星空と図書館

ハローイチイチゼロサン

星空と図書館

野原に訪れた夕立は日没とともにすっかり通り過ぎて、

冴えた空気の中、星々の放つ光が一面に降り注いでいる。


この場所に図書館が建てられてから随分の時間が経った。

創立の頃から蔵書は増え、来館の顔ぶれもすっかり入れ替わったけれど、施設は今も変わらず森に囲まれた憩いの場として愛されている。

あるときは住民を涼やかな日陰でもてなし、あるときは豊富な知識でもてなす。

各々異なる生活に図書館は少しだけ関わり、わずかばかりの良い時間と居場所を提供した。


日中には人で賑わう館内も、閉館後には静けさを取り戻す。

そうして皆すっかり帰ってしまった夕闇の中で、静かに空を見上げるのが図書館の日課だ。

正面出口から出てきた司書が指差し確認をして扉に鍵をかける。

そのまま彼を見送り、人影が森に消えて見えなくなると、図書館は空を仰いだ。

今まで見てきたどの空にも異なる趣があったが、今宵の空は格段に綺麗だ。


天幕に揺れる無数の星たち。

よく見ればどれも色形がまちまちで、明滅にもそれぞれのリズムを持っている。

いくつかを仔細に眺め、所作を楽しむうち、図書館はちょっとした感傷を抱いた。


星空と自分はとてもよく似ている。

ひとつひとつパターンの異なる個体を無数に集め、抱き、守る。

そのどれもが固有の物語を持っているし、

だからこそ、そのどれもが愛おしい。

どれが消えたとしても、自分は失われた物語を想って涙を流すだろう。


月に面した窓を開き、星たちに見せるように書架を光に照らす。

司書たちに見つかったら怒られるだろうから、朝には戸締まりを戻しておかないといけない。


頭上にまたたく星々の物語もいつか蔵書にできたら。

図書館はそのときを思って笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る