1-9 ミア・クイック2-モノローグ-(LU3004年149の日)

――――巻き込んではいけないと思った。

ただ、そう思った。

黒い瞳がわたしを強い眼差しで見つめる。

その瞳から強い意志を感じた。

それでいて、わたしを哀れんでいるようなそんな目だ。

たぶん、この人は優しい人なんだと……直感的にそう思う。

この人の言っている事はきっと嘘偽りの無い話だと、そう思う。

だからこそ、巻き込んではいけない。

そう思う。

わたしはあの施設で、そういった良い人を彼らが実験と称してわたしの目の前で殺し続けたのを覚えている。

それだけじゃない、わたしを拾ってくれたあの老夫婦も、両親も全て不幸な目にあっている。

もうそんなものを見るのはたくさんだ。

わたしに関わった良い人はすべからく不幸になる。

例外はなかった……わたしによくしてくれた人は絶対にだ。

だからこそ、拒絶しなければならない。

わたしという不幸をまき散らす害虫に、関わらせてはならない。

だから、拒絶しよう。

わたしを救う価値などないのだと言おう。

疫病神な私は自殺する勇気は無いけれど、それならば、せめてそれだけの事はしなければならない。

アークライと名乗った男の人は白い髪を困ったようにかいて、


「でも、さ、まぁ、俺が色々信用出来ないってのは仕方ない。確かになぁ……いきなり出てきた変な野郎なんか信用出来る訳が無いさ。でもさ、ここに居続けたら君はどっちにしろ不幸になる。ならば、俺に賭けてみるのも悪くないんじゃないか?絶対に終わっている方とほんの少しでも望みがある方があるのならば、後者を掴んでみたっていい筈だ。」


精一杯傷つけるように言葉を吐き出しても、それでもわたしをどうにかしようとこの人は語りかけてくる。

仕事として請け負ってきているというのもあるのだろうけれど、そこには彼自身がわたしを本当に心配しているような感情も込められているような気がした。

心が揺れる。

この人の手を取って、わたしを連れて逃げてと言ってみてはどうだろうか?

もし、この先の見えない場所から抜け出す事が出来るのならば……どれほど良いだろうか?

でも、わたしはそれ以上に巻き込みたくない。

本当ならば死んでしまった方がいいのではないかと思う。

けれど、その力がわたしには無い。

駄々っ子みたいに嫌だって言うしか無い。

でもそれじゃ、この人は納得はしてくれないだろう。

だから、考えないと……。

精一杯、彼を納得させるような理由を考えないと……そうしないと、きっと彼は去ってはくれない。



「アークライさん、さっき、わたし言ったじゃないですか、別にあなたの力を借りなくても逃げることは出来るって……。」


わたしは決意を胸に言葉を紡ぐ。

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