ガラス越しの先に立つあなたへ
まこと
序章:生まれる前から、既に世界は歪んで見えていた
「ママのところへ行け!」
一体何十回、何百回繰り返されただろう。祖母の金切り声は、35才を過ぎた今でも色濃く耳に残っている。
私は物心ついた時から、父方の祖父母の元で暮らしていた。それが異常だ、とは何となくわかっていても、当時3才の私には為す術など無い。
何故父母の元ではなく、祖父母の元なのか。何故私は他の子供と同じように「普通」を与えられる事が無かったのか。
元凶である祖父母がとうにこの世にはいないため、真相は永遠に闇の中となるが、少なくとも幼児には過酷な環境であった事は確実だ。
とにかく、祖母は母を憎んでいた。自分の息子(父)を【寝取った】母を。
自分の息子を歪んだ愛情で支配していた祖母にとっては、諸悪の根源である私は相当に憎かったはずだ。
父母は私を妊娠したからこそ、結婚に踏み切らざるを得なかった。30年前以上の日本では「授かり婚」なんぞという生易しい言葉は存在しない。
だからこそ、自分の手元に置いて「情報操作」をしたかったのかもしれない。復讐と嫉妬に溺れた狂気の一種だ。
だが、私は当時から理解していた。母は迎えに来ないのではない。
「来られない」のだと。
そして、この小さな2DKである祖父母の家から追い出される事は、今までの全てのパワーバランスを狂わせ、崩壊させる事も。
だから、本当は祖母の元から離れたくても、頑なに離れる事を拒絶した。時に泣きじゃくり、時にテーブルの脚にしがみついて外に追い出そうとする祖母に抵抗した。
心に無い事も叫んだ。
「私はばっちゃ(青森では祖母の事をこう呼ぶ)の子だからママのところには行かない!」
本当は行きたかった。祖父母の歪んだ愛ではなく、父母の優しい愛が欲しかった。
この時点で、既に私の世界は歪んでいたのだ。
そして、今でもこの歪みは変わっていない。むしろ、悪化したような気がする。
ここからおおよそ25年後、私に衝撃の診断が下る。
診断名:注意欠如多動性障害・自閉スペクトラム障害
IQ:言語性IQ120・動作性IQ65。全検査IQ81。
そう、私は生まれた時から既に世界が歪んでいたと思っていた。
違う。生まれる「前」から、既に世界が歪んでしか「見えない」のだ。
これから紡ぐのは、私の自分史。
私が生きてきた証。
これからの私に、何があってもいいように。
墓碑として、遺書として、祈りとして、独白として。
神様がいるのなら、願いを叶えなくていい、1つだけ聞かせて欲しい。
どうして私を、今の時代に産み落としたのですか?
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