完璧少女とダメ男

四志・零御・フォーファウンド

彼女(彼)は完璧女(ダメ男)だった!


 わたしの通う学校は工業高校。工業高校というと、柄の悪いイメージがあるのは仕方がないことかもしれない。昔やっていた某学校戦争とかいうドラマのせいだ。いや、ドラマ自体はすっごい面白いけど……。とにかく、わたしが言いたいのは、工業高校は決して柄の悪い雰囲気の学校ではない。――少なくとも、わたしの通っている工業高校は。

 さて、わたしの通う蓬生工業高校は私立の工業高校で偏差値もかなり高く、SPHという国の事業の一環に今年から指定されている。クラスは電子機械科が2クラス。電子・電気科が2クラス。建築設計科が2クラス。土木科が2クラスで、計4科の8クラス。わたしは電子機械科B組に所属している。――ここで気になるところは男女比じゃなかな?いくら偏差値が高く、まじめな生徒が多いとはいえ、男子が圧倒的に多い。わたしのクラスは男子38人、女子2人。そう、わたしともう1人しか女子はいない。

 始業式、わたしはこのクラスの現状に唖然とした。ある程度の想定はしていたけれど、まさかここまでとは思っていなかった。

 半自動的に前の席に座る女子生徒に話しかけねばという考えが頭の中で駆け巡った。


「あ、あのぉー」

「……何かしら?」


 圧倒的美人。世の中にここまでの美人がいるとは思わなかった。前の席に座る女子生徒は、振り向くとサラサラの髪がふわりと揺れて、美しい横顔がより強調された。そして、その声のトーン。世の中のすべてを見下すような美しく、どこか甘い声。


「……………ふぎゅ!」


 彼女に見惚れていると、彼女がわたしの頬を鷲掴みした。


「用があるの、無いの、どっち?」


 彼女は鋭い目をして問う。


「ありゅましゅ。ありゅましゅ……ぷはぁ」


 コクコクと首を縦にしてようやく手を離してくれた。


「あ、あのさ、わたしたちってクラスの中で2人しかいない女の子じゃない。だから仲良くしようと思って……」


 そう言うと彼女は辺りをキョロキョロと見渡す。


「あら、そうみたいね」


 ……え?まさかこの子、今頃そんなことに気づいたの!?


「それじゃあ、私の名前を教えておくわ。司城京子しじょうきょうこよ。よろしく」


 そう言って手を差し出す。わたしも手を出して握手をすると自己紹介をする。


「わたしの名前は雪江椿ゆきえつばき。椿って呼んでね」

「それじゃあ、私のことも京子で構わないわ」

「うん!よろしくね、京子ちゃん!」


 これがわたしと京子ちゃんの出会いだったけど、京子ちゃんの本性を知るのはもう少し後の話だ。



 俺の通っている高校は私立花京学院かきょうがくいん。偏差値が高く優秀な生徒ばかり集まる学校だ。花京学院っていうのは花京院かきょういんグループっていう明治の頃から生き残っているすげえ財閥が運営している学校。

 で、なぜそんなことを説明したかと言うと、入学式直後、俺の隣に座っている男が"花京院"っていう苗字をしていたからだ。でも、彼の表情を見て、話しかけるのを渋った。特に、目。なんだあの死んでいる魚のような目は。髪はボサッてしていて、名前が分からなかったら、金持ちのぼんぼんって言われてもピンとこない。

 ホームルーム中の学校での注意事項を右から左へ聞き流して、話しかけるか否かを十分に考えた結果、


「なあ、おまえって花京院の――」


 ここまで言って、俺は重大なミスに気付いた。彼は鋭い目をして俺のことを睨めつけた。――俺に近寄るな、ということを目で訴えている。

 彼は多分、新学期が始まる度に"花京院の息子"ということで声を掛けられていたはずだ。もしかしたら、彼はその文句が嫌いなのだ――と考えたのが声を掛けた後だったのだ……。しかーし!ここで諦めないのが俺だ!


「下はなんていうだ?」

「……レン」

「レンか。しんにょうのついてる――」

「違う。鍛錬の"れん"のほうだ。って、これ以上話かけないでくれ」


 しっし、と錬は手で払う仕草をする。


「そんな冷たいこと言うなってー。俺たち友達だろ!」


 そういうと、彼は目を丸くさせる。


「と、友達ぃ!?そんな――」

「はい、つべこべ言わない!俺とお前はトモダチネ!よろしくな、錬!」


 俺は手をだして握手を求める。が、錬はそっぽを向いてしまった。気を悪くしたのかと思っていると、


「……おまえの名前は」


 ぶっきら棒に彼は言った。


「お、俺は逆上信弘さかがみのぶひろ

「はいはい逆上君、様が済んだら帰ってくれ」


 再びしっしと手で払っている。とりあえず、最初はこんなもんかと思って、俺は席に戻った。


 これが俺と錬の出会いだった。錬のダメっぷりに驚かされるのはまだ先の話だが――。

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