バス停でボンレスハムを食べてたら、異世界の合法ロリが魔王と友達になってというので頑張る話。

トマトの刺身

第1話 奪われたボンレスハム

 俺の名前は草津海くさつ かい16歳。

 可愛い女の子(二次元に限る)を見ると口の中に入れたくなる、ごく普通のどこにでもいる高校生だ。

 しかしヤクザみたいな容姿のせいで、基本的に話しかけられることはない。

 おかげで楽しいボッチライフを満喫している。


 そんな俺が姉に頼まれて卵を買いに行った帰り道、あたりが夕日の赤に染まり始めた頃。 

 バス停のベンチに腰掛けて大好きなボンレスハムをかじっていた時のことだ。


「う~ん、やっぱりハムはロースよりボンレスだな。ボンレスはロースと比べて脂肪が少なくさっぱりし、赤身の触感がとても肉肉している。これを噛み千切る感覚はさながらまんが肉を食べている海賊のような気分で、ありったけの夢をかき集めてバスで航海をしたくなるくらいだ」


「ママー。あのおにーちゃんなんでひとりでしゃべってるの?」


「しっ見ちゃいけません」


 はたから見れば完全に悪い怪しい人間だが、そんなことは別段問題ではない。

 この自慢の容姿のせいで友達と呼べる者がいない、KOBキングオブボッチである俺にはそもそも見られて困る人などいないという悲しい現実。


「あの~、すみません」


 ゆったりとした口調の可愛らしい声に気づいてふと顔をあげると、目の前に女の子が立っていた。

 一瞬小学生かと思ったがその娘の服装には見覚えがある。


(これ、姉ちゃんが着てるのと同じ制服だよな。ってことはこのなりで女子高生なのか?)


 白いラインの入った黒いブレザーで首元に赤いリボン。

 チェック柄のスカート。

 左手に鞄をもち、右肩に大きな縦長の袋を背負っている。

 これだけ見れば部活帰りの女子高生っぽい。


 しかし、容姿を見るとどうだろう? 

 腰うえあたりまで伸ばした桃色の髪が、夕日に照らされキラキラ輝きとても綺麗にみえる。

 背はかなり低く、スラッとした体型かつ出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいるという完璧な体型。

 顔立ちは子供のように幼く、見れば見るほどあどけない。

 一言で言えば合法ロリ巨乳という言葉がぴったりだ。

 一部の人にとても人気が出そうなその容姿は、二次元専門の俺でもつい口の中に入れたくなる可愛さである。


(俺に……話しかけてるんだよな?)


 この場には夕日のまぶしさに目を細めていっそう人相が悪くなっているだろう俺と、女子高の制服を着てにへらとしている合法ロリ巨乳のふたりだけ。

 どうやら俺に用があるのは確定的に明らからしい。


「なにか?」


「おひふほうでふねぇ。ふほひはへともらえまへふかぁ? ほなかふいひゃって(おいしそうですねぇ。少し分けてもらえませんか? おなかすいちゃって)」


「もう食ってるんですがそれは……」


 半ば強引に俺からハムを奪い取ると、俺の右隣へ腰掛て夢中でハムにむしゃぶりつく。

 その様子を見る限り餓死寸前レベルのやばさだったんだろう。

 普通腹がへっているとはいえ見ず知らずの人間がもっているハムを奪い取って食うだろうか?

 それも食いかけの。

 いや別にハムじゃなかったとしてもそんなことせんだろ。


 奪い取ったハムをあっという間に平らげると、女の子は満足げな表情でにへらと微笑んだ。


「ありがとうございます! 実は何も食べてなくて、ものすごいおなかがすいてたんです。どれくらいかっていうと、えっと」


 女の子は宙ぶらりんの足をぶらぶらさせながら、人差し指をアゴに当ててなにか考えている。

 ここだけ見ると夕日効果もあってまるで美少女ゲームやアニメのワンシーンみたいだ。

 そうなると俺が主人公でこの娘がヒロインて事になるんだろうけど、人様からハムを奪い取るヒロインなんて嫌過ぎる。


「人様の食いモンを奪い取って満足そうな顔をするくらいやばかったんだろ? 知ってる」


「やめてください! それじゃわたしが盗賊みたいじゃないですかっ!」


「あんたがいまやったことが盗賊と大差ないってこっちは言ってんだよっ!」


「え? あれはおなかをすかせてるわたしがかわいそうだと思って、くれたんじゃ……」


「なにいっ……」


 向かい合って言い争いをしていると、俺の言葉は特大の何かによって遮られた。


 ぐぎゅぅうううううるるっるうる。


「わっわっわわわ、わたしじゃないですよ!」


 まじかよ、食いかけといっても半分以上残ってたんだぞ?

 顔を赤くして目をそらすもチラチラとこっちを見て、こんな苦しい言い訳までして何とか誤魔化そうとするなんてよっぽど何も食ってないんだろうなぁ。


「なんでそんな可愛そうな人を見る目をするんですか! わたしだって別に全部食べようと思ってたわけじゃ……」


 俺がレジ袋の中から食後のデザート用に取っておいたハムをおもむろに取り出すと、女の子は目を輝かせ期待と希望に満ちたその表情でハムを見つめる。

 手にもったハムを上下左右に動かせばそれに釣られて女の子の頭が動く。

 その様子はさながら猫じゃらしに反応する猫のようだ。


「食うか?」


「はいっ、食べます!」


 まるで60W形相当電球のような明るい表情をし、あたらしいおもちゃを買ってもらった子供のような屈託のない笑顔で足をばたつかせながら吸い込むように平らげた。


「えへへ。こんなおいしいものをありがとうございます」


 口の周りがハムのタレや食べ残しで汚れていることなど気にもせず、たくさん散歩して満足した犬のような表情で立ち上がり腰に手をあて仁王立(におうだち)する。


「そんなことよりちょっと座れ」


 俺は女の子に座るよう促すと、女の子は素直にベンチへ腰掛けた。

 ティッシュで口の回りの汚れを拭き取ろうと思ったが切れていた為、仕方なくハンカチを取り出してなるべくやさしく、スポンジで食器を洗うくらいの力加減で汚れを拭き取ってやる。

 ハムの匂いで気が付かなかったが、顔を近づけるとキンモクセイのような甘い香りがした。


「俺は草津海。君は?」


「カイさんていうんですね。わたしはエリナといいます」


「エリナちゃんか。そのハムうまいだろ? ハムマイスターである俺の一押しだ」


「はい! とてもおいしかったです。やさしいかたですねぇ。わたし、カイさんにハムのお礼がしたいのです」


 ベンチに寄りかかって空を見上げる俺。

 赤く染まった雲ひとつない空が広がっており、ときより頬を撫でる風が心地よい。


「なにいってるんだよハムくらいで、気にしなくていいよ」


「謙虚ですねぇ。でも、そういうわけにはいきません。なんでもいいので言ってみてください!」


「そうだなぁ。じゃあ早く家に帰りたいからバスを出してくれないか。なんてな」


 言い終えると、赤く染まっていた空が急に暗くなり小さく輝く何かが見える。

 それは夕方には見えるはずのないもので、見えるということは夜であることを示している。

 そう、星座だ。


 ガシャン、プシュウウウ このバスは○○経由△△行きです。


 目の前で突然大きな音がして、機械音声のアナウンスが流れた。

 驚いて正面をみるとそこには待ち望んでいたバスがあり、スーツ姿の男性が下車している。

 一体なにがおこったのかわからずエリナのほうを向く。


(い、いない。バスに乗ったのか?)


 レジ袋をもって乗車するが車内にもエリナの姿はなかった。


 空いてる席に座り、レジ袋をひざの上に置く。

 あまり重さは感じなくもしやと思って中をのぞいて見ると、紙パックの紅茶と頼まれていた卵があった。


「ハムが……ない」


 自分の身に起きたことが理解できない。

 動き出したバスの中、俺はもやもやとした気持ちで帰路へとついた。

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