第17話「紫堂六華の翼」
その光景を、"カリバーン"二号機の操縦席で
背後で数値を読み上げる、
「六華君、
「想定内です。アーサー
緊張感に
ここは高度一万メートル、翼を並べた機動戦闘機達の戦場。
そして、それを生み出したしたスタッフの一人として、六華は自分を必死で落ち着かせる。胸に当てた右手は、さっきから震えが止まらない。
周囲を三機ごとの小隊で飛ぶ"カラドボルグ"が、闇の中で
『こちらランスロット
『ガウェイン小隊もOKだ、さっさとおっ始めようぜ!』
『トリスタン小隊、退屈してきたぜ? そろそろ花火を打ち上げようや!』
気の荒い傭兵達は、まさに意気軒昂の気迫そのものだ。
アーサー01、エディン・ハライソが
円卓、上の下もなく、身分を問わぬ勇者達が互いに並ぶための席だ。
そこに今、勇敢なる傭兵達と共に六華も並んでいる。
「六華君、大丈夫かね? 君には初の実戦、本物の戦争だ」
「大丈夫です、五十嵐三佐」
「私はもう、自衛官ではない。ここにいるのは、五十嵐巌という一匹の男、それだけだ」
「あ、それいいですね……じゃあ、巌さん! フォローをよろしくお願いします!」
「いっ、巌さん!? ……了解した、六華君」
「さて……見せてあげるわ、IQ400の私の頭脳を!」
六華には秘策、そしてとっておきの切り札があった。
帰国命令を無視し、
八神重工本社からは、返事はない。
代わりに、まだ開発中の機材が送り込まれてきたのだ。
それが今回、緒戦に殺到するであろう無数の巡航ミサイルを無力化する。
ふと、六華の脳裏に過去の記憶がフラッシュバックした。
白い壁と、白い天井と、窓の外の森。
それが紫堂六華の幼い日の原風景だ。
生まれながらに特別な才能を持った彼女は、両親に売り飛ばされたのだ。八神重工が極秘に進める、天才児を集めた兵器開発計画に組み込まれたのである。
それが、六華が五歳の時である。
『おや、もうこんな難しい勉強をしてるのかね。天才児は
『専務、
『いいね、実にいい。技術立国日本を背負う、これからの世代の
大人達は皆、六華の前では機嫌がよかった。
ネットを介して世界中を駆け巡る、真っ白な少女。
だが、実際には白い
不思議な作業が持ち込まれたのは、そんな時だった。
『これかい? 先日の会議で不採用になった、陸自用の陸戦兵器だよ。驚いただろう? ロボット兵器だ。動力源や関節部の諸問題は残っているが、我が国はロボット大国でもあるからね』
それは、山積みの仕事を淡々と処理していた時だった。
担当の技官が見せてくれたのは、いわゆるボツ設計だ。
一瞬で見て、六華にはそれが
全高10m以上の人型機動兵器を、どんな動力源で稼働させる?
既存のディーゼルエンジンやガスタービンでは無理だし、原子炉なんて載せられない。
それに、人間の動きを再現する関節部の耐久性は?
複雑な可動部の集合体は、激しい実戦の中で確実に
――まるで、私みたいだな。
ふと、そう思った。
設計図という二次元の紙媒体から出てこれない、未完の兵器。
それは、研究所から出たことがない、人間として扱われない自分に似ていた。
『……これ、貰っていいですか?』
『ん、何だい? 六華ちゃん、メモ用紙にでもするのかな?』
『まあ、そんな感じです』
それが、六華にとって生まれて始めての趣味になった。
そう、趣味……
何から何まで八神重工の研究所に管理され、テレビも読書も知識を得るために見せられた。アニメもドラマも、映画さえも見たことがないのだ。技術書ばかり読まされ、ひたすらに天才児としての有用性を磨かれてゆく。
そんな中で、六華は初めて趣味を持ったのだ。
『動力源はコンパクトで、高い出力を得られるものにしなくちゃ』
それで、
同時に、マグネイト・ジョイント機構という『磁力でのみくっついた、完全可動フリーな関節機構』という可能性をも見出す。
全くの失敗作を、自分の知識と経験で塗り替えてゆく。
与えられた仕事をこなすかたわら、六華は夢中になった。
だが、作業に没頭する程に、どこか
『……普通に完成しちゃうな、これ。また、私の作った兵器が売られていくんだ。そして、どこかで誰かを殺すんだ』
八神重工は自衛隊の装備品全般を作っているが、海外へも武器を輸出している。
人型機動兵器という、
ふと見た外に、鳥がいた。
白い鳥だ。
白い
だが……その鳥は六華の視線に気づいて、
鳥には翼があって、どこまでも飛んでいけるように思えた。
檻の中の自分とは違った。
そして、初めて欲しいものができたのだ。
『翼が、欲しい……翼を。そう、この構造なら一度全身をバラバラにして……磁力で再合体。変形すれば……人型に、翼を。それが、私の望み、なの?』
かくして、天才少女の手によって画期的な兵器が産み出される。
それは今、北欧の小国ウルスラで初めての実戦を経験しようとしていた。
あまりにも常識はずれで、突飛で大胆……そうした兵器
そう、機動戦闘機は六華を研究所から外の現場へと連れ出したのだ。
追憶との一瞬の、
そして、六華は思い出す。
このウルスラ王国に来て、景色を知った。鳥の声や町の
「アーサー02より各機へ! ……これより120秒後に、磁力炉を完全停止してください!」
回線の向こうで、誰もが息を飲む気配が伝わった。
だから、反論が行き交い不信感を呼ぶ前に言葉を続ける。
「これより、八神重工から受け取った
そう、切り札……それは特殊な磁力炉だ。
従来の"カリバーン"や"カラドボルグ"に搭載されているものとは、根本的に違う。言うなれば、次世代の磁力炉である。
その力は、もはや戦術兵器の概念を
使い方によっては、戦場を全て磁界で覆って支配することができるのだ。
だが、難点は位置を移動できないこと。
今は動かすことができないのだ。
『おいおい、エンジンカットって……失速して落っこちちまう』
『……信じていいんだな? お嬢ちゃんよう!』
部隊の仲間に混乱が広がりかけた、その時だった。
冷静な声が静かに響く。
『アーサー01、エディンです。各機、風に乗って……この季節、ウルスラを囲む
そして、約束の時間を迎える。
周囲で一つ、また一つと闇に機影が消えた。
六華も磁力炉を停止させ、そのまま全機能を眠らせる。
同時に、背後から強烈な地場の烈風が吹き荒れる。あっという間にウルスラ王国の空を、強大な磁力の流れが包んだ。
遠くで無数の爆発連鎖して、夜明けにも似た明るさで空が燃える。
「巡航ミサイル群、全て無力化! 全機、磁力炉再始動! ……さあ、行くわよ!」
互いを結ぶ
こうして戦いは、先制攻撃に出た
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