21.魔剣の策謀、その欲望

 鋭い金属の音が交わる音が、立て続けに聞こえていた。悲鳴があがり、身を翻し、背後にした相手が倒れる。シャーは、後ろに振るった刀を軽く持ち替えて、後ろは見ないで前を見やった。

 泡を吹いて倒れている男は、気絶はしているものの、死んではいないようだった。数人、その場に倒れているのが見えたが、後は逃げてしまったものもいるのだろうか。

そこにいる人間はまばらになっていた。

「カディンさん、いるんだろう!」

 シャーは、にやりと笑いながら声をかけた。

 闇の中、腕利きらしい男に守られている色の白い男が、月光で青白く見えていた。

「下郎、貴様……」

 挑発されたと感じたのか、歯噛みするカディンにシャーは軽く刀を回しながら言った。

「さて、オレはジャッキールと違って、多少の手加減はしてやるけどな。悪行が過ぎたアンタには、貴族審理院のジジイ共が、鬼の形相でお待ちだぜ」

 貴族審理院は、その名のとおり、貴族を専属的に裁く部署である。主に、ザファルバーンの旧王族・貴族や現王族とその外戚が対象となっている。内乱が起こった経緯もそうだが、この国は彼らをどうコントロールするかが平和な治世を長引かせる条件になっていた。今あるその部署は、内乱後即位したシャルルが強化したものだった。

ジャッキールアイツは、火の粉を払う程度の気持ちしかなかったみたいだが、オレにはちょっと個人的な理由があってね。アンタみたいな、貴族をのさばらせておくわけにもいかねえ事情もあるのさ。貴族審理院のジジイには、それほどの義理はないんだがな」

「貴様が何を知っているというのだ!」

 カディンは、ややヒステリカルな声で叫んだ。

「貴様が訴え出たところで、証拠などあがるものか!」

「そうだな。オレにはあんたを糾弾する証拠がないね。だけど、たたけばいろいろ出てくるだろう? それに、あんたには現時点でちょいとききたいことがある」

 シャーは、ゆらりと足を一歩踏み出す。それにつられたかのように、前を守っていた男が飛び出した。シャーは、そのまま、踏み出した足とは逆の足を前に交差させると同時に、相手のみぞおちに剣の柄を埋めた。

 あっさりと相手を倒してしまってから、シャーは彼に向き直る。焦るカディンに対して、シャーの方はそれこそ何事もなかったかのような態度だった。

「あんたは、ここんところ、王都を震え上がらせている辻斬りの正体を知っているはずだ。それについてのヒントをもらいたいんだよ。オレの予想と突き合せたいからな」

「な、何だと!」

 カディンの声には動揺の色があった。

「あんたとそいつは協力関係にあった。いいや、今も、あるのかもな。……その辺までの意見は、オレとジャッキールのダンナも一緒でね。ということは、大体そのセンはあっているということだ」

 月明かりでシャーの瞳は不気味に青い。奥の方から深い青色が染み出すような目は、一種の魔を感じさせるところがある。

「奴とあんたは、ある利害で一致していた。あんたは、剣が本当に名剣なのか知りたかったし、奴は剣の切れ味、または、その剣の切れ方というかね、そういうところを知りたかったはずだ。こういう事件が立て続けに起こって、あんたは多少は焦ったが、それでも、ためし斬りなら仕方がないと許容していた」

 シャーは、そういって右手に剣をぶら下げた。親指と人差し指だけにぶらさげた刀は、そのまま落ちてしまいそうだった。

「なにせ、普段、あんたがやっているのも、結構無茶なことしていたからな。人死にが多少出るくらい、あまり心が痛むことでもなかったんだろう?」

「黙れ!」

 カディンの声がぴりゃりと空気を打った。

「貴様みたいな下郎にはわかるまいな?」

 カディンは、剣を抜く。それ自体が、見かけからしても名剣であることがすぐにわかるものだった。美しい鞘と刀身は、宝物としても価値がありそうだったが、けしてそれだけではない光がさっと走る。どこかうっとりとした歪んだ笑みを浮かべて、カディンは言った。その口調は、若干芝居がかっていた。

「剣は飾りであって、飾りでない。そばに置くだけにしても、美しいだけではだめなのだ。切れ味がわからなければ、ただの鉄の棒に過ぎない」

 カディンは、シャーのほうに歩み寄りながら言った。

「だから、私は、切れ味を見たかった。利害が一致したからこそ、「あの男」に頼んだだけだ。貴様にはわかるまいな、下郎。……見れば、先ほどから、貴様は誰も殺してはいない。その剣の使い方も知らぬのではないのか」

 シャーは、一瞬きょとんとしてその言葉をきいていたが、それに気づくと、思わず吹き出した。

「な、何を笑う!」

「へへ、他人様からそう見られるんだなあと思っただけのことだよ。それほど、今のオレが慈悲深く見えたっていうのなら、ちょっとうれしいなあと、ねえ」

 シャーは、少し皮肉っぽく笑った。

「……ふん、斬らない剣はただの飾りだってか。それはよくわかってるぜ。昔、オレの師匠がオレに教えてくれたのは、今思えば人の殺し方そのものだったよ」

 本当のことをいえば、と、前おいて、シャーは剣を右手にぶら下げたまま続けた。

「オレが人を無駄に斬らないのは、大勢を相手にするなら、いちいち斬るより戦いをやめさせたほうが効率的だからだよ。それに、こんな街中で人を斬っちまったら、オレが指名手配くらっちまうだろ。オレはジャッキールのダンナほど、後先考えてないわけじゃないぜ」

「臆病者だな!」

 カディンの嘲笑が乾いたまま響いた。シャーは、薄く笑った。

「そうだ、臆病者だからこそさ。マジにホントのホントのことをいうとな、クセになるのが怖いから、このところ、流血はなるべく避けてるのさ!」

 シャーが剣を持ち上げてちゃんと持ち直した瞬間に、カディンがわっと向かってきた。真っ向からおろされる剣をがっと受け止める。

 カディンの白い顔に、どこか狂気じみた瞳がぎらついていた。

「死ね! 下郎!」

「死ねといわれて、はい、そうですか、って言ってられるかよ!」

 鍔ごと打ち返すように、押し返してそのまま身を引く。カディンは、すばやくその場で切り返してくる。それを避け、シャーはまっすぐに一撃を浴びせるが、カディンはそれを受け流して、そのまま払いのけてきた。

 シャーは、剣をひきつけながら下がる。

 カディンは、意外に戦いなれたところがあった。いや、そういうのは、適切ではない。この男、人を斬ったことがある。そうでなければ、ここまで落ち着いていられない。きっと、部下に任せきれずに、自分で行動して、人を手にかけたこともあるのだろう。

「思ったよりやるじゃねえか。なるほど、見てるだけじゃ飽き足らず、本気で使ってたな?」

 シャーは、素直にそう感想を漏らす。

「……アンタ、あの剣持ってたら、間違いなく人斬って出歩いてたぜ」

 カディンは、おめき声を上げた。甲高いそれは、逆に不気味な鬼気をあおるものがある。チッと、摩擦する音とともに火花が散った。刀の端で相手の剣を受けながら、シャーはそのまま、だっと勢いをつけて相手を押しながら前進する。それに押し切られそうになりながら、カディンは、切り返してきた。いったん、横に飛びのきながら、シャーは後退せずに執拗に追いかける。

「いくぜ!」

 シャーは、そう声を上げると、剣を斜めに振りかぶって、そのまま振り下ろそうとした。カディンとの力量の差は歴然だ。だが、次の瞬間、いきなり、カディンが逃げに転じたのである。

 そして、間の悪いことに、そのとき、ちょうど偶然に、残っていたカディンの部下が、シャーに突っかかってきたのだ。

「あっ!」

 いきなり割って入ってきた男の剣を受け、シャーは思わずカディンから一瞬目を離す。その瞬間、すでに剣を引いて逃げる体勢になっていたカディンは、身を翻して闇の中に逃げ込んだ。

「チッ! しまった!」

 シャーは、そのまま飛び込んできた護衛の男を叩き伏せた。それ以上相手をするつもりも時間もない。カディンの姿を追って、慌ててシャーはそのまま足を伸ばす。だが、すでに闇にまぎれた彼の姿は、もうほとんど見えない。

「くそっ、万年運動不足の貴族の割りに、意外に足がはやいな!」

 カディンの姿は、かすかに月明かりに映るだけである。だが、彼の逃げる場所に、例の男も隠れている可能性もあった。シャーは、その姿を逃さないように気をつけながら、懸命に走った。

 暗くなった路地には、もはや人気はない。もとより、人気のない場所だけに、不気味な寂しさと寒さが漂っていた。

 だが、その人気のないはずの場所に、影がちらりとよぎった。いや、影というより、なにかの反射光だ。

「ん?」

 シャーは、隣の路地のほうに視線を向けようとして、瞬間、身を翻した。直後、避けた場所を、大振りにした刃物が空気を切り裂きながら通っていく。

「誰だ!」

 た、と軽くステップを踏みながら、身を翻して構えなおしたシャーの前に、大きな人影がかすかに見えた。手には光る大剣が握られている。

「俺の一撃目をかわすとは、やるな!」

 夜だというのに、近隣に配慮をまったくしていなさそうな声だ。その声だけで、シャーには相手が誰であるかおおよその予想がついていた。

「だが、それもここまでだ! 今日こそ、オレが天誅を下してやる!」

「あ、あんた、……メハ……うわっ!」

 言いかけて、シャーは、慌てて後ろに飛びずさる。友好的に声をかけようとしたのだが、相手は彼の声など聞く様子もなく、いきなり連続で突きを見舞ってきたのだ。

「ちょ、ちょっとっ、ちょい待ち!」

 シャーは、突きを払い、後退しながら叫んだ。

「ま、待って待っててば!」

 シャーは、手を上げる。一度たっと大目に間合いを取り、シャーは慌てて叫んだ。

「あんた、メハルさんだろ! オレだよ! シャーだってば! 会っただろ!」

「なんだ! 潔くないぞ!」

 メハルらしき男は、大声でそういうと、また再び攻撃の姿勢に移っている。

「だから、違うってば! 声きいてわかるでしょッ!」

「声だと?」

 必死のシャーの声に、ようやく思い当たったのか、闇から姿を現した男は、きょとんとした顔をのぞかせた。ちょうど月の光がシャーの姿を照らしたのか、その大男、メハルは、ようやく彼の正体に気づいた。

「あ! てめえ、三白眼!」

「ようやくわかってくれた?」

 シャーは、メハルが剣をおろしたのを見て、剣を横に流しながらため息をついた。

「てめえ、なんだ、こんな夜に抜刀してうろつきやがって!」

「オレにだってねえ、ちょっと事情があんの。人のことはほっといてよ」

「不審者ってだけで、しょっぴけるんだぞ、コラ!」

 なにやら疲れた様子のシャーに、メハルはいらだったようにそんなことを言う。

「それに、オレの剣をたやすくかわすとは、てめえ、やっぱり只者じゃ……!」

「ま、ままま、それはおいといて」

(アンタだって大概只者じゃねえじゃねえかよ)

 シャーは心で毒づきながら苦笑する。あんな重い剣を片手で振り回して追いかけてくるなんて、正直、ただの役人にするにはもったいない。

(ちょっと、ジャッキーちゃんとやりあってるのを見たい気がするけど)

 疲れるので自分は、ジャッキール含めて一撃が重い技巧派の相手とはあまり戦いたくないが、他人事なら面白く観戦できそうな気がする。

 ともあれ、シャーは、相手の攻撃がやんだので、ほっとした。

「ここにきっ白い顔の男こなかった。というより、アンタがさえぎったせいで、見失っちゃった気が激しくするわけだけども」

「それよりも、この辺で、テルラっていう小僧みなかったか! 刀鍛冶だ」

 訊かれて使命を思い出したのか、メハルは急き込んだ様子で言った。

「都に来てるはずなんだが、そいつが、おそらくこの事件の鍵を握ってる奴なんだ」

「ってことは、やっぱりアレか、ハルミッドの弟子っていう……」

「ああ、そうだ。そいつを探しているんだが、見なかったか」

「いや、今夜は見てないよ」

 シャーは、左手で顎をなでやり、思い出したように眉をひそめた。

「そういえば、一時期、酒場で見かけたな。あの酒場で見かけるということは、この辺をうろついてるってことか」

「やはり、そうか! 今夜は、あちらこちらに部下を配置してるんだが、ぜんぜん網にかかってこねえ。お前も見たら詰め所に教えろよ! じゃあな!」 

 メハルは、そういって、あわただしく走っていった。

「テルラっていうと、あの兄ちゃんなわけだが」

 メハルの姿が見えなくなっていくのを見ながら、シャーは剣をとりあえずぬぐっておさめる。月の光で刀身がきらりと輝くのが目に入る。シャーにですら、その輝きが、時に怖くなるときがある。それが、あまりにも魅惑的にうつる時が、彼にもあるものだから。

 だが、ジャッキールが言っていたのはそういうことではなく、そこにある理由は、もっと、自分たちとは違う複雑なものだ。

「ジャッキールが言ってたのは、やっぱりそういうことなのか」

 シャーは、今朝、ジャッキールが言った「奴は我々とは感覚が違う」という意味深な言葉を思い出した。そして、ハダートが送ってきたいくつかの情報……。メハル隊長が追っているとした、数人のリストの中に、テルラの名前があった。

 それに、ハダートの情報によっても、ハルミッド自体も、かなり危ないところがあったという。その師匠を見て育った弟子に、その狂気はどう映っただろう。すばらしい剣を作る原動力に見えたのではないだろうか。

「『使う側』の人間が、切れ味に酔っているのではなくて、『作る側』の人間が、研究のために敢えて自分で斬れ味を試している」

 シャーは、低い声でつぶやき、ふと、何かに気づいて顔を上げた。そうか、と顎をなでた。

「昨日、ジャッキールを追い詰めなかったのは、ダンナに逃げられたからじゃない。ダンナを殺そうというつもりはなかったんだ……。あの状況で泳がせたのは、実はちゃんと考えがあったんだな?」

 負傷した状況について、ジャッキールは多くを語らなかったが、それでも、少しぐらいはわかる。ジャッキールは、多少斬られても逃げるような男ではない。だとしたら、相手が逃げたのである。

 けれど、どうして逃げたのだろう。ジャッキールに重傷を負わせたなら、間違いなくチャンスなのに。あの男のトドメを刺すつもりなら、その場で間違いなく追撃を加えるはずだ。そうなると状況はエスカレートしてくる。ジャッキールが、あの程度の怪我で済んでいるのはおかしいのだった。

 もし、ジャッキールの剣を奪うつもりなら、彼には死んでもらったほうが好都合に決まっているし、人斬り自体を楽しんでいるのなら、彼のような強い男を叩き切るのを嫌がる理由がない。それなのに、「彼」は逃げたのだ。

「ヤツは、いつか、殺しをやめるつもりだったからこそ、あの時、ジャッキールを殺すわけにはいかなかったのか」

 「彼」は、狂気にとらわれたなりに、冷静に行動しているのだった。すべてが終わった後、平穏に暮らせるように、すべての仕業をジャッキールがしでかしたものと誤解させている。そして、ジャッキールにはそれを弁解する術がないことや、彼の人格もよほどよく知っているのだろう。

 役人に追い詰められれば、ジャッキールはプライドを守る為に自殺するだろう。しかし、彼がどれだけ無実を叫んで死んでも、所詮死人に口無し。おまけにジャッキールのヤツは素行がよくない。どうせ噂をかき集めれば集めるほど、彼が戦闘狂の危険な男だったことの証拠が積み重なるだけである。結局、剣に狂った男が快楽殺人の挙句、自殺したとしか見られないだろう。

 彼の計画通りコトが進めば、この連続殺人のすべては、ジャッキールが一人で背負ってもっていってくれる。そうすれば、翌日から「彼」は、何食わぬ顔で平穏な日常に戻っていけるのだ。

「ダンナを一人で行かせたのは、ちょっとまずかったかな」

 シャーは、眉をひそめた。

 この考えが正しいのなら、「彼」が最後に狙うのは、ジャッキールのはずだった。「彼」が願っているのは、ジャッキールが剣で自殺すること。なんとかジャッキールには死んでもらわなければならないのだ。

「でも、リーフィちゃんと一緒に酒場にいれば、そんな無茶もしないか」

 シャーは、そう考え直して、一安心した。

 そう思うと、リーフィは信頼できる人間だった。彼女なら、うまく取り繕ってくれるだろう。彼女は、自分よりもよほど冷静なところがあるから、そういう判断を間違えたりしないだろう。

 けれど、シャーも、女の子をそういう風に信頼するのは、初めてだった。いつもは、自分が全面的に守ってあげないと、と思うのが常だった。こんな風に思うのは、彼にとってはかなり珍しいことなのである。だから、すぐにわかった。今回のその感情の出所は、けして恋愛感情ではない。

「ちぇっ。オレのほうからも、結構色気のないことになってるんじゃないか」

 だからといって、別にリーフィに入れ込んでいるところがないわけではないのだが。

 シャーは、苦笑してそう呟き、消えたカディンをひとまず追いかけることにした。この辺の道は知りつくしている。焦らなくても、行き着く先ぐらい、大体わかるのだった。それに、彼は、別に本星ではない。

 



 



 リーフィはひたすら走っていたが、背後の気配が消えたのを確認して、足を緩めた。

「……あきらめたのかしら」

 あがった息を整えながら、リーフィはふうと深呼吸をした。

 外見上、表情はほとんど変わらないが、彼女でも、追われるときには、それなりに恐怖心には襲われるものだ。ただ、リーフィは、色々苦労してきたのと、持ち前の性格から、いつも冷静でいられるだけである。それに、表情にも出にくいだけだ。

「さっきの娘さん大丈夫かしらね。ずいぶん調子が悪そうだったけれど」

 なんとなく不安になる娘だった。あの服装からだと花街の女だろうか。リーフィも、立場的には彼女に身をつまされるところがあるから、余計に心配になるのかもしれない。

 あとで様子を見に行こうか。リーフィは、そう考えながら、それでも、早足に遠回りしながら道を戻ろうと考えていた。

 だが、ふと、彼女はすぐに立ち止まってしまった。

 前のほうから、息を切らせながら走ってくる男の姿が見えたのである。

「おのれ、あの男……」

 男は、そうはき捨て、ふと、リーフィのほうを見て、彼もすぐに立ち止まる。

「そこの女は……」

 男はカディンだ。リーフィは、思わずびくりとした。カディンが剣を握っていたから、ではない、彼女の目は、もっと向こうを見ていた。だが、それにカディンがきづいたかどうか。

 カディンは、ただ、酒場でリーフィが、シャーと同じ時刻にいたことを思い出したのだろう。そして、すぐに彼女とシャーのつながりについて思い出したはずだ。

「あの三白眼めは、そちの情夫というわけだな? 私をはめたのか、お前たちは!」

 普段なら、あるいはリーフィは、それについて否定していたかもしれない。だが、リーフィは、カディンの背後に回ったものの方に気をとられていたのだ。彼女は、最初から、カディンよりも、そこにいる人間のほうを見ていたのだった。

 その理由は簡単だ。そこに潜んでいるものの方が、カディン本人よりも、よほど、危険だったからである。シャーに対する憎悪で我を失っているカディンよりも、それはよほど危険だった。

 彼には、「魔剣」がついていたから。

「待って!」

 リーフィは、鋭い声で言った。

「……あなたの後ろにいるのは……!」

「黙れ、この売女め」

 カディンは、リーフィを狙って剣を振るおうとした。だが、リーフィは動かなかった。いいや、リーフィにはこの先の結末が見えていたのだ。

 その先にいる人物の顔を、リーフィははっきりと見た。

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