第62話 ささやかな抵抗の開始

目を覚ましたら太股だった。

大事な事なのでもう一度言います。

目を覚ましたら太股だった!


「アイダホポテート!」


意味不明な叫び声を上げながら飛び起きたナナシ。

どうやらルリエッタの膝枕でそのまま根落ちしてしまったらしく後ろの壁にもたれかかる様にして寝息を立てているルリエッタに気付いた。


「まさかアレからずっとこのまま・・・」


自分が疲れていたのと同様にルリエッタも疲れていただろう、なのに先に落ちてしまった自分の不甲斐なさを嘆きナナシはソッとルリエッタにシーツをかける。

そして、店主に「直ぐに戻ります」と一言残して宿を後にする・・・


「まずはアイツからにするか・・・」


そう言ってナナシが向かったのは四つん這いで歩いている兵士のところであった。

この町では死神3兄弟の次男『長兄』によって結界を貼り付けられ立てなくなった人が多数居る。

その人達を片っ端からナナシは解放するつもりだったのだ。


「どうかしたのか?」

「立ち上がりたいと思いませんか?」

「・・・無理だよ、今まで何人もそれに挑戦したがこの町で長兄に逆らった者は全員同じ様に・・・」


そう沈む兵士に向かってナナシは唱える。


「ファイアーボール!」

「なっなにを?!」


突如ナナシの周囲に現れる火の玉。

そして、それをナナシは掴んで兵士の背中に持っていく・・・

そう、昨日ナナシは長兄と戦った時に偶然発見したのだ。

ファイアーボールは他のナナシの詐欺魔法を発動させる時もその中に魔法を発動させる事でこの区でも効果を発揮できる事は理解していた。

それはつまり、ナナシの詐欺魔法ファイアーボールはその中に他の魔法を閉じ込める効果があるのだ!


「立ち上がってみて下さい」

「い、いやしかし・・・」

「俺を信じて」


ナナシの真剣な表情に気おされて兵士は実に二ヶ月振りに自らの足で立ち上がる・・・


「をを・・・をををっ?!立てる!?立てるぞ?!」

「良かったです。それではこれで」


そう言って喜ぶ兵士に小声で別れを告げてその場を去るナナシ。

まだ周囲に飛び回る残りのファイアーボールを無駄にしない為にナナシは次の被害者を探したのだ。

ナナシのファイアーボールはMPではなくHPを使用して発動させるので出来るだけ無駄遣いはしたくなかったのだ。


「アア・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」

「立てる・・・立てるんだ?!」

「奇跡だ!奇跡が起こった!」


肩甲骨町は朝から大賑わいであった。

3ヶ月前、世界が混ざってこの区が生まれて直ぐに長兄はこの町を恐怖で支配した。

逆らった者は攻撃が一切効かず、反撃で永遠に立ち上がる事が出来なくなるのだから逆らう者がいなくなるのは直ぐであった。

その結果、長兄はこの町を我が物として支配する事が出来たのだ。

解呪の闇魔法をこの区でも使える者は勿論居るのだがそれを使用しても長兄のアレはどうしようもなかったのだ。


「こっちも!こっちも頼む!」

「俺が先だ!」

「私もお願いします!」


ナナシは体力の続く限り延々とファイアーボールを使用して町の人を助けて回っていた。

そして、遂に・・・


「す、すみません・・・少し休憩しないとこれ以上は無理です・・・」

「「「「そ・・・そうですか・・・」」」」

「次は昼過ぎにまたここで皆さんを助けたいと思いますのでその時にまた」


そう言ってナナシはヨロヨロと宿へと戻っていく・・・

少しでも早く助けて欲しいと訴える者も勿論居るのだが、唯一解放が出来るナナシの機嫌を損なうのを恐れ別の者がそれを邪魔していた。

その甲斐あってかなり好調なペースで人々を解放できたのだ。

その後、宿に戻ったナナシは朝食を食べて仮眠を取り、昼食を頂いてから再びこの場に戻ってきた。


「救世主様!」

「「「「救世主様!!!!」」」」


そこにはナナシを待つ人々が集まっていた。

ざっと100人以上は見えるその光景にナナシはフラッと意識が遠くなりそうになるが覚悟を決めて昼の分の解放を行なう!


「ファイアーボール!」

「をををっ!?」

「助かったぁああ!!」

「ありがたやありがたや!」


ナナシが唱えている呪文名で何故自分達が解放されているのか全く分からないが助かるのでどうでも良いと思う住民達。

そして、ナナシのこの行為は勿論人伝いに伝わり長兄の元へと流れていた。


「なんやと!?俺の拘束結界が次々と解除されている?!」

「はっ、なんでも裏通りの宿の近くの広場で朝から何人もが解放されているという話です」


配下のスケルトンから流れてきた情報に長兄が思い浮かべるのは勿論ナナシの存在。

そう、ナナシは長兄と戦っている時に拘束結界をその場で見事破壊していたのだ。

それを思い出してむき出しの歯を合わせて歯軋りを行なう。


「くそっそんな事されたらワシの野望が!」


そう怒りながらももしかしたらナナシが自分をおびき出そうとしている可能性を考え外へは出ない長兄。

全てはナナシと嵐の計画通りであった。

驚くべきは嵐の観測者としての能力であろう、ナナシを中心とした映像の他に敵対している者を1名ロックオンしてカメラを追わせる事が出来たのである。

良くある敵対組織の会議シーンが視聴者に覗き見されているのと同じ事が出来ていたのだ。

そして、これにより長兄が潜伏している屋敷の場所と現在の状況が逐一理解できていたのだ。

それはつまり、嵐によってリルがどんな状態にあるのかナナシに筒抜けと言う事でもあった。


そうしてこの日が終わりナナシは疲れ切った状態で宿に1人待機させていたルリエッタに膝枕をしてもらう。

この時に相手側の状況を確認しナナシはこの日もそのまま寝落ちするのだが・・・


『ヤバイ!ナナシ起きろ!長兄が動き出したぞ!』

相手の映像を逐一確認していた嵐からの念話で2人は飛び起きる!


「さぁ、反撃の開始だ!ルリエッタやるぞ!」

「うん!リルちゃん絶対に助けようね!」

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