第47話 うら若き女王フィーネ――②


「なんとも締まらぬ奴じゃの」


 シャルテは張りのないリアンの物言いを揶揄し、これでこの謁見を締めるようだ。

 終わりを知らせるようにして、ほれとリアンの尻が一つ叩かれた。


「では、ワシらは一度いとまするが、フィーネよ。先王の弔いに駆けつける事ができずすまぬな。アレク・エルヴァニアはエルヴァニアの良き賢君であったぞ」


「その言葉に、先王もさぞ喜んでいることでしょう」


 女王フィーネに背中を見送られ、リアンとシャルテが謁見の間から退室する。


「父上様から笑われぬよう、そして民の心を裏切らぬよう。フィーネ・エルヴァニアは心して女王を努めて参ります」


 誓いは誰に聞かせるでもなく。

 そして、今はフィーネが受け継ぐ女王――すなわち、エルヴァニアの王位であるが。


 先王の崩御から一月ひとつきほど、空位となっていた。


 そのような異例の事態となってしまったのは、彼女が女王として国を治めることが望まれなかったからではない。

 むしろ、民からの人望も厚く、その若さにもかかわらず先王に習うような才覚を持つ彼女を、誰もがエルヴァニアの次の指導者として期待した。

 むろん彼女には、代々王族が継承する王位の順当性もあった。


――しかし、フィーネ自らが戴冠たいかんを拒んだのだ。


 先王アレク・エルヴァニアは豊かな国を育むとともに、皇国との争いへと傾くエルヴァニアの情勢をフィーネに残した。

 それはかつてないほどに大きな戦争となる明白な国の未来であり、その戦火の渦に民を率い飛び込む重責がフィーネの心に重く伸し掛かったのだろう。


――『覚悟が決められない』。


 フィーネがこれまで、政務官グレマンスら側近に幾度も漏らした言葉。

 そしてこの言葉は、周りの者達が慕うフィーネの正直さからだろうか。自分の心にも嘘をつけない愚直となって、戴冠の義である即位式を遅らすものとなってしまった。


「世界の調律者である暁の騎士オーガ。そして、オーガの意向は正義を示すものです。その者達が私達のがわにいてくれる。何よりも心強いことです」


 自分が抱く頼もしい心を伝えるかのように、フィーネは朗らかな表情を政務官のグレマンスに向けた。


「さようでございますな。それで、フィーネ様。シャルティアテラ殿が言っておられたのですが、リアン殿はオーガではなくオーガヴァルの名を冠するようでございます」


「オーガヴァル? ですか」


「はい。何やらオーガとは区別する暁の騎士の名のようにございますな。しかし、シャルティアテラ殿はリアン殿をオーガと引けを取らない才の持ち主だと豪語しておりましたゆえ、暁の騎士達にも爵位や階級のような私共が知らぬ称号があるのでしょう」


「そう……彼はオーガヴァルのリアンなのですね」


 ふふ、と笑うフィーネ。


「どうかなされましたかな」


「グレマンスの話を聞いて納得してしまったので。なんとなくですけれど、先に訪れていたオーガの彼女と比べて、彼はどこかオーガらしくない気がしていましたから」


 ふわり。

 フィーネはそこまでを話せば、柔らかな表情と軽やかな歩みで謁見の間を後にするのだった。


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