『夢魔』

深神鏡

第1話

夢幻の世界へようこそ……


ここは現実に疲れた人々が

眠りに落ちて訪れる秘密の世界。


私は夢魔。

人間たちの夢の世界で

遊ぶ悪魔です。

夢の世界は楽しい。


悲しい夢 幸せな夢 苦しい夢 恐い夢

色々な夢の世界にお邪魔して

ほんの少し悪戯するのが

私の趣味。


この夢の狭間は世界中の夢へと

繋がっているのです。


貴方は珍しいですね。

私に出会うとは運がいい。

普通の人々はこの空間に来れない。

極稀に迷い込む方もいますが。


あぁ……素敵な夢の気配がする。

ちょっと遊びに行きましょう。

せっかくなのでご案内しますよ。

一緒にどうぞ。


静寂に満ちた漆黒の闇が広がる空間に

輝く光の扉が現れる。

夢魔は微笑みながら

優雅な仕草で扉を開いた。


真っ白に視界が染まる……


『お兄様』


青い空の下

ピンクの花畑を

小さな可愛らしい少女が走って行く。

フリルとレースの上品なワンピースが

風に揺れてふわふわしている。


『つかまえた!』


少女は自分より少し背の高い少年の服の袖を

一生懸命掴む。


「あー、捕まっちゃったね」


お兄様と呼ばれた少年は

わざと捕まったのだろう。

優しい顔で笑いながら

妹を抱き上げると

そのままクルクルと回転した。


……可愛らしい兄弟ですね。

これはお兄さんの見ている夢……

幸せそうですね……

これは悪戯するのが楽しみです。

ん?どんな悪戯するのかって、

それは見てのお楽しみですよ。

どうしましょうかねぇ……


もう少し様子を見てみましょう。

おや夢の場面が変わりそうですね。

夢魔が呟くと景色がぐにゃりと歪み

別の場面に。


夢の世界ではよくある事ですよ。

ご安心を。


「ミルフィー」


先ほどお兄様と呼ばれていた少年が

おそらく妹の名だろう。

ミルフィーと呼びながら

暗闇を探し歩いている。


んんん……

これは悪夢ですね

お兄さんうなされています。

おや……


夢魔の視線の先には小さな少女の死体が。


「ミルフィー!!」


駆け寄る少年。妹を抱き抱えると

泣き始めた。


素敵な悪夢……

このお兄さん

妹さんを亡くされているみたいですね。

可哀想に……

そうだ妹さんに化けてあげましょう。

フフフ……


夢魔の姿はあっという間に消え

妹の亡骸を抱え泣きじゃくるお兄さんの傍に

ミルフィーが現れる。


『……お兄様……』


「!?」


ミルフィーの姿に化けた夢魔が

優しい声で囁く


『お兄様、ミルフィーここにいるよ 泣かないで』


「……お前は誰だ……」


少年は冷たい声で問うと

立ち上がり怒鳴った


『妹の姿をするのをやめろ!!

正体を現せ!!』


『……おやおや一目で看破されるとは……』


ミルフィーの姿をした夢魔は驚いた様子で

少年の前から姿を消した。


どうやらこの少年、魔術師のようですね。

正体がバレたので退散しましょう。

捕まったら大変です。

それに、夢が醒め始めている。

戻りましょう。


気がつくと元の真っ暗な空間

夢の狭間にいた。


夢魔が現れ やれやれと首を振る。


魔術師の夢でしたか。

どおりで魅力的なはずです。

危なかった。

私の楽しい悪戯生活が

壊されるとこでした。

魔術師は呪文で悪魔を捕らえますからね。

奴隷にされたらたまらない。


すいませんね。

せっかくの珍客なので

面白い悪戯をお見せしようと

思ったのですが。

失敗してしまいました。


え? 悪戯はよくない?

私の生き甲斐ですよ。

ささやかな趣味です。

こう見えて夢魔の中では

異端扱いなんですよ、私。


夢魔のくせに人間を性的に襲わないと

有名なのです。


あまりそちらの方には興味がないんですよね。

夢魔失格と言われてますが

どうでもいいです。

私はほんの少し色んな人間の夢に

悪戯するのが楽しくて仕方ないんですよ。


おや、貴方もそろそろ

目覚めの時のようですね。

また、縁がありましたら

この夢の狭間でお会いしましょう。


さようなら 珍客さん。


僕はハッと目覚めた。

時計を見ると朝の6時調度。


何か夢を見ていた気がするが

思い出せない。


とりあえず顔を洗いに行こう


今日も学校だ。





題名『夢魔』END

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『夢魔』 深神鏡 @____mirror13

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