神殺しの闇に堕ちし英雄とケダマ

前書き◆挿絵メインの話です。なくとも内容に影響しませんが気になる方は小説家になろう版の該当話からご覧ください。https://ncode.syosetu.com/n0858cu/

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 シュールなフリーゲームがネットの片隅で密やかに話題になっているという。

 主人公の名前がタロウなのだと、彼女からハートマーク付きのメッセージが届いていた。

 彼女曰く『モンスターが可愛くて倒すのためらっちゃうの!』、らしい。

 それを読んだ太郎は、でれでれと鼻の下を伸ばしながらページをチェックする。


 レトロ風を目指したのだろうか、全体的にセピアカラーで手書き風の画面が表示された。

 言われたようにプレイヤーのデフォルトネームが『タロウ』となっている。


 シンプルなRPGらしくコンパクトなマップ画面。それを見て、引っかかりを覚えて眉を顰める。

 しかし碌な説明もなく森フィールドへ移動させられる。チュートリアルだろう。

 そして現れた敵を見て真顔になった。


「かわ、いい……?」


 そこには毛皮らしい、もとい汚らわしい塊が浮かび上がっていたのだ。


 ☆☆☆


『ケダマが現れた!』


『ケダマは威嚇し身を震わせる』

『タロウは嫌な気持ちになる』

『敏捷値が1低下した』


『タロウの攻撃』

『しかし空振り!』


『ケダマの反撃』

『ケダマは飛びかかってきた!』


『タロウの顔にもこっとした感触』

『タロウに5の精神ダメージ』

『タロウは混乱してしまった!』


『タロウの攻撃!』

『おっとそれは背高草だ』

『1マグを入手した!』



「んだよ、これはあぁ!」


 なななんで俺の落書きそっくりなんだよ!

 しかもちょっとブラッシュアップしてやがるのが余計に腹立つ!


「このっ消えろ!」


 無論ケダマはきっちり殲滅した。


 あれを知ってるのは、この世には・・・・・二人しかいない。


 その晩は早めに就寝。

 布団を握りしめ歯軋りしながら心の底からの怨念を邪神通信に乗せる。




 やや暗めの青い渦が周囲から晴れると、鮮やかな青い世界が広がり、遠めに目標の姿を捉えた。

 今こそ超新生コントローラーの性能を試す時!


 宙で掴む仕草をした手に、自ら道具袋を擦り抜けたコントローラーが収まる。

 両手で掴むと邪神へ突進した。


「お前だな、お前の仕業だな邪神ーッ! ヴリトラソード!」

「なんだい、いきなりなにを!?」


 駆けながら青白い刀身が俺の呼びかけに応えて現れる。

 長さは初めから高出力モード。この空間で使用するせいか、効果が高まっているようだ。

 地面を蹴り袈裟懸けに斬りつける。


 さしもの邪神。

 冷静に前に出された片腕のみで受け止め、青い火花が飛び散った。

 飛びかかった勢いで、突き飛ばすようにして距離を取り対峙し直す。


 邪神は、ぽんと手を打った。


「なるほど! それの検証をするには対象が必要だが、ここには私しかいない。ならば私で試せばいいということだな」


 くそっ、思いっきり切りかかったところで大丈夫だろうとは思ったよ?

 以前、スケイルに当てた時もそうだったし。


 だけど動揺すら見られないじゃねぇか。

 初めの狼狽の声は、俺の行動の意図が掴めなかったためらしい。

 理解すると、邪神は不敵な笑い声をあげる。


「ククク……いいだろう、試すといい。その邪神役とやらを務めようじゃないか。長いこと戦いから離れていたから、満足に動けるかは分からないけどね。力を見せてくれ英雄よ」


 そう言って両腕を開いて挑発してくる。

 あまつさえ邪神の足元に青い光が渦巻いて、ふわりと体を持ち上げると全身から青いオーラを揺らめかせるエフェクト付きだ。

 このおっさん、ノリノリである。


 余裕綽々じゃんか。舐めやがって!

 今度は水平に切りかかり、邪神が再び片手で受けようとしたところで叫ぶ。


「しなれ!」


 ぐぐっと腕を回りこむように曲がった刀身に邪神は驚きを見せ、その隙に巻き取った!


「かなり融通が利くようだ。邪竜を倒したときよりも、扱いやすくなってるんじゃないか?」

「言われてみれば反応は早いかな」


 聖魔素の親玉のこいつが刃に触れたところでダメージはないはずだが、遮ることはできるのか。火花も散るってどういうことだ。

 ああ、人型を維持するのに周囲の聖魔素と隔てる必要があるからか?

 その辺の加工が影響してるなら……すぐに方針変更。


「伸びろ」


 刀身は瞬く間に伸びて、するすると蛇のように邪神の体に巻き付き、俺は腕を引く。

 ぎりぎりと全身を締め上げる手応えは確かだ。

 なのに、邪神は何かを考えるように首をひねる。


「うーん、下の世界と交わることのない体とはいえ、この空間内における実体といっていい出来だと思っていたのだが……もう少し、改良を考えた方が良さそうだ」


 あー……幾ら締め上げたところで内臓が詰まってるわけではないもんな。


「しかし邪神か……いい案だ、次の企画に利用させてもらおう」

「やっぱりあのケダマゲームはお前が作ったんだな!? 出ろ――刀身の檻!」

「ああ、あれを遊んでくれたのか。情報が早いね。邪神が喚ぶ――聖魔の結界」


 あんな絵面に偶然なるはずがない。ここで見たものを日本に持ち込めるのはお前だけだ。よりによってあんなデザインにする必要あったか!?

 どうせならかっこよくしろよ! せめて現実の二割増しくらいにしてくれたって良かっただろ!


「子供心に訴える良い出来だろう? ああいったものを気軽に世に提示できるなんて、良い時代だね。これで終わりだ――青昏い焔よ、我が喚び声に応えよ」

「させるかぁ!」


 しばらくバチバチと火花を撒き散らす攻防だか世間話だかは続いた。




「息子はいないから、こうして遊ぶのは新鮮だったよ」


 ぴゃーまったく通じないぃ!


「俺は疲れた」

「それも新発見だ。この体でも疲労はあるのだな」


 精神的なものです。


「英雄と邪神ごっこは、ここまでに。次回の楽しみにしておこう」


 次回、なるかタロウの神殺し!? 無理そう……。

 それどころかタロウ死す、だな。


「では体がほぐれたところで、赤色砂漠の探索を再開だ」

「へぃへぃ」


 ぐったりした気分で邪神に並ぶと、さぁっと霧が晴れるように青い空間が消えて、眼前に赤い砂丘が広がった。

 まるで魔技石を砕いた欠片で作られたような砂漠は、起伏の激しい丘がどこまでも連なって見える。何もないどころか壮絶な光景だ。


 マイセロから、そこそこ離れたと思う。すでに邪神が聖魔素を探して旅した範囲の外側に来ているらしい。


 多くの犠牲を出しながらも、どうして人々があの地に留まり続けたのか。

 現在の種族差を生み出した切っ掛けである、始祖人族が住みよい場所を求めて放浪した理由。

 それが目の前にあるような気がした。


 俺たちがこのまま探索を続けて、この世界のことを知ったからと、どうこうできるわけではない。

 でも、別の未来を予測するだけの何かを発見できる可能性はある。


 たとえば過去に四方へ散った始祖人族の内、どこかで生き延び別の進化を遂げて発展していたりとかな。

 知ることしかできないからこそ、魂ごと関わってしまったこの世界を知り続けたいのかもしれない。


 それに……発見があれば、変化を促せる。

 直に世界へ触れることは叶わなくとも、せめて……青い空間になら、別の要素が加わる可能性はありうると考えるんだ。

 あの寂しい空間に、本来居てもおかしくない聖魔素の化身が姿を形作る日も来るんじゃないかって――。


 視界の端で揺れるアホ羽を思い出す。

 またいつか、懐かしい相棒に出会えるかもしれない。

 そんなささやかな希望を思い描いたりしつつ歩き出す。


 邪竜と対峙したとき、自ら冒険者であることを止めた。

 なのに、去ってから再び冒険者のようなことをやるなんて思わなかったな。


 こうして俺のちょっと不思議な、本当の意味での冒険的日常は続いていくんだ。

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