭の良さそうな顔をしてるなぁ!名前はなんて言うんだ?」


「レイだ」


そのとき、馬車の中に軽やかな風が吹いた。その風がレイの黒髪に触れる。片目を隠した黒髪は、微かに揺れた。そして目を閉じ、重武装の彼に軽く会釈をした。

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