二度寝

@mitsuwo034

二度寝

うだるような蒸し暑さに耐えきれず、こんな夜更けに目が醒めてしまった。

寝汗が滲んだTシャツのせいで、少し首元がむず痒い。

一度気になってしまうと、身体の他のあちこちも痒いようなそうでないような、そんな気がしてきてしまう。このまま再び眠りにつくのは、どうにも気持ちが悪い。


仕方がない、着替えることにしよう。

私は身体を起こして、ベッドの端に腰掛けた。


ふと、窓際に置いた安っぽいデジタル時計に目を遣ってみると、無情にも現在時刻を突きつけてきた。


(2時か…)


中途半端な時間に起き出してしまった自分を少し呪いながら、いそいそとTシャツを脱ぎ始める。寝汗を十二分に吸収したせいで、身体に纏わり付いて離れない。これを取っ払わない限りは、眠れやしないだろう。

早く脱ぎたい。一刻も早く。


(よっ……と)


裾を両手で掴み捲り上げたTシャツを、頭からすぽんと脱ぎ去った。網戸をすり抜けてきた夜風が、汗ばんだ素肌を撫ぜていく。ひんやりとして気持ちがいい。

寝ぼけ半分だった脳が、やっと醒めたように感じた。


不快指数はぐんと下がり、気持ちが少し落ち着いた。

腰を上げて、新しい着替えを取るためクローゼットに近づく。明かりをつけるのを忘れていた為、まだ部屋は暗いままである。勝手知ったる自室とはいえ、少し足元が覚束ない。

注意をしながらよたよたと歩いてクローゼットまで辿りつき、Tシャツを詰め込んだ引き出しを開ける。寝間着用と外出用のTシャツをごったにしていて、この暗がりでは少々判別しづらい。

とはいえ、今日はもう寝るだけである。誰に見られるわけではないので、何を着ることになろうが実の所どうでもいい。



適当に手に取ったTシャツの裾を広げ、さっき脱いだ時とちょうど逆の順番で袖を通した。これで、再入眠の準備は完了である。


気分も新たに、私は身体をくるりと反転させ歩き出す。

私の安眠を妨げる不届きな輩は、全て成敗した。私の歩みを止める者は、誰もいない。

部屋は暗いままであるはずなのに、私の心は晴れやかに、そして、妙に浮足立ってワクワクとしてきてしまった。

Tシャツ1枚変えるだけで、世界は変わるものである、なんて、意味の分からないことを考えながら、私の足取りは軽やかにベッドへと突き進む。


(このままベッドに飛び込んでやろう…)


こんな深夜に、無駄に高揚して頭も身体も収集がつかなくなってしまった私は、不意に脳裏によぎったこの衝動に抗うことなど出来なかった。


「これで全部…終わりにする!」


掛け声なんて、本当はなんでも良かったのだ。いま一番、空が飛べそうだと感じたから、私は、この言葉を選んだのだ。



1,2,3歩で、私はフローリングを蹴り上げる!



はずだった。


3歩目で、さっき脱ぎ捨てた汗塗れのTシャツに足を取られてしまったのだ。

ずりっと滑ったせいで十分な跳躍が叶わず、私は上半身だけマットレスに、下半身(主に膝)はフローリングへ打ち付けた。


気分は一転、最悪な夜になってしまった。

痛みに悶えながら、本当に““終わった””のは、自分自身だと悟ってしまった。

少し涙が出てきたが、いつか夜風が乾かしてくれることを信じたいと思う。


終わり

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