第12話 鋼鉄


つるぎを取り上げられた」

 アニーは、両守護騎士団の団長が口を開くのも差し置いて口火を切っていた。

 だからと言って、護れなかった言い訳になどならないことは明白である。

「何じゃと?」

 捲瑠の美しくも鋭き眼に、より一層の険しさが宿ったのも無視して、アニーは捲し立てた。

「僕たちだけじゃない。式場に入る他の騎士たちも警官とかも付き人も、とにかく警護に当たった者は全員。武器たる武器は身につけちゃならないって――」

 アニーは一息を入れて続けた。

「しかも、僕たち従者やレイエス様はもとより、碎王たち守護騎士団の長すら、誰一人として傍にも付けず丸腰で、離れた壁際での待機だったんだよ?」


 姿勢を前のめりにした捲瑠は、レイエスを睨み上げた。

「かの件、誠か? 剣は騎士の魂じゃて。眠る時とて肌身離さずの魂を、いったいどこぞへ売りさばきおった?」

 レイエスは幾分の不快感を滲ませながら告げた。

「その通りでございます。当家並びにアーベルハイト家側も、式の開始直前まで剣所持を交渉致しましたが。式を執り行った教団側の強い要望にて、法庁も式の最中だけならばと、折れたようでございます」

 手元に発表原稿でもあるかのように淡々と述べられた後で、しばしの沈黙が落ちた。


「――されど盾にはなれようが?」

 その通りであったはずだ。向けられた驚異を圧倒する武器がなくとも、あるじを護るべく壁にはなれたはずだのに。

「そのための、さんらではないのか?」

 悔恨が吉報を待つ静寂の廻廊に沈んだ。


「……僕が、一番近くに」

 存在感と威圧感も半端ないレイエスと捲瑠の視線が、アニーを射るように見つめた。

 俊足の守護騎士という名の肩書きにて、鳴り物入りでの入団だったものも。いざなる時に、何の力も発揮できなかったのだから――の弁解など、鼻であしらわれる。

「屁を曲げて拗ねるのなら後にせい、辛気臭い。傍におったと言うのなら。その場に居合わせた騎士ら全員がなに届かず、遅れを取ったであろうて。個、一人だけの問題で済むものではないぞ!」


 ――そうだ。こうして冷酷に叱咤してくれたほうが、ずっといいのにとアニーは思った。

 それで気が済むだとか、気が晴れる訳ではなく。もっと激しく叱責され続け。代われるものなら今すぐにでも、傷ついた主と代わりたいと思うのは――アニーに限ったことではない。


 深く思慮の息を吐いた捲瑠は、自身の気持ちに整理をつける踏ん切りでもあったのか。壁から体を離した額に手をやってから改まった。

「――教団、か。いかにも姑息な根回しよ」

 早くも法院の長たる脳裏には、事の次第を起こした主犯の構想が浮かんでいるかのようである。

「捜査局によれば。襲撃者は単独、個人的な怨恨と言うておるようだが。その教団を裏で操り策謀したは、よもやの――ヴルヴ家ではあるまいな?」


 血染め非道のヴルヴ。

 その名を聞くのも忌々しき存在は、ファージアにとっても天敵ならぬ、目の上のこぶ。女皇、鋼鉄の魔女が率いる鉄鋼騎団は、いつだってファージアを敵視し、聖なるエルファージアを侮辱し続けている敵対家団であった。


「――いや。かのような真似を画策するは、間違いなくそうであろうて……」

 捲瑠は独り言を呟き、一人で納得していた。

 ――ならば余計に止められぬ。

 憂いた目を伏した捲瑠は、歴史的激突となる事変を予感していた。

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