場面3

「疑うのことは無理もありません。話すと他のことも混ざって、話が長くなりますが、かまいませんか?」

「頼む」

「では、すこし歩きながら説明致します。」

そう言われ、カレはさっきまで感覚の無かった手や足が動くことに気がついた。どうやら自分はMRIのような装置の上にいたらしい。

 彼は起き上がり、そして久しぶりに、本当に久しぶりに立ち上がった。そしてそれは目に飛び込んできた。同じような装置、それも自分が入っていたものと同じような装置がズラっと地平線まで並べられている。そしてここは大きな屋外施設だったということに。

 なんだここは…、果てがないようだ…。後ろを振り返っても、左右両方を見ても、すべて同じように地平線へ装置が広がっている。

「こんな景色は初めて見るかと思います。そしてここが何なのか、どうやら言わなくてもわかるようですね。」

 改めて肩を並べてみたその女はやはり美しく、天使と呼ぶにふさわしかった。どうやらここには、死ぬ前の、普通の世界で生きている生物全てがいるのだろう。ついさっきまで、俺が入っていたのだから。

「全部か。」

ついこんな言葉が出る。

「全部です。いまここ、私たちは「中央」と呼んでいます。この中央で疑似体験ができるということです。ある人は人間、ある人は動物や虫、ある人は植物や穀物、微生物にだってなりたがります。もっとも、人間になるのが一番難しいので、大半は諦めています。」

 話は壮大だった。恐らく、すべて説明されたら終わりがないのであろう。

「では、歩きましょう」

そう女が言ったときにまた気がついた。いつの間にかあの中央から別の場所、エレベーターのような狭い空間の中に移動していた。透明ガラスで出来たエレベーターだったため、外をよく見ることができた。とにかく、広大な景色が広がっていた。その中に、山や海のようなものもいくつかある。どうやら随分と高いところへ来た。

「さて、何から話しましょうか」

 その景色を隣で見ていた女が、こちらを振り向き言った。自分も振り向いた。

「記憶がないせいか、自分の本当の名前がわからない。

「みなさん初め、その質問をします。死ぬ前のお名前は何でしたか?」

カレは自分の名前は告げた。女はシンプルにイニシャルをとって、「エヌにしておきましょう」と言った。

「他に聞きたいことはありますか?」

「この世界について説明してくれ」

エレベーターが下がり始めた。

「ここは全てです。というしか形容ができません。ある日突然、私を含めこの世界はこうなっていました。だから、全てなのです。あなたのいた地球もそうですし、ここで「石」と呼ばれるこれ

を真空の中へ放り込み、さらに世界の居場所を増やすことで、そこで暮らしたり、ここで暮らしたりできます。もちろん、石の中で死ぬと先ほどあなたがいた中央から出てくる仕組みです。そして私たちが適切な処置を致します。」

一度区切って、また続けた。

「もちろん、あなたがいた装置は出るときはそれまでの記憶のままです。地球にい時の記憶のことです。」

「なるほど、目が覚めたときにから、ここがどこだかわからないのは、そのせいか。」

「はい。そして私たちは目が覚めたあなた達のお手伝いをする者です。」

 こんな美しい女性がしばらく付き添いをすることに、エヌは驚いた。

「そうだな、地球には場所によって様々な文明や種がある。顔の作りや信じているものも違うんだ。君はその中でも特にある人種に近い。そうだな……」エヌは名前を決めた。

「……いい名前ですね。気に入りました。」

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