見るなよ!殺人生放送はぜったい見るなよ!!

ちびまるフォイ

そして、呪いの終焉へ・・・

生放送の動画を見ていると、イスにくくりつけられた男と

震える手で嫌そうにしながらもじりじり近づいていく男が映っていた。


『いやだ! 僕は殺したくない!! 誰か助けてくれ!!』


男は生放送の終盤で、動けない男を殺して放送を終了した。

放送終了後に興奮が冷めない俺はカメラを手に取り動画を配信した。


「どうも、生主の"ねぼけまなこ"です。

 いやぁ……さっき噂の殺人生放送を見てしまいました。すごいですね。

 本当に逆らえない力によって操作されているって感じでした」


雑談とタイトルに入れた生放送で感想をのべていく。

きっと視聴者も興味津々だろう。


「でも国はなにやってるんですかね。

 不思議な力で殺人を犯さずにいられないってこと国も認めて

 罪にもならないようにしてるのに

 結局、今回もふつうに配信させちゃったじゃないですか」


対談ぽくしたいので動画のコメントを待つ。


「……あ、ちょっと暗くなっちゃったかな?

 それじゃあ今日の生放送はここまでにしまーす。しーゆー」


据え置きのカメラの電源を切る。

電源のランプが赤いので電池残量も少なかったらしい。


翌日、ニュースを見ていると昨日の殺人生放送が扱われていた。


『えーー。昨日、発生しました痛ましい事件については

 こちらでも配信者の住所を特定したものの

 不思議な力で入れず、止めることができませんでした』


『専門家によると、生放送さえ中断できれば

 一種の催眠状態にある生主を解除することができるとのことで

 国は対応に追われています』


「やっぱりだめだったのか……」


昨日の俺の配信では"なにやってんだ"などとなじったものの

実際には必死に止めようと動いていたらしい。


一応、謝罪動画は配信しておこう。

今のご時世はあげ足とられるようなのは先に誤った方がいい。


カメラの電源を入れて生放送の枠取りをしようとパソコンを開く。


動画配信サイトには1通の新着メッセージが届いていた。



>殺人生放送のおしらせ

>おめでとうございます。次の配信者に選ばれました。



それを見たとたんに意識を失って、

次に目を覚ました時は目の前に友人がくくりつけられていた。


「た、助けてくれぇ! お前何する気だよぉ!」


「な……なんだ……!? 俺が意識失ってる間にいったいなにが……!?」


手には刃物が握られている。

離そうとしても固定されているようにぴくりとも動かない。


パソコンに映る動画サイトに生放送されている。


「それじゃ本当に俺が殺人生放送を……!?」


「たのむ助けてくれぇ! 友達だろ!」


一歩。

また一歩。


見えない手に背中を押されるようにして友人へと近づく。

体も心も必死に拒否しているのに操られているみたいだ。


「だれか!! 近くに住んでる人は止めてくれ!!

 運営!! 早く配信を止めろ!! 俺は殺したくない!!」


とにかく放送さえ中断できればいい。

けれど画面の向こうは無反応。国も動いているのかわからない。


「やめてくれぇ!」

「い……いやだ……」


異様な光景だった。

被害者の友人は必死に命乞いして、

刃物をもった俺も泣きながら嫌そうに近づいていく。


射程距離内に入ると、あらがえない力で刃物を振り上げる。


「だれか!! 放送を止めてくれーー!!!」



叫んだ瞬間、体を操作していた糸が切れたように体の自由がきいた。

すぐに刃物を放り投げる。


「や、やった! でもどうして自由になったんだ……!?」


警察の突入部隊も来てなければ、

動画サイトの生放送も出しっぱなしになっている。

でも動画はもう配信されていなかった。その原因は……。


「カメラの電池が切れてる!!」


前の配信後、電池残量がぎりぎりだったカメラが放送中に尽きた。

それで放送が中断されて俺の催眠が溶けたんだ。


「よかった! すぐに解放してやるからな!」


友人を解放しようと顔を上げると。友人はすでに自由になっていた。


「ちっ……殺人失敗じゃないか」


「お、おい……どうしたんだ?」


「せっかくたくさんの人の記憶に残って自殺できると思ったのに。

 いいところでカメラが電池切れなんてついてないなぁ」


「どういうことだ……? まさかお前がしかけたのか?」


「ボクだけじゃない。自殺願望のあるみんなで運営してるのさ。

 この殺人生放送をね」


「じ、自分が死にたいからって、人に殺させるなんて……ひどいよ!!」


「ククク……ひどい? 逆だよ、ボクは世界の倫理観を正そうとしてるのさ」


友人はすでに先ほどまでおびえる演技をしていた人間と同一だとは思えない。



「人が殺し殺される動画を見て楽しんでる奴が正常だと思うかい?

 殺人生放送はいまや大人気の配信になっている。

 それだけこの国には趣味の悪い人間がいるってことさ」


「お前は……なにもわかってない……」


「わかってない? わかってないのは君らの方さ。

 自殺したい人は殺人生放送でたくさんの視聴者に看取られて死ねる。

 生主も人気がとれるしWIN-WINだろう?」


友人はなおも語り続ける。


「それにね、人の死を楽しむクソ人間どもには鉄槌を与えたいのさ。

 だから、毎回次の殺人放送の配信者は前の動画の視聴者から選ぶ」


俺は前の殺人放送を見ていた。

だから次の殺人放送の配信権を与えられたんだ。


「こうして視聴者を殺人の容疑者にして数を減らしていく。

 この国の倫理感はあるべきただしいものへ戻せる!!」


「お前がなにを考えてるかよくわかったよ……。

 でもそんな計画は絶対にうまくいかない」


「なぜそう言い切れる! これまでもうまくいっていた!!

 今回だって中断されたが配信はできていた!!

 次の視聴者も選べるはずだ!!」


「だからお前はなにもわかってないんだ。俺を選んだというミスを」


俺はそっとパソコンの画面を見せた。




「底辺ユーチューバ―をなめるな!!

 視聴者ゼロの配信なんて俺にとっては当たり前なんだよ!!!」



来場者:0


かくして、殺人生放送の最終回は誰にも見られずに終わった。

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