恋愛とアルゴリズム
西木 草成
データ1 出会い
目覚まし時計は午前6:30を示している。ここ十数年変わることのない起床時間だ。あたりにきちんと整理された参考資料や論文などを眺め、あまりにも無機質すぎる部屋に少々飽きてきた。
起きた時にすることはまずベッドメイキングから始まる、終わる頃には午前7:00になっており、冷蔵庫にしまってある、昨日の晩作っておいたカレーを温めなおして、その間に今日着ていく服に着替えておく。
朝食終了、午前7:50いつもと変わらないラジオ放送局のニュースを片耳に今日の講義内容の教科書が揃っているかどうかを確認し、部屋の隅へと向かう。
そこには小さな位牌と簡単な供物が置いてあり、性格上霊魂の存在などは信じないが、それでも日々の習慣になってしまっているので、位牌の前に手を合わせ線香をあげる。
「行ってくる、先生」
家を出るとこの前まで家の庭に植えていた木が花を散らして緑に変わっているのに気付くものの、こいつのせいで毎回家の日当たりが悪いのでそろそろ切ってしまおうかと考えている。
家の外に出ると夏が近い湿気の多さが辺りを包んでいて、周りの歩く人の顔もどこか鬱陶しそう顔をしている。
家から大学までの道のりは歩いて15分ほど、古い家が立ち並ぶ細い道を抜けると大学まで続く桜の並木道が長く続いている。
基本歩く時は耳にイヤホンを刺して、自分の好きなジャズブルースの名盤を聞きながら歩くのが好きで、以前自転車通学だったのをやめたのもそれが理由だった。
いつもと変わらない日常。
何一つ不満のない日常。
すでに全てが完璧である日常。
だが、知っているだろうか。
完全なものほど壊れるのは早いということを。
「そ・・・てーっ!」
「・・・?」
突如ガーシュウィンのラプソディインブルーのピアノに混ざってきた雑音、何かの気のせいか?
「ちょ・・・てーっ!」
「・・・!」
気のせいじゃない、これは。
後ろを振り向いた時にはもう遅かった、手遅れってやつだ。
迫る二輪の乗り物、ハンドルのブレーキはすでにその意味をなしてはいない、乗っている女性の驚愕の表情、年齢は同じくらいか。
人というのは危険を感じた時どうして風景がスローモーションに見えるのか、確かそんな論文見たことがあると思った時。
トランペットが響くのと同時に、これから起こる喜劇と衝突した。
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