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甲斐雪人が、授業が終わり教科書類を整理していると、右の席の神田隆志が同じように荷物を鞄にしまいながら話しかけてくる。
「この学園の授業はどう?」
「大変だね」
「客観的に、大変なように思えないんだけど」
「いやいや、それ誤解だよ。前の学校よりも授業のペースが早いし。宿題の量もおかしくない?」
「俺は他の学校は知らないけど、やっぱり多いよな?」
「多いってもんじゃないよ。異常」
「そうよね、異常よね!」
神田の席の向こうに立ち、背中にリュックを背負った夢宮さやかのおかっぱの髪が大きく跳ねる。
「もうわたし、ちんぷんかんぷんなんだもん。それも高等部になって一気に難しくなったと感じるわ」
そう言いながらため息をついている夢宮を、教室の入り口から呼ぶ声が聞こえる。甲斐も気がついてそちらを見ると、芹沢雅が両手を胸元に揃えてこちらを見ている。
はひっ、と素っ頓狂な声を上げながら夢宮が振り返ると、芹沢雅が右手で手招きをする。
「さやかさん」
目を軽く閉じて笑顔を作る彼女の声は決して大きくないが、そこに存在するだけで教室が静まり返っていることもあり、ハープの様な声色が響く。
「な、なんでございましょう、ミヤビさま」
「どうぞ、こちらに。少しお話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「は、はひ。もちろんでございます。わたくしめに何用で?」
正しいのか正しくないのかよく分からない日本語を使いながら、夢宮が芹沢雅が立っている入り口へと急ぐ。
「できれば、少し内密にお話したいことなのですが、一緒に来ていただけますか?」
「はひ。喜んで」
ふふふ、と笑いながら芹沢雅は廊下を歩く。すぐ後に夢宮も続く。彼女の登場に静まっていた教室が一気に騒がしくなる。所々から何事だ、というような声が聞こえてくる。内密にしなければならないようなことを声に出してしまうところが彼女らしいかもしれない。
「友だちになった、て言ってたっけ」
「まぁ、言ってたけど。でも、あれってどちらかというと転入してきた甲斐のことが心配だったから、そのついでって感じがしたんだけどな」
「なんだよ、それ」
「それに、こうやって実際呼び出しがかかるなんて、初めてなんじゃないか?」
「学園長からの呼び出し。客観的に考えると、何か悪いことをした、とか」
「あいつがそんなことしでかすとは思えないけど」
「それとも、すごくいいことをした?」
「内密に話したい、てところも気になるけど。やっぱり甲斐のことなんじゃないか?」
神田が丸いメガネの下から、甲斐を指さして笑顏を作る。甲斐も芹沢雅と何度も話したことがあるが、彼女の性格からすれば、もしそうなのだとしたら直接話しかけてくるだろう。
「それなら、わざわざ、内密に、なんて聞こえるように言うとは思えないけど」
「うーん、そうだなぁ。ま、考えてもわからないし。あとで夕食の時にでも聞いてみるか」
そうだね、と答えながら甲斐は荷物の入った鞄を背負った。
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