第4話 春風の恋

 春の匂いがすると云って 君が笑った。

 細く白い 花待ち月。

 淡い風に 白花弁がふわりと舞う。

 夜の空に溶ける 君の聲。

 優しい聲。    

 急に泣きたくなる。

 黒く長い髪が、振り向く度に揺れている。


 君が居る。

 僕は それだけでいいんだ。

 心に紡ぐ 恋文。 

 手渡す事のない 淡い風。

 音にできない囁きが 夜の街に呑まれていく。

  

 遠い街の灯。 

 地上に落ちた 星の光。

 見上げる樹々の 黒い枝。

 幾重も成る 丸いつぼみ


 満月に咲く花。


 薄紅の 小さな花。

 君の頬のように。


 夜が明けなければいい。

 僕は そう願う。


 白くふわりとした 君の手のひら。

 手を伸ばせば 触れられる程近いのに。


 この花は いつ咲くのだろう。

 満月には 零れ落ちそうな程に咲き乱れる。

 まるで 夢を見ているような光景。

 幻想そのもの。

 

 満開になったら この真下に寝転がって

 丸い月を見たいと 君が云う。

 僕は 笑って頷いた。

 

 今 この時が永遠ならばいい。

 僕はそう願う。

 

 心に紡ぐ 恋文。

 この花が散る頃には もう行ってしまう君に……。


                       ❬End❭

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