04-2.1990年代のこと(小学生時代)

ここから、いよいよ私と20年間、生活を共にした父方祖父母の話をしていかなければならないだろう。

私を引き取り、育てる過程は前述の通り。どんな綺麗事を言おうが、祖母の「執着」と「執念」そして「憎悪」があったことには間違いない。

自分の息子(父)を寝取った淫売女(母)、自分の娘(叔母)を寝取ったDV男(義叔父)。この概念は生涯、変わることはなかった。

祖父は随分と印象が薄い人ではあった。私にはとても優しく、まさに「おじいちゃん」として精一杯面倒を見てくれていた、と思う。ただ、妻でもある祖母には全く頭が上がらず、時に泣き崩れて「捨てないでくれ」と縋っていたこともある。

父、母、叔母、祖父、そして私。誰も何も言えない権力の頂点として、祖母は立っていた。

その祖母は、今でいう「強迫性障害」にあたる。もう一つ、客観的に見れば「境界性パーソナリティ障害」もおそらく併発していただろう。

とにかくその人格は恐ろしく、人を否定し、人を気分で傷つけ、試し行為、見捨てられ行為をしなければ自分を保てない・・・ある切り口から見れば、とても、とても哀れな女性でもあった。

まず「強迫性障害」の部分だ。祖母は小学校や外出先から帰ってくると、必ず風呂場で足を洗うことを義務付けられた。外は汚く、ホコリだらけ。特に、小学校のような誰が誰だかわからないような汚い子供達が来るような場所に行ったのなら、足を洗う事は当然。これは年間を通して行われた。

もう一つは病的な潔癖。毎日毎日部屋の隅々までを掃除し、掃除で舞ったホコリをホウキで息を吹きかけながら外へ出す。襖や布団、学習机から窓まで、掃除しない日は元旦だけ。外出しようが、どんな予定があろうが自分の「安心できる行動(=掃除)」をしないと落ち着かず、周囲に当たり散らしていた。掃除ができない事自体がストレスになっていたのだろうと考えられる。


そして強迫性障害より厄介なのが「境界性パーソナリティ障害」だ。

Wikipediaより引用していく。

【激しい怒り、空しさや寂しさ、見捨てられ感や自己否定感など、感情がめまぐるしく変化し、なおかつ混在する感情の調節が困難であり、不安や葛藤を自身の内で処理することを苦手とする。】文章引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A2%83%E7%95%8C%E6%80%A7%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E9%9A%9C%E5%AE%B3


とにかく、一旦怒りに火がつくと周囲では抑えられない。それがどれだけ理不尽であり、どれだけ周囲の人間を傷つけ、混乱させ、影響を与えるかなど考えられなくなってしまう。自分の怒りのエネルギーを手当たり次第ぶつけ、発散しなければ自分を保てないほど、数え切れない程の爆発をしていた。

特徴的なのは、それが「怒りを覚えたその人」にぶつける訳ではないという事だ。端的にいうと、自分よりも立場や力が弱い人間にぶつける。典型的なターゲットとなったのが私と祖父だ。

祖母の機嫌が悪いとき、私はテレビを見ているだけで電源を消され、頬を強打された。当の本人は何が悪いのかわからないため、祖母が台所に去ったあと、もう一度テレビのスイッチを入れる。すると、台所から走ってきてテレビを消し、さらに強い力で頬を殴打するのだ。漫画のように真っ赤な手形が私の頬に残り、私は「何故だからわからないがテレビをつけてはいけないのだ」と今度は学習机に向かう。すると、今度は口での「攻撃」が始まる。


「お前のママはパパを騙して奪った嘘つき女だ。お前もその血を引いて嘘つきだね」

「前にハサミを無くしたと言っていた。どうしてもっと探さない?ばっちゃは探していただろう?人が探しているのを見てどんな気分だった?ママの子だからそんな事もわからないか」

「ママはちっとも迎えに来ないね。実の親なら普通は迎えに来るんだ。お前はよっぽどいらない子なんだね。ばっちゃもいらないよ。お前のような子供は」


こうやって言葉を羅列すれば羅列するほど、今ならわかる。

祖母はそうやって言葉にしながら、実は根本では理解していたのだ。

自分が取るに足らない存在だという事を。

後10年もすれば、この孫も自分の息子(父)と同じように、コントロールが利かない存在になるという事を。

そして、必ず、見捨てられるという事を。

自分はいてもいなくても、もう実は何の価値もないという事を。


今ならわかる。


この女性は、寂しく、心が貧しく、苦しく、決して癒やされる事のない傷を持つ、哀れでちっぽけで、60才を過ぎても見えない【何か】に怯え続ける子供だった事を。

だが、だからといって、息子や孫に精神的虐待をしていいという理由にはならない。


彼女は2000年を待つことなく、この世を去ることになる。

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