3
宿舎の入り口近くに設けられた休憩スペースに
甲斐は最初に芹沢に会ったときを思い出していた。純正芹沢学園高等部の正門。すらっと長身の彼女が、甲斐に小首を傾げる。反則だと、甲斐は何度も思った。その魅力に誰もが憧れる。頭もよく、羨望の対象であり、それなのに気さくに彼女は話しかけてくれた。その仕草一つ一つが思い出される。
「許せない」
すでに涙が流れていないようだが、夢宮の瞳は真っ赤だ。その肩を神田が軽く抱きよせている。
「責任を、そんなに感じるなよ」
甲斐の複雑な表情に気がついたのか、神田が甲斐の肩を軽く叩く。
「責任じゃない。僕も、許せない」
「俺だって許せないさ。一体誰が?」
「二人は、彼女を見たのか? つまり、その姿を」
神田は首を振る。けれど、夢宮はからだをびくびくと震わせているだけだ。
「わたしも、クラブのグラウンドに行く途中で、人だかりを見つけて。その間から、女神の、赤い!」
夢宮はまた思い出したのか、顔を強張らせた。
「一体誰が……」
甲斐は俯くと、こぶしを握り締める。篠塚は、方法よりも動機が大事だと言っていた。けれど、甲斐にはどちらも分からない。そもそも「誰が」彼女を脅していたのかさえ、分かっていない。もちろん、今回の件に関して言えば、手段は単純だ。深夜、すでに多くのものが寝静まったであろう時間に彼女を呼び出して、刺した。問題は、あの学園集会での話だ。あの状況で、はたして、そのようなことが可能なのか。
二回目の学園集会のとき、甲斐は壇上にいた。そこから体育館を一望した。外からオムレツのような形をした体育館だが、甲斐の位置からは扇のような形に思えた。もちろん、遠近感の錯覚なのだろう。あの位置から、視覚的な方法で意思を伝えるのは難しいだろうし、甲斐はそんなものなど見えなかった。味覚や嗅覚、触角ではさらに困難なように思える。だとしたら、やはり聴覚か。彼女はまるで誰かと会話をしているようだった。もしかしたら、あの時イヤホンでもしていただろうか。けれど、駆け寄ったとき、そんなものは見当たらなかった。
「昨日の集会のとき……」
「ああ、そういえばあの時、マイク……」
甲斐が二回目の全校集荷のことを思い出していると、神田も同じように、はと気がついた表情をして、甲斐を振り返った。
「甲斐!」
が、それを遮るように、宿舎の入り口から甲斐を呼ぶ声が響く。顔を上げると、
「はいっ」
甲斐も手を上げて返事をする。
「おお、いたか」
大股でまっすぐ甲斐のところまで来ると、さっと屈みこみ小さな声で言った。
「警察がお前をご指名だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます