02-1.ガラス越しに困っている事:地図が読めない
動作IQの典型的な症状として有名なのが、この「地図が読めない」だ。
一例として、カーナビで解説していこう。
まず、視覚的情報が多すぎる。紙のような平面の上に無数に伸びる何十本もの道が記載され、さらに公道名や一方通行、最近のデジタル化で赤やオレンジで一部分が塗られ、渋滞情報が表示されている。信号や交差点、人の移動量・・・リアルタイムで表示される情報の数々は、私の頭をパニックと?の記号でいっぱいにする。
さらに、建物にはほぼ全て名前が表示され、四角いマスの上に文章として表示されている。○○ビル、ハイツ○○、もちろんファミレスやコンビニ、ガソリンスタンドが色とりどりで【健常者】にはわかりやすいように見えているはずだ。
さらに今流れている音楽のタイトルやアーティスト名、天気、センサー感知による多方面への注意喚起通知。
これが均等に、全部漏れなく一気に頭の中に入ってくる。
先ほども述べたが、動作性IQが低いタイプは、情報の「取捨選択」ができない。IQに特に問題が見られない健常者には、この情報を「必要なものだけ」取り込む能力があるらしい。フィルターをかけたり、注目するべき場所が自然に読み取れる。
だから、こういった生活便利機器は「情報が多ければ多い方が良い」。それをどう取り込み、自分に必要な情報として分析していくかは、個々に委ねられるからだ。
そのため、開発側・メーカー側は如何に正確な情報を、素早く、確実に、大量に送り込めるかを市場競争の主軸に据えている。
私も生活基盤上、車を運転する機会が結構あるが、その際、健常者である夫が乗った後の車で最初にやる事は「カーナビの情報を最小限に抑える」事だ。
不要な情報は全て画面上から消す。音楽や天気、スポット情報、何を示しているのかわからないメーター一覧、ポップアップの表示。とにかく片っ端から消す。
そうして、あくまで車の行き先だけを案内するように設定してから、やっと安心して自宅から出る事ができるのだ。
運転には細心の注意を払うため、集中力が続くのはせいぜい60分前後。それ以上運転するなら必ず休憩を入れ、脳を休ませる時間を設ける。集中力が切れれば、あっという間に視覚情報が全て記憶・記録され、運転と安全に必要な事項が読み取れなくなる。致命的だ。
もう一つ、私には「方向」という感覚が存在しない。
ゲームでは暗黙の了解で右が東、左が西、上が北で下が南だ。ゲームの中だけでは、私も「地図が読める」人間になれる。
だが、三次元の現実ではどうだ?世界は回らないかもしれないが、自分がくるくる回りながら歩く。30分も歩けば、自分がどこにいるかなんて絶対把握できない。できたら動作IQはきっともっと高いと思う。
時々駅構内にある近辺地図を見るが、ぶっちゃけそれを見て一発で目的地に行けた事は一度もない。逆方向に歩いていたり、全く見当違いの道を歩いていたりして、待っている人に迷惑をかけた事はもう両手両足の指を全部足しても足りない。
今では一番頼りがいのあるナビゲーターは夫に次いでGoogle先生となっている。電波が無ければ、私は東京都心から自宅に帰ってくる事はできないだろう。
だが、大抵の人はこれを「単なる方向音痴でしょ?(または機械音痴でしょ)」と一笑に付す。単なる方向音痴がどういったものかはイマイチ理解できないが、多分人に聞けば道は何となくわかるのだろう。交番があればベストで、そんなにわからないならタクシー使えば?と思うようだ。
全部やってみた。結果として、交番に駆け込んでもわからなかったし、タクシーは困った時にそうほいほい近くを通っていない事がわかった。呼ぶ電話をするには居場所もわからない現在の場所を上手く伝えなければならない。伝えたところで、到着するまでは大体最短でも15分ぐらいはかかるだろう。ぶっちぎりで待ち合わせ時間には間に合わない。
ここに、健常者と【目に見えない】障害者との超えられない壁がある。
「人は自分が経験する事しか理解できない」
何かの本で読んだが言い得て妙だ。健常者の感覚は、私達には理解できないし、逆もしかり。
少なくとも、私達のような人間には、ちょっと難ある社会だというのは、間違いないような気がする。
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