【第十一話】老人と魔導

面会だ?この世界に面会しにくる人なんていないし、誰だろうか。部屋に入ってきた兵士に手枷をされる。


兵士と入れ違いに二人の人物が入ってきた。一人はローブを着て白い髭を蓄えた、いかにも「魔法使い」みたいな老人。もう一人もローブを着てるが、こっちは若い男だ。老人の方は、なんだかいかにも「大魔法使い」だとか「賢者」とか呼ばれていそう。そんな老人が部屋に入ってくる。俺、今から何されるんだろう?異世界人なんて他には居ないみたいだし最悪の場合は人体実験とか?

老人は緊張している俺をジロリと見る。そしてスッと片手を上げて一言。


「やっほ。元気?」


・・・一言でイメージめっちゃ崩れた。返せよ俺の緊張。老人は今もニコニコしている。


「はあ、元気ですけど・・」


とりあえず挨拶を返す。なんだか小学校の特に行った病院のおじいちゃん先生を思い出した。やけにフレンドリーな医者って時々いるよな。


「儂がここに来たのは不思議な人間がここにいると人に聞いての。」


そう言いながら老人は「ちょっと失礼」と俺の頭に手のひらを置いた。数秒した後に手をどけて「ほう・・」と少し驚いた顔になる。


「ふむ、本当に器が無いようじゃな。興味深い。」


と呟き、髭を撫でる。いやいや驚かれてもなにがなんやら状況が掴めないんだが?器がない?俺の器が大きいの間違いじゃなくて?


「まず、貴方はどなたですか?」


聞きたいことはいろいろあるけど、とりあえず名前を聞いてみる。


「儂?儂はセオドアという名じゃ。」


名前だけ言われてもわっかんねえよ!セオドアさんなんて聞いたことないわ!

俺がだから誰?みたいな顔をしているとセオドアと名乗る老人の横に立っていた男がしゃべり始める。


「先生はここフォーレの魔導学園の学園長にして《七賢者》の一人にあらせられるお方。本来お前のような一般人とは話す機会さえ巡ってこぬ。感謝に思えよ。」


なにこいつ、腹立つ。顔がいかにも「人を見下してます」っていう顔してる。どんな世界にもこういう嫌な奴っているんだな。

っていうか魔導学園とか七賢者とか知らないワード出てきたな。そこらへん詳しく聞きたい。


「やめんかみっともない。邪魔じゃ、お前はここから出ておれ。」


鬱陶しいといった風にセオドアさんが腹立つ奴を出て行かせる。


「・・・わかりました。」


おとなしく男は出ていった。


「これで邪魔者はいなくなったの。今日儂が来たのはお主が器を持っていないとアルバートに聞いてな。興味が沸いたんで来たんじゃ。」


ああアルバートって、あの隊長のことか。


「ごしゅじん、この爺ちゃん強いぞ!」


ポチがひそひそ声で話してきた。あの森で生活してたポチがそんなこと言うなんてどんだけ強いんだこの爺さん。


「ほう、喋る犬か。珍しいの。」


昼間の隊長のリアクションと同じく「へえ、家でウーパールーパー飼ってるんだ~」みたいなテンションだ。やっぱり時々喋る犬が居るみたいだな、この世界。


そういえば、また新しい言葉がでてきたな。器とか言ってたか?


俺が頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると


「そういえば異世界転移してきたとか言ってたかの。この世界のことは全く知らないのかの?」


「転移してきてからはあの森にずっといましたから。」


「ほう!ずっと森に!なるほどのう。」


なんだかポチが喋った時よりも食いつきがいいな。


「それよりも「うつわ」ってなんですか?」


いい加減、話が始まらない。さっき言っていた、俺には無いという「器」とやらについて聞いてみる。


「そうじゃな、『器』を説明する前にまずは『魔導』について話しておこうかの。『魔導』とはこの世界のすべての生き物が持っている『魔力』、魔力の素となる『魔素』そしてそれを使った魔法の総称じゃ。そして『器』はその魔力を貯める器官であり、生物は魔力を生命活動に用いる。つまり器は生きるためになくてはならない器官なんじゃ。それがお主にはないわけじゃな。」


「器」とか気になるけどそれよりも、やっぱりこの世界に魔法とかあるのか!


「その、器?を俺が持ってないなんて、一体どうやって分かったですか?」


「生物は常に体の中に魔力を持っておる。まずあり得ないが魔力が、測れぬ位少ない魔力量でも器がある以上魔力を与えれば器に魔力は貯まる。が、先ほどお主に儂の魔力を移そうとしたがまったく反応がない。器がどんなに小さくとも少しは魔力が移動するんじゃ。」


「魔力で器がいっぱい、とかはではないんですか?」


「先程にも言ったように生命活動にも魔力は使われておる。魔力が入らないほど一杯、なんてことはまずありえないんじゃ。」


「もし器を持っていない人間がいたら本来どうなるんですか?」


「まず器を持っていない生物が考えれれんが、生物は生命活動に魔力を用いる。もし魔力が尽きれば間違いなく死ぬだろう。例えばもし今、儂の「器」が抜き取られれば魔力が一瞬で無くなり、まず生きることができない。だからその器がないというお主に興味があっての。」


なるほど、もといた世界には魔力なんてもちろん無かったし俺からしたらその「器」とやらを持っていないだけで驚かれるのは分からなかったけど、この世界の人達は「器が無い=生きていない」というわけか。

魔力がたまらい体・・っていうことはもしかして、


「もしかして・・その器ってのがないと魔法も使えなかったりします?」


と、恐る恐る聞いてみる。まさか魔法の世界に来たのに肝心の魔法が使えないなんてことないよな?


「まず無理じゃろうな。魔力が無いんじゃし。」


ばっさり言い切られた。嘘だろ・・・


「う、器って人工的に作れたりしませんかね?」


「さあ?、皆生まれた時から持ってるものじゃしのう。そんなこと研究しとる奴なぞ居ないじゃろうな。」


そ、そんな・・・魔法が使える希望さえ無しか・・・

・・そうだ、魔道具だ。よくゲームとかでは魔道具が出てくるけどそれはどうなんだろう?


「この世界には『魔道具』とかは無いんですか?魔力がなくても使えるような。」


「確かにこの世界『魔道具』と呼ばれるものはあるが、魔道具なんてものは魔力を入れることで初めて動く機械のことじゃ。魔力のないお主には使えまい。」


そっか・・本当に魔法の魔の字も体感できないのか俺は・・


「それよりなぜ魔道具という単語は知っておったんじゃ?」


「元居た世界ではゲームやアニメと呼ばれる娯楽があって、その舞台がこの世界みたいに魔法の世界だったりするんです。架空の世界ですけど。」


「ふむ、良く分からんの。要はお主のもと居た世界にもこの世界に似た世界の知識があったりするという事か?」


「まあそんなところです。」


「なるほどのう、それにしても異世界の知識か・・・お前さんにはますます興味が湧いたの。」


その時、ドアが開き、さっき出て行ったあの男が入ってきた。


「先生そろそろお時間です。そろそろ学園へ戻りましょう。」


セオドア爺さんに付いてきた男が口を挟む。


「わかった、わかった。まだ聞きたいことはあるんじゃがのう。そうじゃ、お主はここから出たいか?」


うーん、できることならそうしたい。「はい」と答える。


「じゃあ儂が身元引き受け人になってやろう。その代わり体の仕組みを調べたり、元居た世界の事を話してもらったりはしてもらうぞ?よし、決まりじゃな!そうとなったら早速手続きに行ってくるとしよう。」


この爺さん、おもちゃを買ってもらった子供のようなテンションで話してるな。

っていうかちょっと、俺は別に出たいと言っただけで、元居た世界の話はいいとして観察対象になるとは一言も言ってないんだけど!?

セルドア爺さんはワハハと笑いながら部屋から出ていった。

なんか、、嵐のような人だったな。っていうか体の仕組みを調べるって何されるんだろう。とんでもないことされなきゃいいんだけど。

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