それから三日後、甲斐雪人かいゆきとはようやく課題から解放された。結局あの日、量子に関する論文を読む切ることができなかったために、翌日大量の課題を出され、それが終わるまで授業を受けることさえ許されないというのだ。ひどい話だ。が、自業自得だと言われればその通りであり否定できない。

「お疲れさん」

 学食に行くと、神田隆志かんだたかしがお昼をとっていた。

「ようやく終了。厳しいね」

「特別厳しい課題だった。客観的に、そう感じたけど。何か先生に恨まれるようなことしたんじゃない?」

「いたって平々凡々としてるつもりだけど」

「こっちは原因が何となく分かってるけど」

 甲斐は驚き、まじまじと神田を見る。

「お前が帰ってこなかった日、そういえば、結局甲斐はどこにいたんだ?」

「サバイバルだよ。迷子になって、気がつけば森の中」

「森なんてないけどな」

「十分広いよ」

「まあ、迷うというのは重々ありそうなことだし、過去にもいたけどな。それよりもあの日な、芹沢さんがこの学食に来てだよ、お前を待ってたんだ」

「はい?」

「連れてきたのは夢宮だけど、いつも俺たち九時ごろに夕食をとってただろう。それで、お前が来るのを一緒に待ってたんだよ。あの、芹沢さまが。それを誰かが先生に告げ口でもしたんじゃないか?」

「それでこの課題?」

「それだけ彼女の影響力はすごいんだよ」

「それは納得」

「今日の午後、また学園集会だけど、出られるか?」

「また?」

「前回途中で終わった感じだったからね」

「大丈夫なのか?」

 神田が首を捻る。

「前回の学園集会のとき、芹沢さん、まるで脅されているように見えたけど、解決したのか?」

「解決したのかどうか分からない。けれど、学園集会は彼女の意思で開かれるものだから、安全だと考えてるんじゃないか。それに、外部からのセキュリティーの高さは尋常じゃないよ、この学園」

「僕が正門から入ってきたとき、やろうと思えばしまったまま門の間を通り抜けられそうだったけど」

「そうってだけ。試してみると分かるけど、黒服集団に拉致されるぞ」

「……試したのか?」

「抜け出そうとしたことがある。深夜に、こそっと。そしたらどこにいたのか分からないが、黒い服を着た数名の大人に腕を掴まれて」

 思い出したように、神田は腕を二回振る。

「それ、本当か」

「試してみれば分かる」

 目は笑っていない。もしかしたら本当なのかもしれない。

「機会があれば。学園集会は何時から?」

「一時」

「校長の話が三十分だとしたら、一時半に行けばいいかな」

「それは許されないよ」

 甲斐は肩をすくませると、箸を動かした。

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