第9話くろうは買ってでも

本日の一品:クロウシノシタのこぶ締め


1、クロウシノシタは表面のうろこととかをたわしでこすり落としおろして柵取りする。

2、柵取りしたものを軽く塩を振り酒で湿らせた昆布に挟み込む。

3、半日くらい寝かせたら、薄く切って饗ずる。


注、この時出た骨などは軽く炙って出汁をとっても美味、皮も揚げて食べると歯ごたえがなんともいえない。



本文


 クロウシノシタは質がよければ買ってでも食べたい魚である。 


 クロウシノシタを大量入荷したときの事。そのとき私はチェーン店のスーパーでいたのだが、若い衆も責任者も食べ方を知らないと頭を抱えているのである。実際には舌平目の類なのだから皮を剥いて下拵えしてバター焼にでもすればよいと言ったのだが下拵え自体がわからないと・・・・・・・・・・・・


 仕方ないのでとりあえず丸のままで売っていて客の求めに応じて処理する形にして貰って、一つ処理の仕方から調理の仕方まで教えるのである。

 実はこの魚、バター焼用の処理なんていうのは簡単で見た目白いほう(以後裏側と称する)を包丁等で鱗を落とし、見た目黒いほう(以後表側とする)に向かって皮一枚残すように包丁で頭を切る。そして頭を持ってから尾に向かって引くと簡単に表の皮が剥けるのである。後は頭から出て内臓を良く洗って水気を切って終わり。

 煮るのだったら、鱗を落とすだけでよいのでお手軽なのだが、とっつきにくいからか見た事もないからなのか・・・・・・・・・・・誰もやろうとしない。若いのが一つ二つ練習がてらに行うだけで・・・・・・・・・下処理が終わったら並べておくと・・・・・・・・・・・

 若い層の客を中心に普通に売れていくのである。


 因みに一つ貰って、ムニエルの元をまぶしてから焼いて食べさせたら・・・・・・・・・


 「これは旨いな。」「なるほどこれがあの舌平目のムニエルってもんか・・・・・・・・」

 だのと普通に食いつくのである。少しはいろいろ食べて勉強しておけよ・・・・・・・・・・・


 その当時は下っ端のバイトであったからそれ位しかいえないのであった。そのにおいをかぎつけたのか食品フロアの責任者だの店長だのがもっと焼けとせっついたりしたのはいい思い出。パートのおばちゃんが食べたら「夕飯にいいわね」と買っていってくれたのはせめてもの救いであろう。


 次の日に客から

 「お宅の店では客に見せびらかすように魚を食べるのですか?」

 とクレームがきたのはご愛嬌。その客の言い分としては

 「美味しそうな匂いをさせて皆で旨そうに食べるから思わず衝動買いしてしまったじゃないの!」

 だそうだ。 


 食べて味を知るのも勉強のうちです。因みに最後に

 「舌平目は本当に美味しかったのが・・・・・・・・・・・悔しい・・・・・・・」

 と〆られていました。褒めているのかけなしているのか判らないクレームであったが、その客は時折思い出したかのように舌平目はないのかどうかと聞いて来るので笑い話としておこう。

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