それでも、空は青かった。
風鈴水影
それでも、空は。
ちょっとした病気で入院したときに病院で会った男の子との話。
その子は、か弱そうな、男の子だった。彼は、少し重い病気だったようだ。そんな彼と、私は、出会ってからすぐに、好きなアニメの話で仲良くなって、よく話すようになった。病院の屋上で話したり、病室で話したり。私たちにとって話すのが何よりの楽しみだった。いろんな話をするうちに、桜が散って、木が青く色づき、やがて色とりどりの葉がついて、葉は散り、雪が降った。
そしてまた、桜が咲いた。病院の窓からも綺麗な桜が見えていた。
「桜、綺麗だね。」
そんなふうに言う彼を、外に連れ出して一緒に桜を眺めたかったから、病院の先生にお願いして、少しの間だけ外に出た。ベンチに座って、桜を見上げながら、お弁当を食べた。
「桜を見上げるなんて、初めてだなぁ。」
彼は、とても嬉しそうで、私は、少し悲しくなった。もっといろんなところに連れて行って、たくさん綺麗なものを見せてあげたいと思ったから。でもそれは少し難しいようだ。
また、桜が散って、夏が来た。とても暑い、初夏の日、彼は、ふと、こんなことをつぶやいた。
「今日、空が青くて、とても綺麗だよ。」
そうだね、空が綺麗だ。その日の空は、とても青く、美しい空だった。そんな、青い空は、やがてオレンジ色に色づいて、暗い夜になった。
「今日は、綺麗なものをたくさん見れた気がして、嬉しかった。僕はこの世界に生まれて良かった。」
そう言う彼は、とてもきれいな顔をしていて、私はすごく嬉しくなった。
その後、少しして、彼は眠りについた。私も眠った。
その日の夜、彼と一緒に海に行く夢を見た。
夜が明け、私は目覚めた。私の隣のベッドを見ると、誰も居なくなっていた。
すぐに、看護士さんに聞くと、昨日の夜にその人は、亡くなったと言った。私は泣いた。
私の隣のベッドにいたのは、彼だったから。
夢の中の彼は、笑っていて、そんなこと想像させないような顔をしていたから、楽しそうだったから、信じられなかった。彼を海に連れて行ってあげたかった。けどそれは、もう、かなわないことだった。
涙を流して、私は空を見上げた。
その日の空も、青かった。昨日のように綺麗だった。
Fin.
それでも、空は青かった。 風鈴水影 @1999altar
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます