【第一話】異世界転移

「あー、やっと終わった。」


  その声の主、三谷夕士 がバイト先のスーパーを出て時計を見ると、もう十一時半になろうとしていた。夏だから当然かもしれないが、夜なのに蒸し暑い。


  現在は夏休みの真っただ中、かといって夕士はどこかへ旅行に行くでもなくアルバイトと、休みの日は友達の家に行くか自室で買ってきた漫画を見たり、ゲームをしたりという生活を送っていた。


「もう帰って寝よう。」


  こんなにも蒸し暑いとコンビニでアイスでも、と考えたが自転車を漕いで家へ急ぐ。

  家に着き、二階にある自分の部屋のベッドに倒れこむ。枕元の時計を見るとあと少しで日付が変わる、そんなところまで針は進んでいた。


「明日も九時からバイトだ、でも寝る前に飯、食わないと。」


  しかし、そうつぶやき少し目を閉じる。


  ああ、夕飯食わないと。でも疲れたし少し休憩だ。あー、明日も朝からバイトか、行きたくないな。いっそのことバイトを辞めてどっか旅にでも出るか、なんてな。


  そんなことを考えながら夕士はぐっすりと眠ってしまった。



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 鳥の鳴き声が聞こえる。眩しい。もう朝か。バイトに行く準備しないと。


  そんなことを考えながら体を起こそうと地面に手をつき違和感を覚える。


  ん?手に土の感触がするぞ?なんで俺地面に寝っ転がっているんだ?昨日はえーと、家に帰ってきて、、、あれ、俺寝てた?確かにバイトから帰ってきて疲れて横になったけどそのまま寝ちゃったかー。

 、、、結局なんで地面で寝てたんだ?ドッキリか?いやそれならどうやって家の中に入った?まずここはどこ?私はだれ?俺は、、、三谷夕士だ、それはちゃんと覚えてる。


  まだクエスチョンマークが渦巻いてるけどとりあえず起き上がるか。ふいにふと前を見ると目に入ったのは5メートルくらい先にトカゲ。でかいトカゲ。40センチぐらいの、しかも尻尾燃えてるし。あれ、見間違い?目をこすってもう一度よく見る。やっぱり尻尾燃えてる。しかもでかい。あれ、ここ日本じゃない?

 周りを見渡してみる。木とかもよく見るような木じゃないなブロッコリーみたいな木とかあるし。木にそんなに詳しくないけど。

 遠くの茂みがガサガサと揺れて中からからウサギが出てきた。何あのウサギ、角が生えてたんだけど。あっちには巨大な虫か?

 生き物もそうだし植物もそうだし、なんだかここはおかしい。

 あれ、もしかして⇒異世界転移?



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 あ…ありのまま 今起こっている事を話すぜ!


「家で寝たと思ったら異世界にいた。」


  な…何を言ってるのか、わからねーと思うがおれも何が起こっているのかわからねえ。

 ドッキリだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。

 だって見たこと動物いるもん、いっぱいいるもん。


  どうも三谷夕士です。いやー、正直言ってテンション上がってます。だって異世界だぜ?

 アニメとかゲームとかラノベとかでよく見るやつ。

 ほらRPGだとかで出てくるような世界ってことだろ?これはあれだろ、

 邪悪な魔王を倒すーとか邪神が復活したーとかで召喚されたやつだな、たぶん。

 いやー興奮しちゃうね、夕士さん困っちゃうなー「王様とかに頼まれて魔王倒してお姫様と結婚する」とか、そういう未来が待ってるかもなー。

 これ今俺森の中にいるけど長年、漫画やラノベで培ってきた勘では転移先が狂ったーとかで騎士隊が迎えに来るねこれは。

 花〇院の魂を賭けてもいいぜ。

 冗談はさておいて今の状況を確認しよう。

 家で寝た⇒目が覚めたら異世界?⇒今ココ ・・・うーん、意味わからん。

 今の服装は七分丈のズボンにTシャツの上に薄手のパーカー、足にはスニーカー。うん昨日の服装のままだな。特には変わったところはないかな。まあ誰かに召喚されたなら迎えに来てくれるだろ。

 ということでのんびりと誰かくるまで待ってますか。


 ・・・・一時間後


 ちっとも来ないな。それよりも異世界転移の定番だとステータス画面が見れるーだとか魔法をポイントで覚えるーだとかがあるけどできる気配がないな。

 最初にチート武器だとかを持っているのが異世界転移の定番だけど武器も防具も持ってない。チートスキル・・は分かんないな。時々死んだときに~みたいなのがあるけどさすがに試せないしな。


 ・・・・二時間後


  来ない。来ないぞ。三時間くらい待ってたけど一向に誰も来ない森の中だから見つけられないのか?

 いやそのくらい異世界なんだから魔法の力でどうにかなるだろう、たぶん。そうすると場所が悪いのか?

 それとも召喚じゃなくて偶然転移したとか?それなら迎えなんて来るはずないな。

 うーむ、一度移動してみるか。とりあえず日が昇っているうちに移動しよう。


  やっぱり異世界だな。日本には居ないような生物がいっぱいいるな。ほらあそこの生き物。魚、か?あれは手とか足生えてんだけど。きもちわるっ!キモザカナと勝手に命名しよう。他にも60センチ超えのミミズとかでっかい蛾とかモンスターっぽいのはいるけど中々近寄れそうな生き物は居ないしなー、ウサギっぽい奴も追うと逃げちゃうし。しかしこんな森だと「エント」だとか「ドリアード」みたいな生き物が居るのが定番だけどこの森にはいるんだろうか。あとは異世界の定番だとエルフの里とかさ。会ってみたいな、エルフ。


  そんなことを考えながらしばらく森の中を歩き続けた。


「しかし結構歩いたけど誰も居ないな。さっきからいるのは角の生えたウサギとか手足の生えた魚とかだもんなー。こうゆうところはやっぱり異世界に来たって感じがするな。でも見た感じRPGの雑魚キャラみたいだし。もしRPGならこの森は「始まりの森」みたいな感じなのかな。

 それにしても疲れた。どうしよう、もう騎士隊じゃなくてもいいから誰か来てくれー。」


  ユウシが呼びかけても返事はない。今、ユウシがいるこの森の名は【バルド大森林-深部-】。

 この世界の人々はこの広い森について口々にこう語る「バルド大森林には踏み入ってははいけない」と。

 語る理由はバルド大森林が多くの猛獣の住処であるからだ。もしもこの森の獣が市街地に群れて現れればその町の兵士が総出で対処にあたる、そんなとても危険な森の深くに現在夕士はいるのだ。

 そんなこともつゆ知らずユウシは、


「のども乾いてきたし川でも探すか。あのキモザカナもいるし、たぶん川とかもあるだろ。」


  耳を澄ますとわずかに川の音が聞こえるな。音をたどっていけば川があるかもしれないな。


「おー案外近くにあったな。そして思ったよりも小さな川だったな。」


  川岸に行き川の水を調べてみる。川幅が5メートルもない小さな川だけど水はとても澄んでいるな。


「これなら飲み水になりそうだな。」


  そうつぶやき手で川の水をすくう。なかなか冷たいな。


  ギョ・・ギョ・・


 何かの鳴き声が聞こえた。その鳴き声の主を確かめようと鳴き声の方を見ると、

 そこにはキモザカナが4、5匹並んで泳いでいた。平泳ぎで。うわー。


「やっぱり『キモ』ザカナだったな・・・っていうか「ギョ」っていう鳴き声なんだ・・・」


  少し川の水を飲む気が失せたが、とりあえずのどの渇きを潤し周りを見渡す。

今まではとくに危険なくここまで来れたけど、夜になるとまた夜行性の動物とかもいるだろうし、今のところ人に会えていない以上、

「決めた!ここらへんで野宿しよう。」

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