第32話 アデルとグレース、七志の元へ
『ゴブリン撃退!』
動画が上がると同時に物凄いアクセスに嵐はニヤける。
コメント欄には「合成だ」「プラズマだ」「イカサマだ」と様々な事が書き込まれていた。
特にゴブリンの姿が余りにも良く出来ていたというのもあり様々な憶測がネットを巡り動画再生数はうなぎ登りで上昇していく。
しかし、嵐はパソコンで七志が新しく覚えた『ヒール』の説明を読んで首を傾げていた。
『細胞活性化』
確かに回復魔法の効果は自己治癒力を高めて自然に治るのを補助するのが基本である。
それは七志がルルから学んだ内容にもあった。
だがファイアの前例もあり嵐はそのままには受け取らなかった。
そして、七志の時間を再び動かす・・・
「ファイア!」
七志はアデルに行なったようにアントンの全身を魔法の火で包む。
その火は時間を焼却し過去の状態へ戻す。
だがもし死んでしまえば肉体は戻っても魂は一定時間で輪廻の輪に戻る。
七志は祈りを込めながらファイアを出し続ける。
そして、アントンの左腕の矢傷が消えるのを見計らって魔法を解除する。
幸いなのはルナはこの場に居らずアントンは意識を失っている、なので七志のファイアの効果はともかく収納を使ったゴブリンを撃退した攻撃に付いては説明する訳にはいかないので助かっていた。
収納魔法で収納された物は何も無い空間に出現させる事は出来ても先ほどの様な使い方は出来ないのだ。
七志がゴブリンを撃退するのに使った方法は嵐のパソコン内のフォルダに収納されていた1本の剣で在る。
それをゴブリンの体が存在する場所に出現させたのだ。
通常の収納魔法ではその場所に固形物が在ったりすると出す事が出来ないのだが七志の収納はそこに割り込むように出現させる事が出来る。
つまり、体内に出現させればそこは切断されるのである。
「うっ・・・こ・・・ここは・・・」
「アントン無事か?」
「な・・・な・・・し?・・・ナナシ?!あれっ?ゴブリンは?それにこの左腕・・・」
七志の顔を見て意識を取り戻したアントンは飛び起きる。
最後の記憶がルナを逃がして七志を庇った所までしか残っておらず自身の左腕の痛みも無くなっていた。
常識では考えられない状況に驚きを隠せない。
「うん、なんかさ。俺のファイアは回復魔法みたいなんだ」
「・・・はっ?」
「まぁとりあえずアントンが無事で良かったよ」
「意味が分からないんだが・・・ゴブリンは?」
「これで撃退した」
そう言って七志は剣を出現させて見せる。
収納魔法から取り出したようにしか見えないその仕草であったがアントンは現状的に七志を問い詰めている場合ではないと判断し言いたい事を飲み込んだ。
「とりあえず戻ろう、帰ったら詳しく話してもらうからな」
「あぁ、そうだな」
何処まで話すべきか悩みながらアントンと一緒に七志は森の中を進む。
だが直ぐにアントンが足を止めて木の影に身を隠しそれに七志も続く。
彼らの進もうとしている先にゴブリンが視界に入るだけで8匹も居たのだ。
(くそっどういう事なんだ?まさか囲まれているのか?)
アントンの予想通りであった。
七志が撃退した事が別のゴブリンに報告され二人は包囲されていたのだ。
その頃、運よくルナは森の中をゴブリンに見つからないように走り抜けており直ぐ近くのアインの街に戻ろうとしていた。
そして、森を目指してアインの街を出発しようとしている二人の女性と出会う。
「あら?アナタ森から出てきたの?」
「ナナシは?!私のナナシを見なかった?」
赤い鎧を着た女性と大きな弓を背中にしょった銀髪の女狩人がルナに問いかけていた。
銀髪の女狩人の口から『ナナシ』の名前を聞きルナは直ぐに頷き答える。
「森の中でゴブリン達に襲われて、友達が怪我をしているんです!助けて下さい」
「ナナシが怪我をしたのかい?!」
「落ち着けアデル、お嬢さん友達は何人だい?」
「二人です。ナナシ君とアントン君でアントン君がゴブリンに矢を受けて・・・」
「分かった。私たちは森へ向かう、あんたはそのまま冒険者ギルドの方へ行って職員に話をしてきてくれ」
「で・・・でも・・・」
「私たちに任せなって」
「そうだ。私のナナシを傷つけるゴブリンなんて八つ裂きにして生き埋めにしてやる」
「アデル、支離滅裂だぞ」
そんな漫才みたいな会話をしながら二人は森の中へ入って行く。
ルナはその二人の自分よりも遥か高みにいる力を感じ取り硬直していたが直ぐに我に返り、言われた通り冒険者ギルドへ向かって駆け出した。
(アントン、ナナシ・・・死なないで・・・)
「しかし、アデルが惚れる男ね~一体どんなヤツか楽しみだわ」
「グレース、ナナシは渡さないよ」
「ははっ最低でも私より強い男で無いと私は心を動かされないよ」
二人は森の中を周囲に警戒しながら歩いて行く・・・
森に入って直ぐに数匹のゴブリンを見つけ次第殺していた。
遠くのゴブリンはアデルの矢が一撃でゴブリンの頭部を貫き、近くに現われたゴブリンは女剣士が一撃で切り殺していた。
二人にとってゴブリン程度は相手になって居なかったのだが・・・
「グレース!」
「あぁ、この気配・・・居るぞ、ゴブリンの上位種だ」
二人は前方から感じる強力な気配を察知していた。
そして、その方向へ進むとゴブリン達に包囲されている二人の子供が視界に入った。
「ナナシ?!」
「はっ?あの子供がか?」
ゴブリンに気付かれないように背後から奇襲をする筈だったのがアデルの七志を見つけた時の声に加え、グレースの気の抜けた突っ込みに数十匹のゴブリンが一斉に二人の方へ振り向く。
「あちゃ~」
「まぁやるっきゃないっしょ」
言ってる内容は気が抜けそうだが目にも止まらぬ速さで二人とも次の瞬間には1匹ずつゴブリンを始末していた。
流れる様に矢を構えて飛ばした矢は遠くのゴブリンの右目を貫き即死させ、抜刀と共に切り上げた剣で目の前のゴブリンの首を刎ねていたのだ。
「アデルさん?!」
「ダーリン助けに来たよ!」
「おいナナシ、あのお姉さんお前の事ダーリンって言ってるよな?」
「・・・聞かないでくれ」
緊迫した状況にも関わらずどうにも気の抜ける戦場であった。
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