クレイジーエメラルド・ショウクワイア
白乃友。
プロローグ
プロローグ 遠い日、雨の森
大木の根元。
まだ母親の手に引かれているのが、誰から見ても自然な年頃の、少年だった。
森は大雨だ。洞の中では何とか、雨粒は凌げても、森中の葉が打たれ立てる、威嚇じみた響きからは逃れられない。
一人で探検を試みたことを後悔しながら、耳を塞ぎ、ひたすら耐えていた。
いつの間にか、洞の入り口に、少女が立っていた。少年と、同じ年頃の少女だ。幸運にも、降り始めにこの場所を見つけることが出来た少年とは違い、少女はというとずぶ濡れだった。
少女の唐突な登場は、少年を酷く驚かせた。狭い洞の中で飛び上がる。
少女は、美しかった。
雨から少年を救うために、神が遣わした天使なのではないかと、信じずにはいられないほどに。十歩先も見えない大雨のせいで、近づいてくる気配がしなかっただけとは、欠片も考えなかった。
天使は言った。
「いますぐふくをぬいで、このばしょをあけわたしなさい」
少年に躊躇は無かった。少女の言葉に従えば、苦しみから解放されるのだと、確信していたから。
かくして、少年は洞の外、全裸で雨に打たれることになった。
入れ替わる様に、少女が洞に体を滑り込ませる。
少女は、濡れた服を脱ぎ捨てると、自身も全裸となった。少年の残した、下着以外の衣服に、袖を通し始める。
少女が天使でもなんでもなく、ただのありふれた
少年は絶望した。
自分がただ、雨を凌げる場所と衣服を奪われただけだと、気付いたからだった。
「いたい、いたいよぉ……!」
少年は、この年にしては利口な方だったが、その代わり、力ずくで奪い返せるような気概の持ち合わせは無かった。
手酷い裏切りと、全身を雨粒に打たれる痛みに、涙を浮かべて耐えることしかできない。
少女が、少年に呼びかけた。
「ねえ」
「なに?!」
少年は、一も二も無く、反応した。
例え少女が天使でなくとも、この状況で自分に投げかけられるべき言葉が、『一緒に、雨宿りしよう』以外にあるとは思えなかった。
「なかないの。いま、お歌を歌ってあげるから」
少年は、少女が何を意図してそんなことを言ったのか、分からなかった。
少女の言葉は、ベッドの中で母親から口にされるべき台詞であり、少年の今を救うものではなかった。
「いま、すごい先生におしえてもらってるの。わたしには、さいのうがある。だから、あなたといっしょに雨宿りできない。さいのうのない子と、いっしょのやねのしたにいたら、じぶんもだめになるって、先生にいわれたから。……あなたが、えらんで。雨にうたれるのを、わたしの歌をききながらがまんするか。それとも、わたしといっしょに歌うのか。それで、わたしとおなじくらい、上手だったら、いっしょに雨宿り、させてあげる」
自身の、緑色の肌を、少年は抱きしめた。
そして―――
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