第9話 援軍

 その時姫様が後ろに現れた。

「もう少しだ、後30分我慢しろ。30分我慢すれば援軍が来る、あの鉄騎兵だ。中央師団の精鋭中の精鋭中だぞ。

 私の黄金の瞳には味方の軍勢が映っている。粘れ」


 姫様の黄金の瞳の力は知っている。確かにすごいけど本当かな。

 周りのみんなは鉄騎兵の名前を聞いて士気は上がっているから、もう少しなら持つかも知れない。

 装備系の開発してた僕は知ってる、戦果を上げてる部隊ではあるが、鉄騎兵と言っても特に凄い装備系しているわけではなく、普通の軽騎兵だ。

 なので僕はどこかで逃げようと思います。

 どうやって?

 さっき川に落ちた時、あそこがちょっと浅い事に気がついたのですよ。

 ふふふ、僕って賢〜い。


 ん? 何か嫌な予感!

 視線を感じて後ろを振り返ると、やっぱり姫様がいました。


「あ、いえ、何にも考えてなどいませんでしたよ、僕は頑張ってますよ」


「おーい、ベック君、ツラを見りゃ分かるんだよ。お前いい事考えていただろ」


「い、いえそんな事ありませんです、はい」


「イエなのかハイなのかどっちだよ、まっ良い、今からお前に最後の指令を与える、心して聞け、逃げたら殺す」


 股間からの汁が止まりません。


「ちょっとそこの箱開けてみろ」

 姫様が指さした先には大きめの箱がありました。


「お前の子飼いのドワーフ共にも同じ指令を与えてる。ふふふふふ」


 姫様が物凄く悪い顔で笑っています。鬼です人殺しの顔です。


 僕は左翼の崩壊が起きる前に箱を例の浅瀬近くまで運びました。



★決戦当日 昼下がり 中央大森林


 鉄騎兵を指揮するライムントは、焦っていた。

 姫様の命令で森林内に敷設した道具の準備はできている。

 ただ森を抜けてる時にいくつかの魔獣と出会い、仕掛けに触ってもらうわけにはいかないので、始末していたら時間がかかった。

 森なので木が邪魔で騎乗もできない。馬を引いての徒歩だった。


 残りは、開戦中の真裏に出て、敵の本陣を突くのが我々の仕事だ。

 森の出口付近で騎乗して、一度隊列を整える。

 作戦概要は、敵を混乱せしめ、敗走させた後森へと誘導せよ。だ。


 敵の混乱は簡単だ、敵陣の本陣へ真裏から一直線に突入して守備隊を分断、突き抜けた後、さらに隊を二分して今度は横から左右に挟み討ちだ。


 敵将を討ち取る必要は無いと、姫様からのリクエストなので、我々の損害を極力出さないよう無理はしない作戦になる。


 相手を脅すだけ脅せば、青白い大貴族共はあっさり逃げ出すだろう。

 森と隣接する街道はすでに鉄条網で封鎖して、あからさまに見えるように陣を作っている。



 敵本陣を睨みつけて深呼吸をして一度心を落ち着かせる。我が隊を指導したティア女王の方法だ。

 後ろの後続隊に持たせた松明に火を入れているか確認した。大丈夫だ、ちゃんと俺の可愛い部下達は仕事をしている。


 指揮刀を高く上げ、前へ振り下ろし走り出す。

 森の中から一斉に飛び出した俺たちは、何度も訓練してきた通りに隊列を組む。古い騎士の馬列は個人技に頼り切っていて、姫様の軍を見た後ではバラバラ過ぎて隊列とは呼べたものではない。

「ウラー」俺が叫ぶ

「ウラー」隊の全員が叫ぶ


 どうやら敵本陣も気がついたようだが、もう遅い。

 軽騎兵は速度が命だ、すでにトップスピードに乗って敵陣まで50mも無い。

 後ろでサボっていたのだろう、青白い顔の貴族が驚いた顔でこちらを見ている。


 俺はそいつの首をすれ違いざまに斬りとばす。

 部下達がそのまま敵本陣を縦に切り裂いた。


 敵は完全にパニックに陥り、動きがバラバラだ。

 たった一撃で火がついた天幕の消火もせずに、もう逃げ出している。


 だが俺たちはまだ食い足りない。

 縦に切り裂いた後、予定通り隊を二分して横に回り込むと、奴らの情け無く泣きそうなツラがよく見て取れた。


 俺たちの動きについてこれない鈍獣は、横からの挟撃で更にバラバラになり、てんで勝手な方向へ逃げ散ろうとしたので、一度外に出て森の反対側へ集結させて、隊列を組み直した。

 最初に放り込んだ松明が、敵本陣を赤々と照らす。


 これだけの運動をしても、うちの隊から脱落者は出ていない。

 今日の俺たちは乗っているな。

 最後の追い打ちをしよう。


「ウラー」俺が叫ぶ

「ウラー」隊の全員が叫ぶ


 見ろよ、奴ら慌てて走り出しやがった。

 おや、あそこに見える豪華な馬車は、教皇庁の教皇様の豪華馬車じゃないですか、道はふさいでいるので降りて歩いていただかないとね。


 ゲラゲラ笑っていると、部下が下から上がってくる敵騎士を見つけて報告する。


 確かに敵の騎士が10騎程斜面を上がってくる。だがよく見ると、ドワーフのヒゲもじゃがマスクから飛び出している。俺は笑ってしまった、こんな騎士がいるわけが無いだろ。

 姫様の仕掛けだ。

 あの方は本当に良くやるよ、まったく。


 下から上がってきたドワーフの騎士は、大声で

「森へ逃げろー、森なら助かる、うちにかえれるぞ、森だー」

 と、森への誘導を連呼しながら、バラバラになっていた敵軍を森へと誘導し始めた。



 さて、下でまだ戦おうって騎士がいるみたいだから、真後ろから襲って退場してもらおう。

 斜面を必死で駆け上がってくる奴らは、隊の副長にでもやらせて森に誘導してやる。


「行くぞ、下の手助けと誘導だ、副長、半分連れてあいつらを森へとエスコートしてやれ。残りは俺に続け、たらふく食わせてやる」

「ウラー」

「ウラー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る