第40話 目覚め
「いや~この行列がラーメンの味を高めているのは確かだよね!」
長い長い行列の途中に俺は居た。
友人が横に居て一緒に話をしているのだがその顔はモヤが掛かったようにハッキリとしない。
話の内容から俺はラーメン屋の行列に並んでいるようであった。
「しかし、この1時間を何かに使えたらもっと良いんだがな」
「なら勉強でもするか?でもラーメン屋に並んで勉強とか意味わかんねぇよな」
どうでもいい会話が続き空腹はどんどん高まっていく・・・
この空腹が最高の調味料になるのだ。
そして、もう直ぐ自分の番になるという時にそれは突如起こった。
「な、なんだあれ?!人か?!飛行機か?!いや、恐怖の大魔王だ!」
空からゆっくりと降りてくる巨大な人影。
誰もがそれを見上げている時に俺は気付いてしまった。
ここは違う・・・
俺の居るべき場所じゃない。
なにかとても大変な事に巻き込まれていた筈だ。
「お・・・れ・・・の・・・なは・・・・」
自らの思考と巨大な人影が発する声がシンクロする・・・
その波長が合わさると同時に声が響き渡った。
「「ナナシ」」
その瞬間世界は光の中に消え去った。
「う・・・うぅ・・・」
体中を倦怠感が襲う・・・
ゆっくりと目を開くと見えてきたのは布の天井・・・
何かに運ばれているようでガタガタと体が揺れる・・・
「くさい・・・」
意識が覚醒すると共に鼻を刺す異臭に気が付いた。
首だけ横に向いてそれを見て声を失った!
「なん・・・だこれ・・・」
そこに在ったのはボロボロの人々であった。
手足が壊死している子供。
顔が抉れて死に掛けている男。
幻覚を見ているのか泡を吹きながら痙攣している女。
様々な人間が数人、自分と並べて寝かされていたのだ。
「ぐっ・・・」
体を起こそうとして全身に痛みを感じて顔を歪める。
だがその痛みが意識を覚醒させ記憶を呼び戻し始めた・・・
「そうか・・・俺はあのゴブリンを・・・」
そして、倒れている人の中にその姿を見つけた。
「グ・・・グレース・・・」
その姿は痛々しいモノであった。
左目は抉れ右腕は紫色に変色し変な方向に曲がっているのだ。
アナザーゴブリンとの死闘の傷では明らかに無かった。
「な・・・なにが・・・」
物凄く重い体を動かそうとするとそれに気が付いた。
手に木の手錠が付けられていたのだ。
足には固定具もある・・・
「ぐ・・・なんだ・・・これ・・・」
身動きが取れない事に気が付いたナナシだがグレースの胸が僅かに上下しているのを確認して息があるのにとりあえず落ち着く事にした。
そして、状況を落ち着いて認識する・・・
自分が居るのが人が横に並べられるくらい大きな箱の中に居て、それを何かが引っ張って動かしている・・・
馬車?だが蹄の音ではないので多分違う。
そして、ここに居るのは誰も彼もが意識が無い状態である。
「こんな状態の人間をどうするつもりなんだろうか・・・」
近くに寝かされている人達の姿を見ればどこかおかしな所が在るのは一目瞭然である。
となれば敢えてそういう人が集められているのは間違いない。
とりあえずこの手錠と足枷をどうにかしなければ・・・
「ってあれっ?」
意識を集中して何かをしようとするのだが無意識下の認識が違和感を覚えて行動が出来ない。
上手く伝えることが出来ないが知らない端末を触ると操作方法が分からないみたいな感覚を覚えた。
「なにか変だぞ?」
自らの手を見詰め魔法を使おうとするのだが魔力は練れるが使い方が分からないのだ。
そして、それにも気付いた。
(嵐?嵐?応答してくれ嵐?)
念話の様な物を使って連絡が取れていた筈の嵐とも連絡が取れない、いや、取れないのではなくそういったものが無い様な感覚なのだ。
そして、色々と目を閉じて確かめてそれに気付いた。
「ステータス開示」
自らのステータスを見る方法が違っていたのだ。
そして、その内容にナナシは唖然とする・・・
「レベル・・・1だと・・・?」
自らのステータスは元々低かったので気にしていないがレベルが1になっていたのだ。
その時、乗っていた物の動きが止まった。
少しして1人、年配の女性が入ってきた。
「おや、目が覚めたのかい?ずっと寝たきりだと思ってたからこれは良い広いものだよヒッヒッヒッ・・・」
「おぉっ?!意識あるヤツが居たのか?!それは素晴らしい!」
続いて入ってきた全身黒い大男、人間とはとても思えないその肌の黒さはどこからが髪なのか分からない程であった。
「よく聞きな、あたし達はお前さんを拾った。だからお前は私達の奴隷だ」
「しっかり働けよ、でないとここに居るやつらみたいに彼らに回収されるからな」
そう言って続いて入ってきたのは動く骸骨であった。
そいつ等がグレースに手を伸ばそうとしてナナシは慌てて止めようとするが手足が拘束されていて身動きが取れない。
「あぁん?なんだこいつはお前の女だったのか?でも残念だな、もう二度と目覚める事は無いよ」
「殆どの人間が植物状態から回復の兆しは無いからな、まぁ諦めると良い」
「ま、まて・・・待ってくれ・・・」
そう言うナナシを無視して骸骨たちは次々と寝かされていた人々を回収していく。
そして、最後に残されたナナシを無視して骸骨は年配の女性に金銭を手渡し去っていった。
「あいつらも直ぐに別の種族として生まれ変わるだろうから心配は要らないよ」
「どういう・・・事ですか?」
「ははっ・・・人間じゃなくなるって事だよ」
その言葉に唖然とするナナシ・・・
だが身動きが取れない状況では助けに行く事すらも不可能である。
「さて、それじゃあお前さんは奴隷として町で売る事になったからもう暫く付き合ってもらうよ」
「なに、寝てれば直ぐに到着するさ」
「ふざ・・・けるな!」
ナナシは2人に対して怒りを露にするが全くその態度に反応を示さない2人は鼻で笑いながら名乗った。
「なんにしても、もう人間の時代は終わりなんだよ・・・あとどれくらい生き残りが居るんだろうね」
「ポポ達ももう人間じゃ無いからな」
そう言う二人は少し悲しそうな表情を浮かべた。
2人はどこからどう見ても人間にしか見えないのだが・・・
「次の町まで日数が掛かるから一応自己紹介しておこうかね、アタシはガガだ」
「ポポはポポ、お前の様な生き残ってる意識の無い人間を拾って別種族に売る奴隷商だ」
年配の女性ガガと真っ黒のポポは名乗りそれに合わせてナナシが名乗るのを待つのだが・・・
「れ・・・レディーガガ?とミスターポポ?だ・・・と・・・」
ナナシはその名前に絶句するだけで名乗りはしないのであった。
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